あらすじ
茶や綿織物とならぶ「世界商品」砂糖。この、甘くて白くて誰もが好むひとつのモノにスポットをあて、近代以降の世界史の流れをダイナミックに描く。大航海時代、植民地、プランテーション、奴隷制度、三角貿易、産業革命―教科書に出てくる用語が相互につながって、いきいきと動き出すかのよう。世界史Aを学ぶ人は必読!
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Posted by ブクログ
岩波ジュニア新書と聞くと「中高生向けの入門書」という印象が強いですが、本書はその枠を軽々と飛び越えています。平易な言葉で書かれていて一気に読めるのですが、その内容は大人にこそ刺さる。
あまり知らないでこの歳になってしまったという大人もいるのではないか。
恥ずかしい事はない、今これを読みさえすれば。
歴史大著『1493』が多方面に話を広げながら世界史のダイナミズムを描くのに対し、これは砂糖という一点にフォーカスし、凝縮されたエッセンスを提示してくれるのです。なにせ『1493』は分厚く半年近く読むのにかかります。
本書は、砂糖を単なる嗜好品ではなく「世界商品」として位置づけたところからスタートします。イスラム世界からヨーロッパへ薬として伝わり、ポルトガル人が奴隷労働を用いてプランテーションを築き、やがて新大陸へと広がっていく。この過程で「コロンブスの交換」が起こり、砂糖は世界規模の経済と人間の移動を決定づける存在となりました。著者が強調する「人間の配置を変えてしまった」という言葉は、奴隷貿易の残酷さを端的に示していますし、そもそも「世界商品」とは何かですが。
イギリスは紅茶ブームと砂糖の結びつきを経てさまざまな今のイギリスにおけるイメージ、つまり文化的要因を生み出してきました。本書の中でも特に印象的です。貴族的な記号消費から始まり、やがて産業革命期の庶民のカロリー源へと変貌したのも、産業革命があったからです。一方、商業革命もありました。
砂糖は嗜好と労働をつなぎ、イギリスの覇権を支える燃料となりました。
そしてフランスのコーヒー文化やボストンティーパーティー、カナダはなぜイギリス領だった?各国の歴史的事件も砂糖を軸に読み解かれることで、世界史が一つの線でつながって見えてきます。
砂糖の歴史は、甘美さと同時に悲劇を孕んでいます。「砂糖のあるところに奴隷あり」という言葉が象徴するように、砂糖の普及は人類史上最大級の強制労働と搾取を伴いました。アフリカの若者が大量に奪われ、アフリカの成長が阻害された事実は、砂糖の甘さの裏に潜む苦さといえましょう。
暗黒大陸は暗黒大陸にさせられたのです。
本書の結末は意外にも淡々としています。カロリー不足を克服した現代社会では、砂糖はもはや「無前提に欲しがられる商品」ではなくなってきていると、そのあたりの見方はその通りなのだろう。ただ最近は人工甘味料や果糖の問題がぶり返してきていて砂糖復権の兆しもある。これは1996年の書籍だからだともいえましょう。
『砂糖の世界史』は、砂糖という一見ありふれた商品を通じて、世界史の構造を鮮やかに描き出しています。読みやすさと深さを兼ね備え、中高生より大人にも強く薦めたい。
大著『1493』の圧倒的な広がりを味わう前に、この本で「世界商品」砂糖という視点は歴史を理解する上で極めてタイパよいといえます