あらすじ
酌婦の身を嘆きつつ日を送る菊の井のお力のはかない生涯を描いた「にごりえ」。東京の下町を舞台に、大黒屋の美登利、龍華寺の信如、正太郎、長吉たち思春期の少年少女を描いた「たけくらべ」。吉原遊廓という闇の空間とその周辺に生きる人びとに目を向けた一葉の名篇を収める。詳細な注を加えての改版。(注・解説=菅聡子)
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Posted by ブクログ
ここ半年の間に性風俗産業の世界を描いた五社英雄監督の映画や、大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(森下佳子, 2025)に親しんだ。なので「今なら読めそう!」と思い再読。——改めて読むと、女性たちの苦しみを実に写実的に描いていてびっくり!
「にごりえ」は酌婦お力と、お力に入れ揚げて零落した源七の妻 お初の境遇がたまらない。一見お力は〈家〉の外に、お初は中にいて正反対のようだが、女性として〈家〉——男性に搾取されている点で二人は共通している。奪い合い、蔑み合っているようで同じ“地獄”に囚われているという皮肉で悲劇!
お力の「物思い」とは? 詳細は作中で明らかにされず。書き忘れたのか、それとも意図的に省いたのか?
作中の男たちはろくでなしばかり。お力の客 結城朝之助は彼女に親切なようで、その実は何もしない傍観者。彼の台詞「お前は出世を望むな」・「思ひ切つてやれやれ(※くの字点)」の真意とは? 源七はどうしようもないバカだ。
本書収録2作のうち、私は「たけくらべ」のほうが難しく感じた。いわゆる雅俗折衷体物語の舞台 大音寺前や吉原の風景風俗が細かく描写されているゆえか?
いつまでも子どものままでいたい、大人になんかなりたくないという美登利。ある時を境に友だちと遊ぶことすら厭うようになった彼女の身に何が? 信如に対する複雑でいじらしい思いの描写が巧みだ。
第1章の「下足札そろへてがらんがらん」の場面は五社英雄作品や『幕末太陽傳』(川島雄三, 1957)にもあった。商売繁盛のおまじないのようなものだと察するが、行われていたのは遊郭だけだったのだろうか?