あらすじ
靴職人を志す高校生・秋月孝雄(あきづきたかお)はある雨の朝、
学校をさぼり、日本庭園で靴のスケッチを描いていた。
そこで出会った謎めいた年上の女性、ユキノ。
やがて二人は約束もないまま雨の日だけの逢瀬を重ねるようになり、
心を通わせていくが、梅雨は明けようとしていた……
思春期ゆえの内面の機微を繊細に描き出すことで、
主人公・孝雄(たかお)の心情に迫る加納新太版ノベライズ登場!
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Posted by ブクログ
「自分しか知らない」「二人だけが知っている」そういう他人に共感されない時間を過ごすこともまた、青春である。
若者ゆえに、孤独を恐れて、他者と共感することに必死で、「ウェーイ!いつメンサイコーかよ!」と叫ぶ。誰でもできる「おすすめ」を手当たり次第に経験して、他人の価値観で自分を塗り固めて大人になっていく。そういう社交的な若者には到底なれない。そういう若者の粋な話。
閉鎖空間。そういうテーマがありそうなおはなし。
少年は満員電車という人にあふれる閉鎖空間に吐き気を催す。
少年は皆で同じことをさせられる、自分の興味ないことを強いられる学校という閉鎖空間が嫌いだ。
少年は他人が理解できないような趣味を持ち、革靴に興味津々で、せまい団地の閉鎖空間で日夜シコシコと靴を磨いている。
少年は友達もいるしバイトでも活躍してるし案外社交的で、ペルソナを被って対人関係を演じている。
少年は入場ゲートをくぐらないと入れない公園を見つけた。雨の日にしか行かないから東屋からは出られない。この閉鎖空間のことは自分しか知らない。家族も学校の友人も先生も、誰にも知られていない。いや、自分とあの人、二人だけしか知らない。
この他人にはわかってもらえない経験をしたって言うことが、少年にとって人生の財産になる。
自分しか味わっていない、自分たちしか経験していないような思い出。そういうオリジナルな記憶を、私たちはどれだけ持っているだろう。