あらすじ
「俺の父親、ヒトゴロシなんだ」毎日が黄金に輝いていたあの夏、同級生に何が起こったのか――少女失踪事件を捜査する刑事・相馬は、現場で奇妙な印を発見し、23年前の苦い記憶を蘇らせる。台風一過の翌日、川岸にランドセルを置いたまま、親友だった同級生は消えた。流木に不思議な印を残して……。少年はどこに消えたのか? 印の意味は? やがて相馬の前に恐るべき罪が浮上してくる。司法の信を問う傑作ミステリー。日本推理作家協会賞候補作。
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Posted by ブクログ
【毎日が黄金に輝いていた12歳の夏、少年は川辺の流木に奇妙な印を残して忽然と姿を消した。23年後、刑事となった相馬は、少女失踪事件の現場で同じ印を発見する。相馬の胸に消えた親友の言葉が蘇る。「俺の親父、ヒトゴロシなんだ」あの夏、本当は何が起こっていたのか。人が犯した罪は、正しく裁かれ、正しく償われるのか?司法の信を問う傑作ミステリ。日本推理作家協会賞候補作。】
「石段坂の降り口に着くと、尚も拓もまだ来ていなかった。クマゼミが空気を刻むように鳴くのを聞きながら、僕は一番上の段に腰を下ろした。照りつける朝の陽射しは早くも昼の暑さを予感させた。辺りを見渡すと、そこここに一昨日の台風の痕跡が残っていた。家々の屋根のアンテナはなぎ倒され、骨だけになったビニール傘の残骸か道端に散らばっている。石段坂の途中には青々とし葉を茂らせたまま無惨に折れたポプラの枝が転がっていた。僕は、ふと台風の夜の尚のことを思い出して不安になった。黒いクーペの屋根に上に立った尚の姿が、僕の頭の内側に写真のように貼りついている。あんな尚を見たのは初めてだった。あの夜、僕は初めて尚が何かに苦しんでいるんじゃないかと思った。」
「尚はこの町できっと長く暮らせると思った。弁当が出来上がり、親爺に代金を払って弁当を受け取った。そして、二人分の唐揚げ弁当の袋を提げて来た道を帰りかけた時、拓が「尚」と小声で呼んでTシャツの裾を引っ張った。「あれ見て」と、拓が目で後方を指した。振り返って見ると、一人の少年が立っていた。尚と同じくらいの少年で、少し驚いた表情で尚たちの方を見ていた。尚も引っ越して以来、坂ノ上地区で同じ年頃の子供を見たことがなかったのでちょっと驚いた。この辺りに住んでいるんだろうか。もしかしたら、二学期から行く学校にあの子も通っているんだろうか。少年は驚きにわずかに口を開け、一本気そうな目で真っ直ぐにこちらを見ている。遠くに高校野球の実況とクマゼミの声が聞こえていた。尚は、友達になれるといいなと思った。」
水沢家の全員があまりにも報われなくて読んでいて辛くなる場面がたくさんあった。日本における容疑者への取調べは、現代でも本に書かれているようなことが日常的に行われているのだろうか?そうだとしたら本当に恐ろしいと思った。
2026.9.8
Posted by ブクログ
冤罪とそれに巻き込まれた家族の話。「23年前にいなくなった子どもを探してほしい」依頼を出した時点で母の香苗は尚が生きていること、そしてとんでもないことをしているのではないかと気づいていたとは…辛すぎる…。自分の死期が近づいても母の子を思う気持ちは永遠だなと泣けた。
拓は当時8歳。何も知らない無邪気で逞しい子どもだった。何も知らないから、尚が危ない目にあってる守らなきゃ!という気持ちだけで、以前尚に助けてもらった時と同じやり方で近づけさせることなく大人をやっつけた。でもそれが自分たちの父親だった。しかも冤罪だということが証明されて自分たちに会いに来ていたときに…。辛すぎるし、展開に容赦がない…。
そして尚は、父を無自覚に殺してしまった弟のこと、警察から疑われてしまっている母香苗を守るために、最終的には自分が「存在しなくなる」ことを選ぶ。12歳でそんな悲しい選択できんて…。尚が早くに大人になりすぎたこと、頭が良かったこと、思い切りの良さと行動力と、弟の父がわりとして、母にとって頼れる存在として、生きていたことが仇となって、自らが消えて罪をなかったことにした。本当は船を見て帰ってくるはずだったのに、なんて時に台風来てるんだよもう少し船待ってくれよ…泣
尚と拓と一夏を過ごした相馬は刑事として尚を探し、最後の殺人を止めた。楽しい夏の思い出に友達の失踪という出来事が加わり、この小説の中で描かれる23年前の夏が、周りの雰囲気も会話も今と対比してより鮮やかで夢心地に感じた。いなくなる日が近づくにつれて、真相が分かるにつれて、どこに救いを求めればよかったのか考えて苦しくなった。警察という組織がこの一家にとって敵だったために悲劇は起こった。冤罪は怖い。1番の被害者は間違えて逮捕された人だけれど、その家族が人殺しの家族として生きてきた時間に対しての対価は、誰が払うのだろう。尚が生きててよかったけど本当に辛い。寝込みそう。
Posted by ブクログ
冤罪に真正面から向き合う本作は、見えたない闇に向き合う作品。冤罪認定をされた家族は、どこまでも悲惨で、真実をちゃんと追究する捜査が行われる世であってほしいと思った。
Posted by ブクログ
美少女誘拐事件が発生。そこに残されたのは23年前の失踪事件と同じ印。
時を同じくし、前作でも登場した鑓水のところに、失踪した少年を探してほしいという、少年の母からの依頼がくる。
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太田愛さんの作品第二弾。第一弾では巨大組織の闇、本作では冤罪を通じた国の司法制度の闇に挑んでいる。ミステリーを通して描くのは巨大権力に対する風刺か。
失踪した男の子が実は生きている、はよくある話として、辿ってきた、そしてその後たどる境遇が悲しすぎる。
冤罪の父、それに翻弄される美しい母、その死に関わってしまった弟、それを庇うためにわずか12歳にして犠牲になることを選択する兄。
命をかけて証明しようとするこの国の闇、しかし世間はそれでは変わらない…そんな無慈悲さがあるのは前作同様。
最後にスカッとなる展開ではない。じわっと読者に投げかける終わり方。
全体的にノスタルジックな匂いのする、幻夏というタイトルにふさわしい雰囲気の作品。
題材が面白く、続きが気になり、1日で読み切ってしまった。寝不足。