あらすじ
衰退著しい覇権国アメリカ、混乱する中東、クリミアを強引に奪取するロシア、東シナ海、南シナ海で挑発行為をやめない中国。
パワーバランスが大変動する今、「地政学」という、古めかしく、禍々しいニュアンスすら伴った言葉が現代に蘇ってきている。
一方でこれまでの地政学的思考だけで、世界を分析し、生き抜くことは非常に困難だ。
経済が地政学的環境にどのような影響を与えるのか、またその逆についても考察を及ばさなければならない。そうしなければ国際政治経済のダイナミズムを理解できず、戦略を立案することもできない。そこで、地政学と経済学を総合した「地政経済学」とも呼ぶべき新たな思考様式が必要となる。
本書では、「地政経済学」とは、「富国」と「強兵」、すなわち経済力と政治力・軍事力との間の密接不可分な関係を解明しようとする社会科学であることを示し、地政学なくして経済を理解することはできず、経済なくして地政学を理解することはできないことを明らかにする。
『TPP亡国論』で日米関係のゆがみを鋭い洞察力でえぐり出した著者が、資本主義終焉論と地政学が復活する今と未来を読み解く渾身の書き下ろし大著。
ポスト・グローバル化へ向かう政治、経済、軍事を縦横無尽に読み解く気宇壮大な21世紀の社会科学がここにある!
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Posted by ブクログ
本書を読むと経済学という学問がいかに人間社会からかけ離れた社会科学であるかが良く分かる。そもそも経済学が大前提としている「経済人(エコノミックマン)」という考え方自体が現実とはあっていないのだ。人間は合理性があるかどうかだけを基準に物理的に動く原子のような物体では決してない。人間は社会あるいは人と人とのつながりの中で能動的に行動する社会的生物なのだ。間違った前提のもとでいかに議論を精密化させ数式のみを弄しても決して現実に合った解答は得られない。ノーベル賞から経済学賞は今すぐ廃止すべきだ。
しかし、著者の中野剛志氏は膨大な学術書を読みこなし我々に分かりやすい言葉で解説してくれる。なんと頭の良い人だろう。
Posted by ブクログ
自分にとって本書の意義は2つある。
まず、軍事と経済が両輪であることを古今東西の多数の事例とともに再確認できる。
次に、国際関係論と経済学双方のリベラリズムのバーチャル性がよく分かる。そして対案提示される、空間・時間・人間の3つの「間」のリアリティに則した学問群を学べる。主なものは地政学、現代貨幣理論、制度経済学だが、ほかにもリスト、ケインズ、ミンスキー、ポランニーほか、枚挙に暇がないほど知の巨人達の言説を知ることができる。
グローバリゼーション下で忘れ去られた、もしくは忘れたふりをし続けてきた「間」のリアリティ。コロナとウクライナ侵攻で一気に吹き出した今こそ、「間」の再認識を迫る本書は意味を持つ。
Posted by ブクログ
経済は集団行動。政治も同じく。地政学的環境による。
集団行動を科学するアイデアはマッキンダーの地政学から。
経済は地政学なしでは語れない。逆もまたしかり。なので地政経済学。
大きなトレンド転換は地政経済学の環境大変化が必要。
ケインズを再評価+新自由主義批判。
地政学、経済学、それぞれの国の実情を踏まえないとダメ。
19世紀は自由主義。
2度の世界大戦による戦時統制経済でケインズ主義が実現。
終戦後も体制が経路依存性で持ち越されて民政化した統制経済。
これによって高度経済成長期。
ケインズ政策の副作用がインフレ→これによりケインズ主義の人気が低下。
この戦後ケインズ主義は亜流だけど。
インフレ=富裕層・支配階級が損。
シカゴ学派の新自由主義、自由な金融、自由な貿易、グローバリゼーション。
成長率も技術革新も何かと低下している。
さらに金融恐慌が多い。
新自由主義のデメリットがデフレ。
デフレ=富裕層・支配階級が得。
すでに新自由主義は失敗が顕在化してるが集団行動は慣性の法則で動き続ける、すぐ止まらない、経路依存性で。なので続いてる。。
貨幣の信認は市場ではなく国家による=なんぼでもカネ刷れる。
→財政出動で需要をつからないとダメ=MMT系と同じ主張。
リチャード・クーとも同じ系の主張。
難解だが大筋として刺激的
戦争とは、文明間対立の究極的形態である。第一次産業革命を発端とした、人類史上最大の生産性の飛躍による無限経済成長は、資本家階級と労働者階級の対立を必定とした。中野剛志氏は、現代の経済・政治・軍事に渡る世界的な対立の変遷の歴史を、陰謀論に触れずに、広く公開された学術情報のみを用いて、緻密な解説を構築する。戦争無くして階級間対立の緩和はなされなかった。その上で、再度階級間格差の増大からの崩壊が予兆される現代社会にも、存続の可能性はあるのだと中野剛志氏は主張する。
Posted by ブクログ
現役官僚が著者とは到底思えないほど、専門的な本。本書の主題である、地政経済学とは、富国と強兵、すなわち経済力と政治力・軍事力との間の密接不可分な関係を解明しようとする社会科学。地政学なくして経済を理解することはできず、経済なくして地政学を理解することはできない、というのが地政経済学の大命題。
学生の頃、経済学を学んでいたが、それはまさに経済学の一部分でしかないことを痛感させられた。
そもそも、貨幣とは何か。領土との関係性は何か。政府債務とは、、など、分からないことだらけなのが分かる書籍。また、研究していた経済モデルの批判もあり、非常に勉強になった。そして、まだまだ勉強していかなければ、と考えさせられた。
以下抜粋
もしヘーゲルが言うように「ミネルヴァの梟は迫り来るくる夕闇とともに飛び始める」のであるならば、「大規模な戦争なしには経済的繁栄も社会的公正も実現できない」という不愉快な現実は、すでに過去のものになりつつあるということになろう。したがって、本書が示した認識が正しいとするならば、むしろ希望はまだ残っていると言うべきである。
中級者以上の人向け
政治、経済、地政学の予備知識がある程度ないと読了は困難だと思います。
一部ご紹介します。
・経済とは、一定の軌道を持った人々の集団行動に他ならない。
・デフレとは、国民が消費や投資を縮小させる(貯蓄や借金返済を優先させ、お金を使わなくなる)方向へと向かう集団行動だ。(その結果、所得が手に入らなくなる)
・インフレとは、国民が消費や投資を拡大させる(お金を使う)方向へと向かう集団行動だ。
・経済政策とは、この国民の経済的な集団行動の方向を、国家が操作することに他ならない。
・デフレ不況を克服するには、金融緩和(お金を発行して、お金を増やす)、財政出動(政府が損得抜きで仕事や投資を増やす)、金利を低く操作、減税(国民が持っているお金を増やす)を通じて、国民を消費や投資へと動員(お金を使わせる)することだ。
・インフレが過熱(信用創造が進みすぎて、金融機関が暴走し始める)しだしたら、増税(国民が持っているお金を減らす)、国債償還(政府の借金を返済する)を行う。
・経済成長こそ全ての解だ。
・経済を守るためには、軍事力による防衛が不可欠だ。
・「殖産工業」「富国強兵」は、正しい国家政策だ。
・工場の海外移転、投資資金のみの海外への投下、どちらも、敵国となりうる外国の産業の発展と、国際競争力の強化を手助けする。
・製造業は軍事力に直結する。
・行き過ぎた自由貿易は戦争をもたらす。なぜなら、他国の市場開放を強制するには、軍事力が必要になるからだ。
・地政学が解明するのは、人間と環境の相互作用だ。
・グローバル化と金融化が、格差を拡大させるだけでなく、長期的な経済成長を損なう。
・経済成長とは、環境の制約を克服して、人口を増やし、生活水準を向上させることだ。
・国家の軌道を変更させる強大な圧力は、外部から来る。経済や政治、軍事と地理、歴史が不可分である所以だ。戦争が国家を作り、国際政治が国内政治を規定する。