あらすじ
キリスト教化と文明化の名の下に新世界へ馬を駆って乗込んだスペイン人征服者たちによる搾取とインディオ殺戮が日常化している植民地の実態を暴露し、告発した書。1552年に印刷に付されたこの「報告」は、刊行直後から十九世紀末まで、スペインと敵対する諸外国により反スペイン宣伝の格好の道具として使われ続けた。改訳決定版。
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Posted by ブクログ
戦争には必ずと言っていいほど略奪、強姦、暴力が発生しますが、それを加害者側の視点から詳細に記録した貴重なものだと思います。
特に訳者の解説による著者の改心と倫理観から王室内の主導権争いが知れて大変面白いと思います。
Posted by ブクログ
16世紀の大航海時代におけるスペイン人のひたすら残酷なアメリカ侵略というか、今でいうならジェノサイドの状況について、キリスト教伝道師ラス・カサスが国王に報告し、その改革を促したもの。
延々とつづく極悪非道な描写は、事前の想像をはるかに超えるもので、この本の記述によると2,000万人以上のインディオスが虐殺されたことになる。
人数については、やや誇張気味の傾向はあるようだが、全くおかしいというわけでもなく、1,000万人以上が亡くなったのではないかという推計もあるようだ。
近年の歴史的な研究では、インディオスの死はかなりの部分、ヨーロッパ人が運んできた疫病(ヨーロッパ人は免疫がある)によるものとされているが、この報告ではインディオスの死者は全て虐殺によるものという書き方になっている。
当時の知識、そしてインディオスの虐殺や奴隷化の禁止を訴えるという本書の目的からするとそれは仕方ないことなのかもしれない。疫病もスペイン人が侵略せず、インディオスを強制労働させなければ、ここまで深刻化しなかっただろうと考えることができるし。
つまり、スペインによるラテンアメリカの侵略は、ナチスのホロコースを凌ぐジェノサイドであった可能性が高いということになる。
残虐行為の記述の連続に読み通すことがなかなかつらい気持ちになったが、これらの人非人な行為については、だんだんと必ずしも誇張ではなく、おそらくそうしたことが起きたんだろうなと思えてくる。なぜならば、ここに書いてあるような行為は、ホロコーストの記録などでも出てくるからだ。
そして、こうしたことは、第二次世界大戦後、そして現在進行形でも繰り返されているわけで、人間という存在の持つ底知れぬ残酷性を改めて感じる。もちろん、こうした状況の中でも、それに対抗するラス・カサスのような人物も現れるし、さまざまな形で抵抗、抗議する人もいるという希望は常にある。
これは人類の残虐性に関する記録であるだけでなく、16世紀にヨーロッパが世界に進出する中で生じた資本主義という世界システムの起源でもある。このシステムの始原には、マルクスのいう原始的蓄積として、こうした残虐が行為がなされたということ。そして、そこにはレイシズムが存在していたということが身に沁みた。
スペイン人がインディオスを虐殺、あるいは奴隷化し、金や財宝を収奪したというこの本に描かれた世界の後、黒人をアフリカから連れ出し、生かさず殺さずの奴隷労働がシステム化されることになり、原始的蓄積が進むことになる。
スペイン中心の世界システムは、徐々にオランダやイギリスに移っていく過程で、それらの国において、反スペインの運動にこの本は利用されるわけだが、スペイン後の世界システム、つまり帝国主義において、残虐性がどの程度改善したのかは、よくわからない。
歴史的な正確性を求めてはいけないが、この本はいわば資本主義の原罪を記録した歴史的文書として、ある意味、今、私たちがいる世界を考えるための必読書だと思う。
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これがキリスト教の本質。異民族は人として扱わない。イエスの思想とどれだけ乖離していることか。そして現在も本質は同一であり、末端の信徒はお気の毒としか言いようが無い。
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コロンブスによるアメリカ大陸の発見後、キリスト教化を名目に多くのスペイン人が入植した。その中の一人、スペイン人宣教師ラス・カサスは現地でスペイン人による凄惨な虐殺を目撃する。本書はラス・カサスがその事実を告発するために記録したものである。
まず何よりも、ここに記されている記録はあまりにもおぞましい。老若男女を問わず行われる凄惨な暴力と拷問、人を人とも思わない数々の行為は、時代が数百年違うとはいえ、ここまで残酷なことができるのかと恐ろしくなる。しかし、それが人間の現実なのだろう。2024年の現在でもリアルタイムで虐殺が起きており、SNSで子どもの死体がタイムラインに流れてくることを考えると、その恐怖は現代にも通じるものがある。
ちなみにアメリカでは、多くの州でコロンブスデーが廃止され、『先住民の日』に置き換えられている。今やコロンブスは侵略や虐殺、奴隷制による搾取のきっかけを作った人物と見なされており、偉人としての扱いはされていないようだ。
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インディアスの人々は悪意や二心を持たない。きわめて恭順で忠実な民。謙虚で辛抱強く温厚でおとなしく、争いや騒動を好まない。口論したり、不満を抱いたりすることもなく、怨みや憎しみ、復讐する気持ちを抱くこともない。インディアスの人々は身体が細くて華奢で、ひ弱なため、重労働に耐えられず、病気に罹るとたちまちに死んでしまう。キリスト教徒(スペイン人)はそうしたインディアスの人々を男女・子ども合わせて1200万以上、残虐非道な形で殺害した。インディアスの人々の方からキリスト教徒に害を加えたことは一度もなかった。インディアスの人々に神の存在を知らせ、キリスト教に導く絶好の機会だったのに、彼らから救いの光を奪ってしまった。カルロス5世陛下がこれら悪事を根絶され、神が陛下に授けられた新世界を救済なさることを期待する。ラス・カサス
※虐殺のあった地域。エスパニョーラ島(現ハイチ&ドミニカ共和国)、ジャマイカ、キューバ、ユカタン、グアテマラ、ニカラグア、ベネズエラ、ペルーなど。
**以下、閲覧注意**
首枷をはめて重い荷物を背負わせ、疲れたり気を失ったりすると、鎖を外すのが面倒なので、首筋辺りに剣を振り下ろし首を刎ねた。大勢の人の両手を切断し、それを縄に括り、横にわたした長い棒にぶら下げた。棒には70組の手がぶら下げられていた。大勢の女性や子どもの鼻を削ぎ落した。人々を殺してはその肉を猟犬のエサとして互いに売買した。
子どもや老人だけでなく、身重の女性や産後間もない女性までも、見つけ次第、腹を引き裂き、身体をずたずたに斬りきざんだ。母親から乳飲み子を奪い取り、その子の足をつかんで岩に頭を叩きつけたキリスト教徒もいた。絞首台を組立て救世主と12名の使徒を称え崇めるためだと言って、13人ずつ1組にして絞首台に吊り下げ、足元に薪を置き、それに火をつけて彼らを焼き殺したキリスト教徒もいた。ある邪悪なキリスト教徒はひとりの娘を犯そうと思い、彼女を無理やり連れ去ろうとしたが、母親が娘の手を放さなかった。すると彼は剣で母親の手を切り落とした。しかし娘は言いなりなろうとしなかったため、娘を剣でめった突きにして殺した。
ラス・カサス『インディアスの破壊についての簡潔な報告』1552
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日本。豊臣秀吉、九州平定の折、キリスト教徒が九州で寺社の破壊や日本人の貧民を奴隷にして海外に売りさばいていることを知る。同年、キリスト教宣教師追放令を発布、キリスト教の布教を禁止。カトリック信者26人を見せしめに火炙りにした。1587
高知にスペインの軍船(ガレオン船)が漂着。スペインの軍船の水先案内人が口を滑らせてこう言った。「スペイン国王はまず宣教師を現地に送り込んで布教させ、つづいて軍隊を送り込み、多くの国を征服してきた」。サン・フェリペ号事件1596
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人はケダモノ同様の「獣性」を内在しているということを嫌というほど見せられた。。
生命は「永遠」であることと、宇宙に「法」があることを信じたい。
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酷すぎる話で、これにより中南米は無茶苦茶にされ、その影響は今に及んでいると理解すべきだと思う。
それでもこういう話は例えば日本の安土桃山の末期にもあっただろう。
つまり、罪を犯した人間の子孫は、いつまでもその責を負わざるを得ないのだと。何で、いつまで私達が対応しないといけないのか?という疑問ももっともなようで、でもやはりそれに値する重罪を犯したんだ、ご先祖さまたちは。過去からの恩恵も罪も背負ってこその現在なんだと。
Posted by ブクログ
ラスカサス司祭がフェリペ皇太子に向けて綴った報告書。これでもかという程、インディアス支配におけるスペイン人の残虐行為が記述される。エリアを変え、加虐者を変え記録された報告だが、行為の中身は殆ど変わらず、アッサリと読めてしまう。今から500年以上前に実際にあっただろう史実だ。当然、政治的作為にも注意して読まねばならないが、原住民の人口減は事実であり、それがウィルスに因るものもあるにはせよ、支配欲により暴力が暴走した事も事実だ。原始社会に近い程、支配欲は暴力によって成し遂げられる。だからこそ、国家概念や警察機能と法整備が必要だが、国家の相互承認が得られるまで、民族や領土をまたぎ秩序を保たんとしたのは宗教であるべきでは無かったか。しかし事態は逆であり、宗教が支配に利用された。
目を覆いたくなるような報告。是非、目を通して欲しい。
えぐい
当時のスペイン人の狂気の蛮行の一部が赤裸々に書かれている。
他に類を見ない残虐さである。
これを読むと、今の南米諸国の見方が変わってしまった。
Posted by ブクログ
時はコロンブスの新大陸確認から大航海時代。カリブ海の島々や中南米にやって来た征服者たちの残虐性からインディオを保護するために司教が書いた報告書。現代人の感覚からすれば狂気とも思われる行為が横行している。昔の話だからと言いたいが世界大戦時にも残酷なことはたくさん行われていた。僕の感覚はただ傍観者の無責任で聖人ぶっているだけなのだろうかと考えてしまう。あと、リーガエスパニョーラでのバナナの一件があった後なだけに、情熱的なのは盲目的でもあり良い方向にもその逆にも突っ走る恐れがあるなあとか考えさせられた。
Posted by ブクログ
吐き気を催す邪悪。
十六世紀におけるスペインのキリスト教徒が南北アメリカ及び中南米で行った殺戮の記録。修道士ラス・カサスがその虐殺を本国の王に伝え、やめさせるよう書き連ねた。
海からやって来たスペイン人たちを、心から歓待したインディオ。スペイン人たちはその彼らを切り刻み、殺害し、苦しめ、拷問し、破滅へ導いた。彼らが持つ金が欲しかったがために。
例えば人口三百万のエスパニョーラ島は殺戮が行われた後インディオは二百人に、人口五十万のバハマ諸島は、十一人にまで減っていた。
インディオを奴隷として船に積み、水も食料も与えず、死ねば海へ捨てた。その後ろを行く船は、死体を追うだけで海図も羅針盤もなしに航海を続けられたという。
また、インディオを兵士として使い、食料を与えない代わりに敵の体を食べる許可を与えた。スペイン人たちにとっては敵でも、インディオたちにとっては同族であるのに。
それぞれの地域の領主や王に対しても暴虐な扱いがなされ、けれど敬意が表され彼らには絞首刑が行われた。ということはつまり、敬意を表されなかった普通のインディオにはそれ以上の惨たらしい殺され方をしたということであり……。
おぞましい一冊。
Posted by ブクログ
大航海時代の幕開けから半世紀後、スペイン人征服者たちがインディオに対して行っている殺戮と搾取の実態を暴露。歴史的背景や文献学的考察など、詳細な解説つき。
ありえないです。ひどすぎます。
Posted by ブクログ
・大航海時代のカリブ海諸島で、スペイン人が先住民インディオに対して行った様々な迫害の記録。
・「簡潔な報告」という題名とは裏腹に、著者は「これでもか」というくらい執拗にスペイン人の悪行の数々を書き記す。同じような手口によってインディオがひたすら虐殺される様を描いたこの記録文書を読んでいると、気が滅入ってくるし、もっとハッキリ言ってしまえば辟易する。しかし、これが被征服者ではなく、征服者たるスペイン人自身の手によって書かれたことの意義は大きい。
・本書の受容史を論じた訳者解説は興味深い。その残虐さゆえに本書は諸外国によって「横暴なスペイン人」という反スペインキャンペーンの恰好の材料として利用され、それゆえ他方では、著者ラス・カサスはスペイン国内の保守主義者から「売国奴」のレッテルを貼られてしまう。こうして本書があまりにも強い政治的色彩を帯びてしまったために、客観的な学問研究の妨げとなっているという。似たような構造の問題を抱えるわれわれ日本人にとっても、この訳者解説は冷静な知見を与えてくれる。