あらすじ
深夜のブタペストで監禁された初対面の男女。見世物として「愛し合う」ことを強いられた彼らは、その後、悲劇の記憶を「真の愛」で上書きしようと懸命に互いを求め合う。その意外な顛末は……。表題作「透明な迷宮」のほか、事故で恋人を失い、九死に一生を得た劇作家の奇妙な時間体験を描いた「Re:依田氏からの依頼」など、孤独な現代人の悲喜劇を官能的な筆致で結晶化した傑作短編集。
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記憶の連続
寝て起きたときの自分は、昨日の自分の続きである。疑いもなく信じている。その人が、その人であることを支えるものとは何なのか。記憶なのか、記録なのか。
日常のすぐそばに紛れている非日常を描くことで生み出されるリアリティ。人にはどこか思い当たることがあるのではないかなぁ。短編6話。
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表題作を含む、6編の短編が収められています。
どれもちょっと不思議で、背中をぞわぞわ感が這いあがってくる平野氏らしい物語。「火色の琥珀」は、火に性的興奮を覚える(?)いわゆる火フェチな男性の話。リアルで怖い。本当に変態的な(失礼)フェチの人とかに取材して書くのかなぁこういうの。想像力のたまものかなぁ。
「透明な迷宮」は海外で変な集団につかまってしまった男女のその後…。これも最後が怖い。AをBと思って行動していたら実はBはAだった、それで今度こそ本当にBをAと思って行動しようと思ったら今度はAがBだった、みたいな。結局どこからどこまでが自分の真実の感情なのかわからない、どうすりゃよかったのかもわからない~。こわーい!
「Re:依田氏からの手紙」は時間感覚に異常をきたした男性の物語。1時間が1分に感じられたり、逆に1分が1時間に感じられたりする。退屈な授業が長く感じられて、楽しいことをしていると時が経つのがあっという間に感じられる…という経験は誰でもある。それがすごぉく極端になって、日常生活に支障が出てくる。これも描写がリアルでぞぞぞぞっとする。小説の構造も、本人になりかわって、その体験を小説風に仕立てた人物が、最後に本人に「ところで、いまの一、二分のやりとりはどれくらいに感じられるのか?」と聞くと、さらりと恐ろしい答えが返ってくる、という展開でスゴイ。
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一つの体験を複数の人間が体験した時に、それぞれがどう感じ、どう行動するかの違いとか、自身の選択の結果で人生が決まっていること、他人の影響が自分の人生に関与してくることを、複数の短編を読みながら考えた。
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愛情や欲求、善悪、時間や空間の掛け違い、すれ違いといった、平野さんの描く異次元ワールドを、次々に擬似体験させられる傑作短編集。不思議な後味がしばらく残ります。
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⚫︎受け取ったメッセージ
奇妙、官能的、美しい短編集。
⚫︎あらすじ(本概要より転載)
深夜のブタペストで監禁された初対面の男女。見世物として「愛し合う」ことを強いられた彼らは、その後、悲劇の記憶を「真の愛」で上書きしようと懸命に互いを求め合う。その意外な顛末は……。表題作「透明な迷宮」のほか、事故で恋人を失い、九死に一生を得た劇作家の奇妙な時間体験を描いた「Re:依田氏からの依頼」など、孤独な現代人の悲喜劇を官能的な筆致で結晶化した傑作短編集。
⚫︎感想(ネタバレ)
平野啓一郎さんの作品は、静かで美しい空気が感じられて好き。
1.消えた蜂蜜 レアな特技、ハガキ全写し。
2.ハワイにさがしに来た男 毎日自分を探している男
3.透明な迷宮 双子
4.family affair 拳銃
5.緋色の琥珀 火への性的興奮
6.Re:依田氏からの依頼 時間が遅く流れる
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久しぶりに本屋(蔦屋書店)でジャケ買いした
本です。
平野啓一郎さんという作家も初めてだったので
予備知識もなく、ちょっとワクワクしながら
読み始めました。
「透明な迷宮」は短編小説で、どの話も少し奇妙で妖しい世界観が感じられて自分的に大好きな作品でした。
表題にもなっている「透明な迷宮」はまさに妖しい世界観とエロス、サスペンス的な要素が入り混じっていてとても面白かったです!
ブダペストっていう場所もなんか、こういう事が起こりそうっていう漠然としたイメージがあって
すごくしっくりきました。
「ホステル」ていう映画を少し思い起こさせる
雰囲気もあって、ちょっと興奮しました。
「火色の琥珀」という話も好きな作品でした。
村上春樹の「納屋を焼く」を思い起こさせる感じで
でも、こちらの方がより変態性を感じられて
江戸川乱歩と村上春樹のハイブリッド的な感じで
大好きです!
平野啓一郎さん!
初めて読みましたが、この世界観は大好きなので
是非とも他の作品も読みたいと思いました。
この猛暑の中、涼しいカフェで読むのにオススメな
読みやすい短編小説なので、ぜひおすすめです!
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透明な迷宮。
忘れられない辛い記憶、消えない後悔、トラウマ、完治しないキズ。
多くの人がある段階で生涯に引き連れてきてしまう痛みを、文学という方法で癒そうとしてくれるように感じました。
「マチネの終わりに」と同じように、過去の捉え方に、平野啓一郎さんならではの哲学が見られました。
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世界が壊されて、また再構築されるような感覚を得られる短編集。
なかでも私が気に入ったのは、「火色の琥珀」。
火にしか恋愛感情や性欲を抱けない男の独白である。平野さんの好きな、三島由紀夫の「仮面の告白」に似ている。
あちらが同性愛なのに対し、こちらは無生物への愛。そんな本作は火に関する描写がとても緻密でうつくしい。
おもしろく、シュールで、しかし切実だ。居場所がないと感じる者の切実な独白というのはえもいわれぬ美しさがあり、良いものだ。
表題作「透明な迷宮」は、海外で悪趣味な富豪に捕らえられ、衆人環視下での性行為を求められる話。
その後も二転三転と驚くような展開があり、割と荒唐無稽な話なのだけど、類稀な文章力のおかげでリアリティを持って迫ってくる。
平野さんは、「普通」な人々や普通の日常をあの筆力ですごく仔細に丹念に描くから、導入部分が退屈だったりするんだけど、それがあってこそ非日常なものや異常なものが際立ち、生々しさが出てくる。
特に印象的だったフレーズはこちら。
「凡庸な思想は、人間の唯一性への憧れを唆し、交換可能性にヒステリックに抵抗する。しかしその実、愛とは、誰でもよかったという交換可能性にだけ開かれた神秘ではあるまいか」
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人間のアイデンティティと愛の形をいろいろな視点から実験的に考察した短編集。
私の定義とは?
私は誰かに代替しうるのか?
愛も代替しうるのか?
私は他人や映像を通しても私そのものなのか?あるいは別の私が映るのか?
独立した短編作品の中で問われるのは、このように
私をいろいろな切り口、視点で見たときに、
何が見えるか、どうなるのか?
またそこに愛が存在しうるか?という問題だ。
他者の前で見知らぬ男女が性交する時に他者が見る私達。映像を通してもう一人の自分を観る恋人や私。近しい誰かと入れ代わる私。他人を真似るある行為が得意な人、、。
非日常的なエピソードもあるが、結局その人を特定するもの、またアイデンティティとはなんなのか?を問い続けている作品のようだった。
個人的には絵画に例えると、これらの短編はそれぞれはデッサンや習作で、最終的には大きな作品(絵)に繋がるイメージ。
そして、その大きな絵が「ある男」等の作品ではないかと。
最初に読んだ時はここまでの感想はなかったけど、「ある男」が発表された後にこのような感想を持ったので書き留めたい。
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久しぶりに、同時代の作家で、文学らしい作品を読んだ。という印象。
わたしの言う「文学らしい」とは、ストーリーを追うのではなく、じっくり細部を読み込みたくなる、という意味。あらすじに還元してしまったら、もったいない感じ。
Posted by ブクログ
いやー、面白かった!
どれも不思議な感じのする短編ばかり。
とにかく最後の「Re:依田氏からの依頼」がすごかった。
表題作「透明な迷宮」も結構好き。
「Re:依田氏からの依頼」の中の気に入ったフレーズを少し。
「受信したメールの返事を書きそこなって過ぎた二日間は、あっという間に感じる。しかし、送信したメールの返事を待つ二日間は長い」232頁
Posted by ブクログ
不思議な話だったな。
非現実的でふわふわした感じが村上春樹っぽいなと思った。
「消えた蜜蜂」
人間は自分が気にな物事の確証や反証を得るために、
人生をかけるところがある。それを感じる話だった。
Kは実家の養蜂場が廃業して、兄が出て行っちゃったことが悲しかったんじゃないのかなと思った。
証拠不十分で敗訴になったこと、それ以降近隣住民が同情的だったこと全てが納得いかなくて、
ずっと怒っていたんじゃないかな。
はがきを真似して書いて、「クレームがこない」という事を体験することで、敗訴にした世間だったり同情的だった住民の無知を確認して自分を納得させているように感じた。
Posted by ブクログ
6篇が収められているんだけど、それぞれ設定がさまざまで、それぞれの文体がその時代を感じさせて、そういうテクニックは、すごいなーと思います。本のタイトル通り不穏な感じがまた怖いのであります
Posted by ブクログ
世にも奇妙な物語のような、行き場のない不思議な感覚になる6話が詰められた作品。登場人物はその後どうなってしまったのか、じわじわと考えてしまう。
父の遺品から拳銃を発見してしまう「family affair」と性的対象が火である男の「火色の琥珀」が特に好きだった。
Posted by ブクログ
著者の試み通り、「ページを捲らずにいつまでも留まっていたくなる」小説。
依田氏からの依頼は中盤からスローモーションの情景が頭に浮かんでくる。そんな情景を文体で表せるのは凄い。
個人的には「消えた蜜蜂」が好き。