【感想・ネタバレ】戦争にチャンスを与えよのレビュー

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ビザンツ帝国の戦略

mac
2022年09月30日

一部ご紹介します。
・すべての考えられる状況において、可能な限り戦争を回避する。しかし、いつ何時戦争が勃発しても大丈夫なように行動する。
訓練を怠らないこと。常に戦闘準備を整えておくこと。
戦争準備の最大の目的は、戦争開始を余儀なくされる確率を減らすことにある。
・敵とその考え方に関する情報...続きを読むをできるだけ集め、継続的に敵の動きを監視する。
・攻撃と防御の両方で精力的に軍事行動を実施する。
多くの場合、小規模な部隊で攻撃し、総攻撃よりも斥候、襲撃および小規模な戦闘に重点を置く。
武力行使を最小限に留めることは、説得に応じる可能性のある者を説得する助けになり、
説得に応じない者を弱める助けになる。
・消耗戦争や他国の占領をしない。やるのは、「非戦闘」の機動(詭道)。
電撃戦や奇襲で、敵をかき乱し、素早く撤退する。
目的は敵を壊滅させることではない。うまくすれば敵を味方に変えてしまうこともできるからだ。
敵が複数いる場合、お互いを攻撃させるように仕向けられれば、単一の敵よりもかえって脅威は小さくなる。
・全般的な勢力均衡を変えるために同盟国を求め、戦争を首尾よく終わらせることを目指す。
外交は平時よりも戦時の方がより重要だ。
最も有用な同盟国は、敵の隣国だろう。なぜなら、彼らは敵との戦い方を熟知しているからだ。
・敵の政府転覆は勝利への最善の道である。
戦争のリスクや費用に比べれば、実に安上がりなので、積極的に行うべきである。
宗教的狂信者でさえ買収は可能である。なぜなら、狂信者はもともとクリエイティブなので、自分の大義に背く行動でさえ正当化できるものなのだ。
・外交や政府の転覆が十分でなく、戦争を行わなければならない場合、戦争は敵の強みを出させずに、敵の弱点を突く「合理的」な作戦と戦術を用いるべきである。
それには消耗戦を避け、辛抱強く徐々に相手を弱体化させることだ。
時間がかかるかもしれないが、急ぐ必要はない。
なぜなら、ある敵がいなくなってもすぐに代わりの敵が必ず現れるからだ。
・「戦わずして勝つ」ことを目指し、それでも戦争が勃発したら最小限の兵力と資源で戦争の勝利を得ることこそ理想である。
正義や道徳といった抽象的な価値の名の下に戦争を遂行するなどもってのほかである。


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ネタバレ

Posted by ブクログ 2019年06月15日

 なかなか挑発的なタイトルです。
 本書は経済学者、戦略家、歴史家、国防アドバイザー、シンクタンクの上級顧問といった様々な肩書を持つエドワード・ルトワックの著作。
 
 「戦争の目的は平和をもたらすことにある」

 著者は本書の中でそう説きます。
 この逆説的に思えるテーゼが何故言えるのか、それを実...続きを読む際の戦争(紛争)の歴史を振り返って説明をしてくれます。

 本書は著者が過去に寄稿したいくつかの論文で構成されています。
 そのため章ごとにテーマが変わるので、最初から最後まで一貫したテーマで通底しているわけではありません。
 いうなれば過去論文の短編集、といった感じです。

◆「1. 自己解題「戦争にチャンスを与えよ」」および「2. 論文「戦争にチャンスを与えよ」」

 冒頭にある通り、著者は「戦争は平和をもたらす」と説明します。
 太平洋戦争や第二次世界大戦後、日米や西欧諸国の間に戦争は起こっていません。
 一方でパレスチナや旧ユーゴスラビア諸国、ルワンダなど、長年にわたって紛争状態が続き、ゆえに国土が荒廃して発展の余地すらない地域が数多くある。両者の違いはどこから来るのか。著者は「外部から戦争が調停されたか否か」であるといいます。
 なぜ外部調停により停戦を迎えた紛争が長年にわたり対立状態を解消できないのか、その理由が語られます。なかなか説得力のある理論であはありますが、現代の価値観からすると受け入れづらいものでもあります。


◆「3. 尖閣に武装人員を常駐させろ(中国論)」

 ここでは、日中の尖閣諸島をめぐる対立について、日本側の「あいまいな」態度に警鐘をならしています。
 なぜ「あいまいな」態度が事態を悪化させてしまうのか。中国の特異な政体と絡めて理由が語られます。


◆「4. 対中包囲網の作り方(東アジア論)」

 中国(というよりも習近平)の野心的な行為と中国という国の幼児性・特異性が分析されると同時に、その覇権主義的な行動を抑え込むためのアジア各国およびアメリカの連携について語られています。
 中国の分析がなかなか面白い。それと同時に反中同盟から脱落しつつあるフィリピンの分析もなかなか面白い。


◆「5. 平和が戦争につながる(北朝鮮論)」

 本章は以下の指摘から始まります。

「北朝鮮は特異な政権である。特異な点として二つ挙げられるだろう。一つはリーダーのヘアスタイルがひどい、ということだ。」

 ちょっと吹き出しました。本書ではこのような表現がちょいちょい出てくるのでなかなか楽しませてくれます。
 しかしその後はまじめな話となり、北朝鮮が侮れない国であると説きます。
 そして北朝鮮に相対する日本に選択肢を提示しますが、これがなかなか厳しい。。。


◆「6. パラドキシカル・ロジックとは何か(戦略論)」

 パラドキシカル・ロジック(逆説的論理)について説明がされます。
 これは1章や2章にも通底する内容です。つまり「戦争が平和をもたらす」「敗北が勝利をもたらす(逆に勝利が敗北をもたらす)」「大国は打倒できるが、小国は打倒できない」ということ・・・。なぜそのように言えるのか?
 身近な例でいうと「中国は大洋覇権を握るために空母建設を進めているが、それがゆえに大洋覇権を握れない」。なぜそのように言えるのか。この分析はなかなか面白い。


◆「7. 「同盟」がすべてを制す(戦国武将論)」

 ここでは戦国時代の武田信玄、徳川家康、織田信長の3名を取り上げて、彼らの戦略的優秀さを語っています。
 外国人が日本の戦国大名について分析するとはなんだか違和感がありますね。ただここでの分析は一般論の範囲であり、要は戦術性と戦略性の2点が語られています。
 本章終盤のメッセージは、今の日米同盟に照らし合わせるとなかなか含蓄があります。

「「同盟」は大戦略を遂行し、勝利を獲得するうえで不可欠な選択である。あらゆること(を一国でなす)には限界があるからだ。
・・・そして、もう一つ忘れてはならないのは、「同盟」という戦略は、しばしば不快で苦難を伴うものでもある、ということだ。」


◆「8. 戦争から見たヨーロッパ」

 ここはなかなか面白い。著者の(マッチョイムズな)性格がもっともよく表れた章といえます。
 一言でいうと、「戦士の文化の衰えた国は衰退する」ということです。
 なんじゃそら!?と思いますが、ここで展開される論理がなかなか面白い。

「いずれにせよ、ここにシンプルな一つの事実がある。アンダーソン・クーパー(CNNのアンカー。すこぶるイケメンで紳士。だがゲイである。)には子供がいないが、トランプには子供が五人、孫に至っては娘のイヴァンカだけでも三人いる。将来、孫が10人から15人程度になるのはほぼ確実だ。

 もちろん、アンダーソン・クーパーはフライトアテンダントの胸を触ったことがないほど上品だろう。ところが、彼には未来がない。トランプには未来がある。」


◆「9. もし私が米国大統領顧問だったら」

 タイトル通りアメリカに提言する政策論が展開されます。それがビザンティン帝国や徳川幕府の戦略から導出されている点が面白い。
 それに著者がオバマ大統領を良く思っていないところも面白い。オバマ大統領の上品さと著者のマッチョイムズの相容れなさがよくわかります。


◆「10. 日本が国連常任理事国になる方法」

 まず著者が指摘するのは「常任理事国入りを目指して日本がとっている戦略は全くの誤りだ」という点です。
 日本はブラジル、インド、ドイツ、ナイジェリア、南アフリカなどとタッグを組んで常任理事国入りを目指しているが、これで目標を達成できる見込みはゼロである、なぜか?日本は「誰も欲しない」プランを追及しているからだ、と著者は言う。
 ではどうすればよいか?「カギを握るのはインド、そしてロシアである。」著者がこう説く論理はなかなか面白い。



 本書は上記の1,2が本書のハイライトでしょう。挑発的なタイトルですし。
 ここでのメッセージを簡単に要約するならば「対立する両者が自国のリソースを使い切るまで戦ってこそ、その後に平和が訪れる」ということです。
 もし外部の調停で生煮えの状態で戦争を終えても、両者はまだ戦う力と戦意を残しているため、その後も対立と緊張状態が解消されないのです。この状態は国土の復興と発展を妨げるわけです。

 また上記のアジェンダを通して分析される北朝鮮や中国、ロシアの性格についても興味深い。
 著者は中国を「鈍感な国」といいます。

「さらに厄介な問題がある。中国は、隣国を完全に見誤る伝統を持っている点だ。
・・・この理解力のなさは1979年の中越戦争を考えても驚きだ。
・・・つまりベトナムは、中国にとって、隣国であるだけでなく、つい最近も一度敗北した相手なのだ。にもかかわらず、今回もまた失敗を繰り返しているのである。」

 この鈍感さは中国の「組織的欠陥」に由来すると著者は言います。この分析はなかなか面白い。

 またロシアにおいて、プーチンの国民に対する態度について説明した以下の内容はおもしろい。ロシアという国と国民の特異性をよく表していると思います。

「プーチン氏が自国民に発しているメッセージは、以下のようなものだ。

”ロシア国民よ、あなた方はアメリカ人のようにリッチにはなれないし、フランス人のようにエレガントにはなれないし、イタリア人のようにおいしいものも食べれられない。しかしあなた方は、世界最大の領土を持つ帝国の人間であり、これは誰に与えられたものではなく、戦争に勝つことによってロシア人自身が獲得したのである。・・・その代わりにロシア人は耐えなければならない。帝国の人間として耐え忍んでほしい”

 このメッセージに対してロシア国民たちは「いいでしょう。あなたの言う通り耐え忍びます。国際的な経済制裁にも負けずに頑張ります」といっているのだ。」

 こういった著者の歯に衣着せぬ分析やマッチョイムズな主張はなかなかユニークです。しかしその内容には的確さがある。
 いつもは「まじめな評論家先生」の国際分析本を読んでいる方に、本書は面白い視点を与えてくれると思います。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2018年10月14日

自己解題、論文、インタビュー3編。訳者(インタビュア)による解説。
題名にもなっている論文「戦争にチャンスを与えよ」これは、戦争が外部の力で「中断」されることにより、永遠に「戦後」が来ない。(戦争が凍結されたまま)むしろ、当事者が戦争に疲弊し尽くすまで続けさせた方が、戦争が本当に終わる。戦後が本当に...続きを読む来る。
まあ、わからんではないが。
確かに、手厚く保護されている難民キャンプの存在が、紛争を長期化させ、難民二世、難民三世を生み出しているのは当事者から未来を奪っている側面は否定できないとは、思う。
(難民キャンプで生活している限り、避難先に同化することはない)

中国に関するインタビューで一番印象に残ったのは、
・中国は大国としての振る舞い方を知らない。
・中国は、(付き合いの長い)ベトナムのメンタリティすら理解できないでいる。
・中国相手には、曖昧戦略はむしろ誤ったシグナルになりかねないのではないか。

おち:ロシアは戦略はすごいが、経済がダメ
だが、経済センスがないからこそ、経済制裁に鈍感でいられるのかもしれないw

あと、実体験に基づくイタリアと英国の違いw
ああ、英国食ってのは、暴力と陰謀の存在を建前で否定しない紳士だよな。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2018年07月22日

かなり功利主義的だが,説得力がある。
少子化のところの議論はあまり納得できなかったが。

・戦争は当事者を疲弊させ平和を生む。
・第三者が中途半端に介入することで戦争が凍結され,解決されない。
・戦争を含む戦略的行動時には,パラドキシカル・ロジック(逆説的論理)が働く。
・日本が国連常任理事国に入る...続きを読むには,6カ国の協調はやめてインドと一席を共有するべき。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2018年07月30日

【文章】
 読み易い
【気付き】
 ★★★★・
【ハマり】
 ★★★★・
【共感度】
 ★★★★・

相対する概念というのは常にお互いを内包し合って存在している。

平和は戦争が終わったのあとに訪れる。
戦争が中途半端に打ち切られた後には平和はやってこない。

外部組織が戦争を途中でやめさせる事によ...続きを読むり、小競り合いが続き、復興もままならない状態へと陥ってしまう。
介入するのなら、最期まで責任を持つ覚悟がなければならない。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2017年06月26日

アメリカ戦略国際問題研究所(CSIS)上級顧問。戦略家。歴史家。経済学者。
ルーマニアのトランシルバニア地方のアラド生まれ。イタリア、イギリス軍にて教育を受ける。一時イスラエルに居住。第3次中東戦争と第4次中東戦争を戦っている(陸戦でそれなりの戦果をあげている様子)。ロンドン大学で経済学の学位を取っ...続きを読むたのちアメリカのジョンホプキンス大学で1975年に博士号を取得。同年国防省長官府に任用。専門は軍事史、軍事戦略研究、安全保障論。国防省の官僚や軍のアドバイザー。ホワイトハウスの国家安全保障会議のメンバーも歴任。著書に「中国4.0」「自滅する中国〜なぜ世界帝国になれないのか」「クーデター入門ーその攻防の技術」他多数

全体のトーンとしては非常にエキセントリックで、実際の兵士や民間人の立場としてより、純粋な軍師、戦略家として、戦争という状態を人類のエコシステムの一部と捉え、それをあえて紛争から中途半端に抑えたり、人道支援として介入する国連、NGO等の戦争、紛争状態からの回避、支援が、かえって不安定状況の悪化、より非道い紛争を招く、という、読者に知的挑戦を与えている。これはシステム思考論におけるレバレッジポイントの考え方に似ており、(システム思考の求めているところとは異なるが)あえて平和という状態を無理に維持して、腐敗や不満の鬱屈をため込んだ不安定な状況を解放するためにあえて手放す(システム思考の中にも手放すことでレバレッジを得るというポイントがある)ことで戦争状態に放置する(争いが起こったら不介入で鎮まるのを待つことでそのエネルギーの解放により、平和という状態が確保できるという視点を持ち込んでいる。(著者は戦争を好んでいるわけではないし、避けるべきだとするが、避けざるを得ない状況になると、回避すべきではない、その代わり選択肢として戦略的思考による同盟の構築や電撃戦、欺瞞や包囲殲滅戦、戦略的な撤退等、総力戦は絶対避けるべきとの考え方をしている。また、敵との対応もインテリジェンスを駆使し、可能であれば買収する等、あらゆる手段を取るべきだ(戦争になってもドアは開け続け、交渉を継続すべきというインテリジェンス論(彼の独自の考え方で戦略は政治より強いという考え方がある)をベースに知的戦略論を読者に提示することで新たな視点を紹介している。

個人的にはあえてABC兵器等の非人道的及び人類の存亡に関わる兵器の使用について、忌避して書かれているようにも見えることから、1960年代のMAD(Mutual Assured Destructive:相互確証破壊)戦略等の戦略自体が狂っている状態からは距離を置いているところが気になるところである。

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