あらすじ
英国でこの世を去った大伯母・玉青から、高級住宅街にある屋敷「十六夜荘」を遺された雄哉。思わぬ遺産に飛びつくが、大伯母は面識のない自分に、なぜこの屋敷を託したのか? 遺産を受け取るため、親族の中で異端視されていた大伯母について調べるうちに、「十六夜荘」にこめられた大伯母の想いと、そして「遺産」の真の姿を知ることになり――。誰も信じず仕事だけをしてきた雄哉に託された「想い」とは――? 文庫化を望む声多数! 古内一絵の人気作が登場!
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Posted by ブクログ
『百年の子』を読んでからこれを読んだら、過去と現在を交互に描いて、主人公が(読者が)知らなかったことを読み解いていく方式が同じだった。
雄哉が生きる現代と、玉青の生きる昭和、戦争の時代がフラッシュバックしながら、物語が進む。
雄哉が疑問に思っていることや、困っていることが、玉青の時代にスイッチされると理解できるようになっているので、混乱することはない。
もちろん、物語の素晴らしさがその手法によって損なわれることはない。古内さんならではの、魅力あふれる個性的な人たちが次々と現れて、ドラマを作っていく。
以下、ネタバレあり。注意。
玉青と雄哉が出会うこともなければ、雄哉が玉青の人生を知ることもないまま、物語のラストで意外な人物が現れる。
安心した。この人物が大叔母のことを知る限り雄哉に語ってくれるだろうから。
安易に恋愛で幕引きしたりしないところ、雄哉の人生を決めつけない終わり方にも好感が持てた。
Posted by ブクログ
前進することだけを考えてきた雄哉が、初めて挫折を味わったことで見えてきた、過去に与えられてきた、いろいろなもの。
戦争という苛酷な状況の中、自らを「身の程知らず」と評した玉青が決して失わず、手放さなかったもの。
まるで目の前で展開されているかのように鮮やかに描かれていた。
戦中~戦後の、目を逸らしたくなるような光景は、その時代に生きた人の弱さや傲慢さをまざまざとつきつけられる。
自分が知っている知識と合わせて考えれば、たしかにそうだったのだろう。でも、そうならざるを得ない状況にあったのも想像にかたくない。
その中で自分の信念を持ち続けられたひとは少なかったと多くはなかったと思う。
兄の一鶴や若き画家たちと生きて再会できるんじゃないかと期待する気持ちもあったけれど、戦争の中ではそれこそファンタジーだ。