あらすじ
舞台俳優・家福をさいなみ続ける亡き妻の記憶。彼女はなぜあの男と関係したのかを追う「ドライブ・マイ・カー」。妻に去られた男は会社を辞めバーを始めたが、ある時を境に店を怪しい気配が包み謎に追いかけられる「木野」。封印されていた記憶の数々を解くには今しかない。見慣れたはずのこの世界に潜む秘密を探る6つの物語。村上春樹の最新短篇集。
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Posted by ブクログ
木野が最も心に残りました。
失ったときにしっかりと喪失を向き合い傷つくことが実はとても大切でした。
こんな風に書くととても陳腐ですが、素敵な舞台装置と巧みな言葉使いでこんなにも感動的なお話になるのかと。
とても面白い。
Posted by ブクログ
映画『ドライブ・マイ・カー』を観たあとに読んだ。この本1冊が映画になったのだなあと感じた。
男にとって、女にはどこまでいっても理解のできない部分があるという論旨はそうなのかもなあと考えさせられた。
Posted by ブクログ
村上氏の短篇は幾つか読みました。
私の感覚では、彼の短篇というのは、偶然知り合った人から聞いた世にも稀なるお話、ややシュールな感じのお話が多いという印象があります。
具体的な近似を述べれば、『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』みたいな作風でしょうか。不思議、超自然、はたまた偶然。それを淡々と、微熱感のある興奮とともに綴る。
で、本作『女のいない男たち』は、よりテーマ性のある短篇に感じました。
タイトル通り、女性に去られた男性が過去を回顧するようなお話です。そしてそこに不思議、超自然、はたまた偶然、という村上節は従前同様にブレンドされています。
・・・
全部で六つの短篇で構成されています。どれもなかなか良かったかなと思います。
「ドライブ・マイ・カー」
妻と死別した舞台役者による、臨時運転手への独白。妻(女優)が浮気していたどうでもない男たち(同業者)の一人と友人になってしまったという話。妻の浮気心への謎を考える役者の未解消な心を描く。
「イエスタディ」
「僕」の学生時代のバイト先の友人、木樽の回顧。田園調布住まいの早稲田志望の二浪の木樽はバイト先でネイティブ並み関西弁(なにしろ天王寺にホームステイまでした)で、神戸出身で標準語の「僕」と会話する。木樽の幼馴染で恋人だった栗谷と20年後に偶然出会った「僕」は木樽の現在と栗谷のピュアな心に感傷・安心を覚える。
「独立器官」
独身主義の美容整形外科医院を営む渡会の話。ほどほどに女性と遊ぶことを旨としていた渡会が40を過ぎてから本気になってしまった女性。渡会は恋煩いといってもよい拒食症による心不全で死亡。その後の顛末を「僕」は秘書でゲイの後藤から聞く。そしてその女性と家族の顛末も驚くようなもので…。
「シェエラザード」
本作の中で最もSF色が強い作品。「ハウス」に隔離され匿われた羽原。定期的に彼の元を訪ねてくる家政婦(兼性欲処理?)の通称「シェエラザード」。ベッドの後で、彼女はいつも不可思議な話を語り、そして4時になると夕食の支度があるといそいそと「ハウス」を後にする。
「木野」
バーの店長、木野の話。彼はもともと陸上選手で、けがで夢破れ、スポーツメーカーに就職。後に結婚し、地味ながら充実した日々を送っていた。ところがとある日、出張から早く帰ってくると、そこには不貞を働く妻の姿が。しかも不貞の相手は彼の同僚であった。そんな木野が退職をし、バーを持ってから来るようになった不思議な常連「カミタ」とその後に起きた不可思議な出来事について。
「女のいない男たち」
これは正直良く分かりませんでした。物語というより独白だけの短い文章でした。
・・・
ということで久方ぶりの村上氏の短篇集でした。
だからどうなの、意味は?とかいう読み方ではなく、不思議な出来事が世の中にはあるねえ、という鷹揚な構えのもと楽しむような作品ではないかと思います。
私はなかなか好きです。
Posted by ブクログ
村上春樹による、タイトル通り女のいない男たちをテーマとした短編集。
村上春樹小説は学生の頃、一時期読んでいたが、おそらく10年ぶりくらいに読んだと思う。
全編を通して嫌というほど浴びせられる村上文学をそれぞれ短いながらも強く体感できる。
それぞれのストーリーにおいて、大なり小なりあるが少し奇妙な感覚を味わうことになる。それは登場人物の性格であったり、関係性であったり、多少の超常現象だったりと多種多様である。
テーマは前述のとおりタイトルがそのままテーマとなっており、様々な事情により女性に去られた(または去られる)男たちの心情やその周りの回想を描いた物語となっている。
例に漏れず主人公もしくはその周りの人物の心情描写が多く、また全員話が回りくどい。なんだか鼻に付く喋り方だなぁ、とも思うがいつの間にか心の深いところに染み込んでくる。
ミステリーを主に読む読者からすると、驚くような展開もないし、推理するような内容でもないのでストーリーは面白いのか面白くないのかよく分からなくなるが、やはり心理描写や情景描写は圧倒的濃度である。
「ドライブ・マイ・カー」
映画化もされた一編だが、正直よく分からなかった。妻に先立たれた家福と女性運転手渡利の関係性は好きだが、家福の妻の元浮気相手との回想は掴みどころがなく、何をしたいのか、考えてるのかが見えなかった。久しぶりの村上春樹の一編目ということもあるかもしれない。
ただやはり、全編を通して一番村上春樹味を感じられるような気がする。
「イエスタデイ」
木樽のキャラクターは嫌いじゃない。ドライブ・マイ・カーの家福にも通ずるが、演じることで自己を保っているように思う。本当はメンタルが強くないのに強がっている。木樽は個性が強く描かれているが、男というのは誰しもこういう一面を持っているのではないか。最後は少し切ない終わり方だが、全編を通しても悪くない結末と感じた。
「独立器官」
おそらく渡会医師の本当の意味での初恋と初失恋のような物語。彼の感情は初めて恋した中学生かのように描写されている。はじめは純愛の話かと思っていたが、それは渡会医師の方だけであったことが明かされる。全編を通しても最も悲惨な結末なのではないだろうか。
「シェラザード」
この小説の中には、多くの個性的な男性達が登場するが、ここでは不思議な女性が登場する。
愛するが故に片思いしていた人の家に空き巣に入り、欲望を満たしていた過去を持つ女性との不思議な夜の営みの話。空き巣していた頃の回想の描写がとてもリアルで緊張感を感じられた。リアルすぎて気味の悪さも同時に感じたが。この話では明確に女性が去ったかどうかは分からない、読者の想像に委ねられる形での結末となっていた。
「木野」
個人的には一番好きな話だった。
木野と神田のキャラクターがかっこいいし、木野の心情に感情移入できる。特にラストシーン、自分が深く傷ついていることに自覚して涙を流す瞬間は最も好きなシーンである。
この話はもっと広げて長編でも良かったのではないか、と思うほど設定が多く、しかも最後まで謎は明かされない。
木野から去った女性としては、元妻や常連客の女性だけでなく、一番最初の来訪者である雌猫も彼から離れている。
神田や叔母は何者か、突然現れた蛇は何だったのか、最後にノックしてきた者の正体は何だったのか、これらは現実なのか、もしくは木野の精神世界の話なのか、様々考えされられながらラストを迎えた。
「女のいない男たち」
タイトル通り、ここまでのストーリーのまとめのような話だった。
主人公の昔付き合っていた彼女の訃報が夫を名乗る男から届くところから物語はスタートする。
元彼女との回想どこまでが彼の妄想でどこまでが現実なのかよく分からないように描写されている。
彼や元彼女の夫は「女のいない男たち」となり、世界一もしくは世界二の孤独となったが、彼らだけでなく、誰しもが「女のいない男たち」となる可能性を読者に示唆している。要するに本書の主人公はかなり個性的ではあるが、読者それぞれを現しているということなのだろう。
たしかに全編を通して、失恋したときの感情に近いものも多かったように思う。
そして気付けばこの感想も回りくどく、何が言いたいのか分からなくなってきたので、ここで締めたいと思う。
結局私も村上春樹の書く文章にのめり込んでいるということなのだろう。