あらすじ
第二次大戦下、義弟との不倫に疲れ仏印に渡ったゆき子は、農林研究所員富岡と出会う。様々な出来事を乗り越え、二人は屋久島へと辿り着いた――。終戦後、激動の日本で漂うように恋をした、男と女の物語。
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※本作品は電子書籍化にあたり、紙本に含まれていた次の要素を削除しております。
<解説 板垣 直子>
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Posted by ブクログ
4分の1まで読み進めた時点で、「不倫話としてあるあるな話だな」と話の展開にどん詰まり感を感じながらも、この先物語はどう転じていくのだろうと気になってしまい読み進めてしまった。
富岡がクズすぎる。クズすぎると思えるくらい富岡の心情変化が丁寧に描かれていた。
富岡と関係を持った女は誰一人として幸せにならず死を迎える。ただ、ゆき子が富岡と心中しなくてよかった。なぜ男は自分の世界を終わらせる方法を、女を殺すことで果たそうとするのだろう。女を己の死の道具にするのだろう。
ぜひ富岡には、すべての女に死なれ置いていかれ、虚しさの中で生き長らえて老いていってもらいたいと思った。
このクズさは、敗戦直後の虚脱感、喪失感という言葉で言い表せられるものなのだろうか?
欲が発火しているみたいな一文がところどころに散りばめられていて、その緩急に心が抉られるような思いがした。
「かうした荒れた旅館の一室で、秘密な女と逢つてゐる事よりも、家の茶の間で、しゆんしゆんと湯のたぎる音をきいてい邦子のそばで新聞に眼をとほしてゐる時の方が愉しいと思へた。何と云ふ事もなく、何故、ゆき子は仏印で死んでくれなかったのだらうと、怖ろしい事も考へるのだつた。
すべて人間の心のなかには、どんな時にも、二つの祈願が同時に存在してゐて、一つはサタンに向ふと云ふ心理があるものだと、富岡は何かで読んだ記憶があつた。」
「息苦しい厠に蹲踞み、富岡は、両の掌に、がくりと顔を埋めてい子供のやうに、をえつして哭いた。人間はいつたい何であらうか。何者であらうとしてゐるのだらうか・・・。色々な過程を経て、人間は、素気なく、此の世から消えて行く。一列に神の子であり、また一列に悪魔の仲間である。」