あらすじ
海上自衛隊の潜水艦「くにしお」と釣り船が衝突、多数の犠牲者が出る惨事に。マスコミの批判、遺族対応、海難審判……若き乗組員・花巻朔太郎二尉は苛酷な試練に直面する。真珠湾攻撃時に米軍の捕虜第一号となった旧帝国海軍少尉を父に持つ花巻。時代に翻弄され、抗う父子百年の物語が幕を開ける。自衛隊とは、平和とは、戦争とは。構想三十年、国民作家が遺した最後の傑作長篇小説。
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Posted by ブクログ
山崎豊子未完の遺作。
自衛隊の潜水艦くにしおと一般の漁船の衝突事故を中心に、関係者一人一人の思惑や自衛隊に対する世間の風当たりの強さが多角的に描かれていて面白かった。特に審判では漁船の船長に批判的な見方をするサキや、自衛隊に一太刀浴びせようとする田坂弁護士や、堂々と弁明する筧艦長に不信感を持つ頼子や、自信や自主性がなく弁護士をチラチラ見る安藤船長や、いろんな意見や思いがあることが描かれていた。
実直な主人公花巻朔太郎とフルーティストの小沢頼子との恋が淡く進んでいくのもすてきだった。頼子の行動力はすごい。儚げに見えるのに傍聴に行ったり、朔太郎に真実を確かめる電話をかけたり、コンサート後に呼び出したり、芯が強くてギャップがあってよき。
本当は真珠湾攻撃での捕虜第一号だった、花巻朔太郎の父花巻和成が抱えている心の闇、戦争の闇と自衛隊がメインテーマだったようだけれど、その序章の第一部で終わってしまったというのは残念。ただ自衛隊が違憲だとか、戦前回帰だとか、何も知らないで印象論で自衛隊や防衛大を煙たがりがちだけど、実際自衛隊が今日も日本を守っているとか、自衛隊についてもっと理解した上でないと自衛隊の是非を論ずることはできないと思った。
物語が完結しなかったのが残念
読み手を惹きつける話の展開で、最後まであっという間に読みました。第一部で絶筆になってしまったのが残念です。この後、主人公を含めた登場人物がどのように生きていくのか、とても気になるところでした。一方で、自衛隊の存在意義をあらためて考えてみる機会になりましたし、自衛隊について、国防について知らない事が実はたくさんあるということに気がつき、不安にもなりますが、自分の知らないところで、平和の維持のために頑張っている人がいるということを、時々感じることも必要だということを感じさせる本でした。
Posted by ブクログ
主人公の花巻朔太郎(はなまき さくたろう)は東都工業大学と防衛大学を受験し、防衛大学に合格する。
防衛大学入学には兄姉の反対があったが、元海軍軍人であった父は反対しなかった。
花巻朔太郎の乗る潜水艦「くにしお」は観光用の遊漁船と接触し、遊漁船を沈没させる。
民間人30人の死者を出す大事故だった。
朔太郎は過酷な試練に苦悩する。
東洋フィルのフルート奏者の小沢頼子と出会い、恋心を抱くが、事故の遺族への弔問や海上自衛隊からの聴取に時間を取られ、頼子と会う機会もなく、頼子のことは忘れようと煩悶する。
当時の自衛隊は金食い虫の役立たたずと、国民から疎まれていた。
国民の知らない所で国防の任務に携わっているのに、理解されない自衛隊とは、なんなのか?と自問自答するうちに、事故の処理が一段落したとき、朔太郎は自衛隊を辞めようと思い至る。
そんな中、過去を一切語ろうとしない父が、旧帝国海軍の真珠湾攻撃時に日本人捕虜第一号となった事実を知る。
自衛隊の存在意義、かつて米国と戦った父の日本、戦争と平和について考える朔太郎の煩悶。
本作は山崎豊子の未完の遺作となって、3部構成の1巻目で終わっている。
頼子とのロマンスの結果は? 父の捕虜第一号となった、その後は?
自衛隊を一時は辞めようと思った朔太郎のその後は?
いろいろと未完のまま終わっているので、もの足りないものとなったが、山崎豊子が病床の身で、力尽きるまで書き続けた本作は、生き続けていたら、間違いなく長編大作と成ったでしょう。
本作も実際の事故を起こした潜水艦「なだしお」関係者、自衛隊、遺族、米海軍など、沢山の取材および、膨大な資料に基づいて書かれている。
偉大な国民作家の遺作となった本書を読んで良かったとおもう。