【感想・ネタバレ】山の音のレビュー

あらすじ

会社社長の尾形信吾は、「山の音」を聞いて以来、死への恐怖に憑りつかれていた――。日本の家の閉塞感と老人の老い、そして死への恐怖を描く。戦後文学の最高峰に位する名作。

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※本作品は電子書籍化にあたり、紙本に含まれていた次の要素を削除しております。
〈解説「川端康成──人と文学 長谷川 泉」「作品解説 瀬沼 茂樹」〉

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

不倫や堕胎など男女のドロっとした愛憎劇になるような話を、老境に入った主人公が儚い息子の嫁に抱く淡い想いや古都鎌倉の自然の移り変わりを通して、そこはかとなく様式美さえ感じさせる物語へと昇華させたその芸術性の高さは戦後日本文学の一つの到達点と言っていい。

0
2025年10月30日

Posted by ブクログ

川端康成、細心の美的節度によって紡がれた彼の文章は目をさっと走らせるだけでもうっとり夢心地に。惚けた後に、我に返ってはページを捲り戻してきちんと読み込むことを繰り返した。彼の天才的な言語センスは、日本の伝統古典と西洋の韻を踏まない散文詩の見事な融合で成り立っていると知ったときはなるほど、と思った。

金色の雪煙、みたいな自分ではなかなか思いつきそうにない美しい言葉はメモしたいな。彼の作品をもっと読みたい。

0
2020年11月04日

Posted by ブクログ

老人と、その息子の嫁が、プラトニックな恋をする
といったような話
老人は、かつて好きだった女(義理の姉)の面影を嫁に重ねており
嫁は嫁で、ファザコンの気を老人に向けているらしい

子供たちは、それぞれ夫婦生活に問題を抱えている
兄の修一は外に女を作っており
また妹の房子は夫と別居して
二人の孫と共に実家に帰ってきている
老いたりとはいえ、まだ現役で働いている老人は
どうしても房子夫婦の問題に手が回せず
修一夫婦のことばかりに気をとられてしまうのだが
それはあるいは要するに
実の娘より嫁の菊子が可愛いから依怙贔屓してるだけ
なのかもしれない
そんな自分に老醜を感じて、嫌な気持になることはあっても
老人がその姿勢を変えることはなかった

そうこうするうち
房子の夫である相原が、よその女と心中事件をおこして
新聞に載ってしまう
さらには、修一の不倫相手が妊娠したとの情報を知らされて
老人は重苦しい不安にとらわれる
一家の大黒柱として
なにもかも独りで抱え込もうとしすぎるようでもある
しかし、友人に頼まれて高額の能面を引き取ったりするぐらいには
経済的余裕もあるのだ
それなのに、追い込まれる感じになってしまうのはなぜだろうか
せっかく戦争の時代を切り抜けたというのに
生き延びた罪悪感から
退廃と不幸の道へと突き進んでいく若者たちのありさまが
恐ろしいのかもしれない
だが裏を返せば
それは民主主義的に自立していく個人の群れの姿でもあった

だからとばかりも言い切れないが
問題に一区切りがついたころ
老人は、ファミリーロマンスからの脱却として
菊子にも自立を促していくのだった
つまり親と息子夫婦で世帯を分けようというわけだ
それは、プライバシー筒抜けの日本家屋から
若い夫婦を解放したい(されたい)という思いであると同時に
「山の音」を聞いてしまった老人にとっては
ひとつの死に支度でもあった
縁起でもない

1
2021年07月27日

Posted by ブクログ

初めて読んだ川端康成の小説だった。最初に読んだときはそうでもなかったのだけれども、同期がこれで卒論を書く様子を1年間見ていたから愛着が湧いてしまった。菊子のワンピースがだらりと干してあるところの強烈さが好き。あと、菊慈童の面のシーン。各章タイトルが美しくて眺めているだけでも楽しい。

0
2024年02月14日

Posted by ブクログ

今の時代とは違う
価値観や文化

よくも悪くも
日本人の家族関係が
ウエットなものから
ドライなものに
変わったなぁと
しみじみ思った

現代だったら
スパーンと
離婚とか別居とかに
なりそう

機微も情緒もないか...

鈴虫ブックスにて購入

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2023年05月31日

Posted by ブクログ

読み始めたときは登場人物のことも、状況もわからないせいで何が言いたいのか分からない情景描写ばかりが続いて面白くないーーー!と思ったけど、話が進んできて展開がどんどん先へ先へと行く所まで読むと逆にそれが面白いと思った。
慣れてきたのか、読み解けるようになったのかは分からないけども、時間置いてまたじっくり読み直したいなと思うくらいには面白かった。

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2023年05月12日

Posted by ブクログ

思慮深い老齢の信吾が抱える家族の問題を描く。このストーリーなら嫁の保子が主人公となりそうなところだが、円熟した男性像に好感が持てる。老いとその年齢が直面する苦悩だけなら読み苦しい話だが、息子の嫁である菊子との淡い恋絡みが救いです。
とてもリアルな描写はまるで観察しながら書いたよう。信吾の深層心理を夢で描いているところは印象的。女性にだらしのない息子修一と子供二人を抱えて出戻りしつつも遠慮のない娘房子、不出来な子供達にいらいらしながらも多かれ少なかれこのような悩みを抱えるのが人の世かとしみじみ思う。

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2018年12月01日

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嫁の菊子に恋しているかのような信吾に嫌悪を感じました。昔の嫁はこんなふうに家に尽くさなければならなかったのだなあと菊子が気の毒になりました。

0
2025年02月24日

Posted by ブクログ

古き悪き日本。

恐らくそのせいで、
次の世代は欧米志向で自由に憧れたのでしょう。
そして続く現代の親世代は、その反動で冷静に。

主人公はおじいちゃん。
共感するには早過ぎかと思ったが、
女性は男性より早く盛りの過ぎたのを実感するものである。
30も過ぎればちやほやされなくなるし、
体力もあっという間に落ちる。

老年とはこんなものか、と
想像するには意外と難くなかった。

生々しく赤裸々に書かれた主人公の感情や執着が、期限切れの酸っぱさのまとわりつくほろ苦さ。
少し癖になる。
美味ではないが、晩酌のアテには向いている。

菊子だけが花だ。
丁寧に描写されているのに、
私の中に具体的な顔立ちが見えていないのが不思議だ。

ただ爽やかでまだ可愛らしさの残る、
好ましい女性像はしっかりと浮かんでいる。
読者がそれぞれに、
自分好みの美人顔を当てられる描き方になっていたのだろうか?面白い。

目の前の出来事に老年の記憶の断片や、
いつまでも忘れられない紅葉や義姉を散りばめた彼なりの思いを見せながら、
日常は過ぎ季節が巡る。

筆で色を重ねていくうちに、
引いていた輪郭もぼやけて陰影ができ、
色味は暗くなっていく反面、
味わいは深まる油絵のような作品だと感じた。

0
2022年12月10日

Posted by ブクログ

日本の家族という柵を良くも悪くも描いている。四季の移ろいや日常的にみられる生活風景や職場の何気ない描写も秀逸。日本の美を追い求める川端文学の真骨頂か。初老の儚い恋心も主テーマであるが、老いていく肉体については淡々と綴っていき焦りとか未練とかは嘆かない。海外の作品とはここが違う。やはり日本の美か!
AVのテーマの原点はここか、と思うところもあるが、よりエロティックで官能的と感じさせる描写はさすが。

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2022年09月03日

Posted by ブクログ

死期の近付いた老人が「山の音」を聞くあらすじから恐ろしいストーリーを連想していたが、戦後のとある一家の日々が淡々と綴られているだけでした。
盛り上がりは特になく、家族の葛藤や登場人物の機微が繊細に描かれている。鎌倉の四季と共に流れていくストーリーが美しい。

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2020年09月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ストーリーのある小説を読み慣れてるせいか難しかった。
日常のひとコマを文章にした感じ。
ストーリーを追う読み方だとはて?、となってしまうんだろう。

家族でも好きとか大切、だけじゃない、ムッとしたり、どうなんだと叫びたくなったり、抱く感情は複雑だよね、と思う。

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2019年09月03日

Posted by ブクログ

老年期の死への恐怖と父であり男であることの苦悩が穏やかに描かれていました。
かつて憧れた女性は亡くなりその妹と結婚したものの、心の奥底では憧れの幻影を求め続け、息子の嫁の愛らしさに心和ませる主人公の信吾。
のらりくらりと平和に暮らしているつもりでも何処かで鳴っている家庭内の不協和音に恐れ、父である故の決断や義父としての心遣い、山の音や不思議な夢や突然ネクタイの結び方を忘れてしまう出来事など近付く死を感じて切なくなりました。
義父と嫁の厭らしい不幸な恋愛話などではなく、随所に四季と花の描写もあり穏やかで美しい作品でした。

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2018年10月15日

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