あらすじ
失踪した〈女優〉を追って、平凡な人生が動き出す
時空を超えて足跡を残す〈女優〉とは何者か。
大切な人を喪い、哀しみの果てに辿りつく場所とは。
透徹した目で人生を描く感動長編。
国交省から矢木沢ダムに出向中の佐藤弘のもとへ、ある夜、見知らぬ黒人が訪れる。
「女優の行方を探してほしい」。
昔の恋人はフランスで、一人息子を残して失踪していた。
彼女の足跡を辿る旅は、弘の運命を意外な方向へ導いていく。
〈生きている者は皆、離陸を待っているのだ〉。
静かな祈りで満たされた傑作長編小説。
解説・池澤夏樹
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Posted by ブクログ
死を表現するのに、かつては彼岸此岸というように船旅だった。
どこへ流されていくのかわからない水の流れ。
今回は飛行機の旅にアップグレードされた。
あの広大な待機所で、多くの飛行機が離陸を待っている、というイメージもしっくりくるし美しいし、離陸した飛行機がどこへ向かうのかもわかっている。
しかしそこがつまりはどんなところなのかは、ぼくらにはわからない。
結局人間にとって生死の在り方は変わらないのだ。
変わるのは寓意を読み取る人間の側が、何に生死を重ねて理解できるか、だけだ。
解説で池澤夏樹が村上春樹のクエストものみたいと言っていて、同感。
確かに巻き込まれ型の主人公、女性関係で巻き込まれるという状況、主人公が非主体的に全体を把握するようになる次第とか。
謎に満ちた長編を書くとき、ある程度似てくるのか……。
しかし孤独感の在り方が、似ているようで異なっている。
初期ハルキ好き後期ハルキ苦手、絲山秋子は初期後期問わず好きな者としては、絲山秋子に寄って、
おじさん的な若さや幼さに対する手放しの賛意がない、という点に理由を見つけたい。
箱庭的小説、ではない。
この小説の空は高い。現実以上に。
ほんとうに、ほんとう以上に、この世界は在り、この人たちは読者と連続する空の下にいるかのようだ。
(いない人こそが重要、語り手が対面していない人物が「効いてくる」ことの小説的効能。)
再度池澤夏樹の解説に戻るが、読み終えたいま、もうみんな友達になったような気がしているからだ。
謎は謎のまま。
時間は容赦ない。
なぜなら語り手は決して「物語の主人公ではない」からだ。語り手は部外者。観察者。小説はもはや近代のロマンスではありえない。
語り手の生活は徹頭徹尾、散文的。人の生き死にすら劇的ではない。
小説中のあらゆる人物は、物語的に展開しようとする志向、読み手にとってのおもしろさなど気にせずに淡々と過ごそうとする志向、に引き裂かれるのだろうと思うが、
この小説の語り手は、ぼくは淡々といいつつ結構劇的という、このスタンスが春樹に似ているんだろうね。
Posted by ブクログ
人のゴールは死しかないもんなと、(悲観では無く)静かに受け入れられる本。
結局、人の「真実」なんて確かめようが無い。
あるのは、誰の目から見ても確かな死だけ。
こう書くと、ものすごく暗くて陰惨な物語のようだけど、読み口は不思議なほど重たく無い。
わりとボリュームのある本だけれど、他の方の感想にもある様に一気読みさせられる。
面白くて面白くて辞められない!と言うより、
淡々と無理のない速さで歩いているから、ついいつもより長く歩いて遠くまで来てしまった、という感じ。
無性に空港に行きたくなったし、飛行機に乗りたくなった。
空港と空の上の空間は、確かにあの世とこの世の中間みたいだなと感じていた。その様に捉えて感じている人は少なくないんじゃないかな。
読後感が静かで穏やかな気持ちになる。
人生で何回か読み返したい、いい本だった。
Posted by ブクログ
絲山さんはこんな静かな物語も描かれるんだ、とちょっと驚いた。
突然佐藤の前に現れた黒人。
「サトーサトー」行方不明の女優を探してほしい、と語り出す。
謎の怪文書を解読しながら、謎の「女優」探しの旅が始まった。
「死」を飛行機の「離陸」に例える佐藤の言葉がとても印象的。
滑走路に向かった飛行機が息を整えるように停止し、ゆっくりと力強く滑走をはじめる。その滑走は悲しみを引きちぎるように加速していき、やがて地上を走ることに耐えられなくなりふっと前輪が浮く…。
まだ生きている私達は滑走路で離陸待ちの状態。
私もいつかみんなに見守られながら無事に離陸できるだろうか。
離陸し飛び立った後、次の行き先へは辿り着けるのだろうか…。
死とは、生とは、人生とは…思いは果てしなく続いていく。
じわりじわりと心に染みる物語だった。