【感想・ネタバレ】ビニール傘のレビュー

あらすじ

侘しさ、人恋しさ、明日をも知れぬ不安感。大阪の片隅で暮らす、若く貧しい“俺”と“私”(「ビニール傘」)。誰にでも脳のなかに小さな部屋があって、なにかつらいことがあるとそこに閉じこもる――。巨大な喪失を抱えた男の痛切な心象風景(「背中の月」)。絶望と向き合い、それでも生きようとする人に静かに寄り添う、二つの物語。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

突然の雨に見舞われ、コンビニで安物のビニール傘を買う。
傘の見た目や機能性なんてどうでもいい。どうせその場しのぎの傘なんだから。
また別のビニール傘を買ったっていいんだから。

他人との関わり方が、そんなビニール傘に似ている。
なんとなく誰かと話がしたい。相手は別に誰でもいい。でも自分の話をするのは億劫だから、相手の話を聞くだけがいい。

大阪を舞台にした、寂寥感たっぷりの物語。
毎日をただ淡々と機械的に過ごす若者たちがとてもリアル。
雨が降るとすぐに水浸しになるという湿地帯の大阪。でも大阪住みの若者たちの人間関係はドライなんやな。
途方もない切なさ、寂しさがひたひたと伝わってきて、何度も胸が締め付けられた。

岸さんはこれが3作品目。男女の会話が相変わらずいい。カギカッコがない会話の方が読み手の気持ちに無断でズカズカ入ってくるのかも。勝手に入り込んでずっとそのまま心の中に居座る感じがクセになる。
寂しさ漂う余韻に暫し包まれる。

もう一作の『背中の月』
こちらは妻を病で亡くした男の話。
喪失感がすごく伝わってきて痛々しい。
この人、いつかは立ち直れるんだろうか。

0
2021年04月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「背中の月」の方が好きでしたね。
でも「ビニール傘」の世界を読んだから、そちらの方が好きと感じたのかも。
…いかにも芥川賞候補という作品でした。
作中に何度も出てくるカップ麺のゴミが二つの話を繋げ、静かなやりきれなさどうにもならなさ、虚しさを顕在化させているかのよう。

(引用)「妙な話だが、幸せなとき、楽しいとき、遊びにいっているときよりも、急な葬式が入ったとき、人間関係でめんどくさいことがあったとき、仕事上のトラブルに巻き込まれたとき、ああ俺たちはふたりなんだなと思う。」というセンテンスに泣きそうになりましたね。
その時二人だった、今はどうしょうもなく一人だということの孤絶感。

「不在」というのは「今ない」、というだけでなくて、あり得たかもしれない希望に侵食する空虚なんだとつくづく感じさせられます。

0
2019年10月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

大阪の最下層で暮らす男と女。安い、ゴミにようなものに囲まれ、食べ物すらゴミを食べているかのように感じられる生活。
詳細に描写される汚い部屋や無為な生活に感覚が麻痺しつつ、嫌悪感に満ちる男の眼差し。
ああ、この人はもっと上から落ちて来たんだろうと思った。最初から安い暮らしで育ったならばここまで皮肉に思わないのじゃないか。
あとで著者が博士を取る前に4、5年日雇生活を送り、その時の体験をもとに書いたと知る。なるほど納得。
底辺のパワーや生命力がなく、静かに日々を消化する。そして密かにちょっとずつ傷ついていく。そんな気がした。
話の筋はわかりにくい。男が複数いるようにも思え、女がどの女だかわからなくなり、確認のため再読仕掛けて止めた。作者はデジャヴかループを意図してると思ったから。
面白いとは言えないが、汚い大阪を描いているわりに静かで上品な読み心地の作品。

0
2021年11月19日

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