あらすじ
若き女流作家・空野の担当になった編集者の田中。だが“書いたことが現実になる”と空野から聞かされ、原稿は取れないまま。半信半疑のある日、田中は空野が描いた物語をなぞるような不思議な事件に巻き込まれ……
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Posted by ブクログ
タイトルに出てくる「一冊」は作中に登場したどの一冊のことなのか。読み終えてから少し考えて、この作品そのもののことなんだろうなという結論にすんなり落ち着いた。
たまたまこの本を読み始めたタイミングで私は熱を出していて、身体感覚が鈍って空間認識が危うくなると、物語への没入感もいつもより深くなる。
作中に登場する物語に引き込まれる田中さんの物語に更に没入する読書感。自分の現実までふわふわとした虚構の一部が紛れ込んできたようで、田中さんと同じく久々にこの感覚を味わったななどと思いながらぐいぐい読んでしまった。
うまく言葉に表せないけれど、あとがきに書かれていた影の主人公の話、そしてこのタイトル。私の中ではすとんと繋がって腑に落ちた感じ。
全く世界観の異なるお話だけど、お話の中のお話そして今ページを捲っている読者である自分自身を意識させられる雰囲気は同じ作者さんの「世界画廊の住人」も思い出した。こちらもまた読み返してみようかな。
この一冊だけだと物足りないので「ある小説家をめぐるもう一冊」が出るなら、また読みたいなあ。
あと、料理の描写の丁寧さと温室のシーンの描写も好き。どちらも匂いや空気の湿り気が伝わってくるようだった。