あらすじ
脊柱管狭窄症で尿道に管を入れられ自宅で寝たきりの状態を強いられている男性は、嫁に浣腸を頼むのが憂鬱だ。あげくに嫁は看護婦や医師にわたしが痴呆だと嘘をついて嫌がらせをしている。きっと施設送りにしようと企んでいるに違いない。そんなことはさせないと叫ぶが――「寝たきりの殺意」。豊胸手術に失敗した運の悪い女を描いた「シリコン」他、現役医師による背筋が凍るミステリー全6篇。
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ブラックなテイストに対しての人々の反応は、三つくらいに分けられると思う。
①ブラックユーモアが分かる人 ②面白さが分からない人 ③怒り出す人。
この本は①に該当する人にお勧めしたい。
かなり濃い。
そしてお医者様の書く医療物は本格的であり、ああ、こんな患者に悩まされているんだろうなー、そりゃ気晴らしも必要だ、と思う。
【寝たきりの殺意】
寝たきりの高齢男性・守山(もりやま)のモノローグで終始する。気難しくわがままな老人だ。
舅の介護が嫌でたまらない様子の嫁だが、なぜか嫁の方の肩を持ちたくなってしまう。
守山はついに嫁に殺意を抱き、さてどうやって殺してやろうかと想像するくだりが、ブラックユーモア。
首を絞める、小便を漏らす。毒を飲ます、泡を吹いて・・・やっぱり小便を漏らす、うははは、と妄想する守山。
実は・・・
【シリコン】
豊胸手術に失敗した「運の無い」女の復讐。復讐の手段が・・・
おっぱいと一緒に良心もいくらか切り取られてしまったのだろうか。
【至高の名医】
清河武史郎(きよかわ たけしろう)は、神の手を持つと言われる外科部長。ストイックで正義漢。医師にも患者にも厳しすぎるのが玉に瑕。
ふとした事で、病に対する恐ろしい体験をし・・・
【愛ドクロ】
文京大学医学部の解剖学講座の技術員である原山良人(はらやま よしと)は頭蓋骨マニア。
良人は多くの標本を管理するうち、人の頭蓋骨が透けて見えるようになった。
自分だけの美しい頭蓋骨を手に入れたくて仕方がない。
【名医の微笑み】
矢崎逸郎(やさき いつろう)42歳。0.1ミリの狂いが血管を突き破りかねないカテーテル治療の第一人者。そのほか、朝から外来診察、患者への治療説明、医療機器メーカーとの打ち合わせ。病棟の患者の診察では愚痴を繰り返す半身不随の老人、中途半端な医療知識を振り回すわがままな家族にも、矢崎は丁寧な対応と微笑みを崩さない。
自宅では三年前に脳梗塞で倒れた父の食事の介助。妻から、息子の学力についての愚痴。息子は塾の勉強について行けず、妻は進学校に入れることだけが正義と思っている。自分の家族のわがままに対しても、矢崎は丁寧な対応と微笑みを崩さない。
このストレスに見合うほどの息抜きはあるのか?
【嘘はキライ】
水島道彦(みずしま みちひこ)38歳、独身。都立新宿医療センターに勤務。去年、内科医長に昇進。
嘘が見抜けるのでは?と看護師。嘘を言う人間は、後頭部からすっと黄緑色の狼煙が立ち上る。
その能力を、教授選に利用される。
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私がどんなに努力してもなれない職業の一つ、医師。とてつもなく頭のいい人、でも、だから、きっとどこか欠点とか性癖とか裏の顔とか持ってるだろなぁ、きっとこんな医師いるんだろなぁ、
Posted by ブクログ
面白かった!
医療系の短編小説は特に読者と有識者の知識の乖離が起きやすいように思うが、今作はわかる、推察できるギリギリの用語が多く、興味深く読めた。
汚い部分や倫理観から外れている欲望なども小説内にあり、それは人の生死を見てきた人間が故なのかもなと考えさせられた。
しかしながらちゃんとした正義の軸もあり、人の多面性を感じられた。
嘘はキライ!内で出てきた本物親子丼、自分は良く思ったので食べられる場所があったら食べたい。
今まで読んだ中で1番巻末の書評が面白い。大体読んだ時に感じる感想はこの巻末の中野さんが書いてくれているから書くことが無い。
Posted by ブクログ
【医者、患者は何を思う】
医療ミステリー短編の6話。
「寝たきりの殺意」は後の長編「老乱」の様な認知症高齢者が主役。認知症の人がどう世の中を見て、聞いて、感じるのかは分からないはず。認知症は不可逆的であるからだ。それは死の瞬間や死後が分からないのと近いのだが、恐らくこの様なのだろうと怖くなる、擬似認知症体験小説である。
「嘘はキライ」は超能力SF短編といったところか。軽い話として楽しめる。
Posted by ブクログ
医療関係のお話が6編入った短編集。ミステリー、とあるけど…どうなんだこれは(^^; どのお話もかなり毒がきいてて、結構好きだな~。現役医師の書いた小説だと思うと、エロもグロもあんまり生々しく感じないというかうっすらエタノールの匂いがするというか…そんなん私だけか? 私はいわゆる軍艦頭なので『愛ドクロ』に出てきたような、自分の頭蓋骨の3D映像をぜひ見てみたい!(笑)
Posted by ブクログ
医療関係の短編集です。
専門用語などはありますが、そんなに難しいこともなく、医者の世界のおかしさ・世界の狭さなどがうまく描かれています。
医療に携わる人間であれば、シニカルに笑えるという感じだと思います。
もっと他の著作も読んでみようと思います。
Posted by ブクログ
大阪大学医学部卒、現役医師の久坂部羊。初めて読んだ『廃用身』は衝撃的でノンフィクションかと思ったほど。その後に読んだ何冊かの長編すべて、読むたびに「病院ってこんなものなのか」と思わされ、同様に病院を舞台にした海堂尊にユーモアまみれの作品も見受けられるのに対し、こちらはいつも相当ヘヴィー。そんな久坂部さんの短編を初めて読みます。
収載されている6編は『寝たきりの殺意』、『シリコン』、『志向の名医』、『愛ドクロ』、『名医の微笑』、『嘘はキライ』。
自分が正気であると疑わず、おざなりな介護をする嫁に殺意を抱く老人。貧乳にコンプレックスを抱き、ついに豊胸手術に踏み切る女性。自他ともに認める完璧主義者だったのに、ある患者の亡き後に自分のミスに気づいてしまった医師。骨フェチで、もはや女性を選ぶ観点が頭蓋骨の美しさになってしまった技術員。終始ニコニコ、その実はどす黒い感情を抱えている医師。患者をはじめとする周囲の人々の嘘を図らずも見抜いてしまう医師。それぞれの主人公はそんな者たち。
5編目までが皮肉に満ちた話です。ホラーっぽい展開の『愛ドクロ』、こんな話を書く久坂部さんって変態じゃないかと思ってしまう『名医の微笑』など、笑うに笑えず読後はぐったり。しかし6編目のホッとさせられるオチに、やはりこの人は医者としても優れているのだろうと思わずにはいられません。こっちは患者で、信頼する先生にからかわれ、最後は安心させられたような気分です。
Posted by ブクログ
帯の煽りがミステリーだったので購入しましたがミステリーではないと思う…
唯一 嘘はキライ はちょっとミステリーぽくてラストの爽快感がよかった。
1番好きなのは 名医の微笑 。主人公の裏の顔より表の顔のがよっぽどグロいと感じる。
読みやすくてちゃんと面白いけど中々に不愉快な描写もあって、こういうのは好きです。
解説が相当愛がある感じで、読み物としても面白いので星一つは解説に捧げます。
Posted by ブクログ
初めての著者本。単行本の時から、気になってたけど、基本文庫本しか買わないので、文庫発売日に、いそいそと購入しました。
奥田英朗の「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」と精神科医の伊良部シリーズを読んだ後だったので、お医者さんの話とはいえ、
患者視点のメディカルコメディ(?)伊良部シリーズとは毛色の全く違う本作。あらすじにも「ミステリー」と銘打っているので、
どんな感じなのだろうと、わくわくしながら読み始めました。
最初の話「寝たきりの殺意」を読み始めた時、ちょっと身構えました。
「ひょっとして・・、ミステリーはミステリーでも、”イヤミス”の類・・?」と不安になりました。
というのも、あたしは、ミステリーは好きだけど、「イヤミス」と呼ばれるものは、苦手だからです。
真梨幸子の「殺人鬼フジコの衝動」と乃南アサの「犯意」を読んで、「ストーリーは面白いけど、心理的ストレスが半端ない」
と思いました。トラウマ的というか、読後感(読んでる間もですけど)の心理的負担というか・・、とりあえず、自分には合わなかったようです。
話は逸れましたが、それがあったので、この「嗤う名医」も全編そうなのかな・・と読み始めから不安になりました。
ネタバレになるので、オチは避けますが、結果的に言えば、あたしが心配した「イヤミス」ではありませんでした。
なので、2話、3話・・と読み進めて、オチは分からないけれど、話の方向的には安心して読めるな、という印象でした。
ただ・・1点、「名医の微笑」、これだけは、顔をしかめながら本を読みました。
そういえば、矢崎のストレス発散の場・・似た趣味を持つもの同士の場の描写が、漫画「サイコドクター」にもあったことを思い出しました。
本作だけしか読んでなければ、「男性作家の妄想の域」なのかなと思いますが、他作でも似た場面があったとなると・・
ほんとにこういう世界があるのだろうかと思うと、恐怖です。真相はわかりませんが。
上記を除けば、全体的に面白かったのですが、個人的には、最初の「寝たきりの殺意」と、一番最後の「嘘はキライ」が好きです。
「寝たきりの殺意」は、自分含め、誰でもそうなりそうだな・・という印象。決して他人事ではないと思います。
最後の「嘘はキライ」は、他の5編とは若干異なると思います。というか、表現が面白くて、ニヤニヤしながら読んでしまいました。
一番楽しい話なので、そういった意味では、最後にもってきて正解だな・・と思いました。
Posted by ブクログ
「笑う」じゃ無くて「嗤う」。笑えないお話ばかり。名医の裏の性癖‥‥ちゃんと治してくれればと思い、そんな人に触れられたくないとも思い‥‥複雑。七つのお話に出てくる医者は作者の分身?と感じた瞬間があったけれど、まさかね‥‥
Posted by ブクログ
様々な医師を主人公にした短編集。久坂部羊の短編小説を初めて読んだのだが、どの短編も医療に関する深い知識をベースとしたミステリーの中にブラックユーモア、恐怖など様々なスパイスが効いていた。反面、これまでのよく練られたプロットの長編ミステリーに比べると物足りなさを感じてしまう。
『寝たきりの殺意』『シリコン』『至高の名医』『愛ドクロ』『名医の微笑』『嘘はキライ』の6編を収録。
Posted by ブクログ
短編集。
手術シーンとか妙にリアルやと思ったら作者もお医者さんらしい。
1番面白かったのはシリコンと至高の名医かなあ。
シリコンは豊胸手術に失敗した女性がシリコン除去手術を受けるものの適当な処置をされて胸まるごと失ってしまって絶望…ていう話。
あまりにも女性が哀れやし手術にあたった医師と看護師が嫌な奴やねんけどちゃんと報復もあってスッキリするラストで良かった。
至高の名医は主人公の医師が自分にも他人にも厳しくてなんかいいキャラしてた。
そんな彼が心底怯える出来事に初めてぶつかることで角が取れて丸くなるのが面白かった。
理由もまさか周りが聞くと彼が?!て思うようなことで…(女遊びに無縁やったのに看護師に誘惑されてワンナイトしてその女性がまさかのエイズやったという)
名医の微笑みは謎が残ったな。
最後のシーンで看護師に襟の乱れを指摘されるシーン。あれなんの意味が…??
わざわざ書いてるからには何かしらあるんやろうけどどうしても分からんかった。
Posted by ブクログ
「悪」だって良いじゃない。だって人間だもの。
名医の微笑が一番面白かったです。SM倶楽部での描写は圧巻でした。鬱屈して蓄積した攻撃性の発露は、ちょっと気持ち良かったです。
解説に仲野徹先生がいらしたのは、僥倖でした。
Posted by ブクログ
読書録「嗤う名医」4
著者 久坂部羊
出版 集英社文庫
p259より引用
“「ほんとうさ。疋田教授は学会の基準地決
定に影響力があるだろ。彼の一声で中性脂肪
の基準値が一〇ミリグラム下がれば、薬の売
り上げが億単位で伸びるんだ。だから、製薬
会社からな」”
目次より抜粋引用
“寝たきりの殺意
シリコン
至高の名医
愛ドクロ
名医の微笑”
医療や病院界隈で起こる事件を描く、短編
小説集。全六編。同社刊行作文庫版。
不便な体でありながらも、日課の運動をこなす男性。努力しても動かない下半身とあまり関係の良くない息子の嫁とのやり取りにいら立つが…。(寝たきりの殺意)
上記の引用は、高名な大学教授の不正経理
疑惑についての台詞。
人の健康を左右する基準が、薬屋さんの儲け
のために決められているのなら、基準値など
というものは当てにせず、自分の体を自分で
管理できるようになりたいところです。
著者は出版当時、現役の医師であったそう
で、実体験を元に書かれている部分もあるの
でしょうか?リアリティのあるホラーといった
味わいで、「世にも奇妙な物語」で映像化さ
れそうな雰囲気です。面白いけれど少々気持
ち悪く、後味もすっきりしない作品ではない
でしょうか。
ーーーーー
Posted by ブクログ
6つの短編の中では【シリコン】が1番面白かった。
【至高の名医】もよかった。
【名医の微笑】はちょっと苦手。
いずれも、お医者さんって、色んな人(患者)を相手にして、ストレスの溜まる職業なんだなぁと思う。
Posted by ブクログ
久坂部さんの作品は、医者も人間なんだなーと感じさせられる。そして病気と患者と医者同士の確執とかストレス多そう。
個人的に好きなのは「シリコン」。美容整形に失敗した運のない女子が、これからの人生に希望を見出す、光のある感じが良かった。
Posted by ブクログ
脊柱管狭窄症で尿道に管を入れられ自宅で寝たきりの状態を強いられている男性は、嫁に浣腸を頼むのが憂鬱だ。あげくに嫁は看護婦や医師にわたしが痴呆だと嘘をついて嫌がらせをしている。きっと施設送りにしようと企んでいるに違いない。そんなことはさせないと叫ぶがー「寝たきりの殺意」。豊胸手術に失敗した運の悪い女を描いた「シリコン」他。
Posted by ブクログ
6篇からなる短編集。
この作品も読みやすくスラスラ進む。
短編なので、やや物足りない感もあるが、軽く読みたいときには手頃だろう。
寝たきりの殺意
寝たきり状態となった男が、世話をする嫁に対する不満を募らせる。嫁は男のことを痴呆だと嘘をついて嫌がらせをしていると、往診の医師に訴える。
シリコン
豊胸手術を受け、胸部にシリコンを注入された女。はじめはうっとりする程美しく膨らんだ胸が、次第にボコボコとし腫瘤のようなものが触れるようになった。癌ではないかと不安になり、女は病院へ行く。
至高の名医
腕が良く、ゴッドハンドともてはやされる外科医の男は、常に仕事に対し厳しく向き合っていた。あるとき、担当患者が亡くなり、カルテなどを見直していると、男は見落としていた癌の転移があったことに気づく。
三作品のあらすじを書いたが、現代によくありそうなことだと感じた。
介護に関する問題、コンプレックス克服のための美容整形の問題、テレビでよくあるゴッドハンドドクター。
いつものように久坂部さんらしく医療問題に切り込んでいるが、切り込みは軽めだ。
「白い巨塔」を彷彿させる教授選だったり、これって実体験なのかくらいにリアルなSMプレイの様子など、久坂部羊さんの時として嫌悪感を伴う描写もあって面白い。
最後に久坂部羊さんの友人である仲野徹さんの解説がある。
友人である仲野さんの目に映る、作家久坂部羊の人となりも窺え興味深く読める。
Posted by ブクログ
介護、整形、医師のストレスなど、医療現場を舞台にした短編集。とても読みやすい文章で、描かれる世界にすんなり入っていける。
最初の3編は展開に目新しさが無いものの楽しく読めた。特に「寝たきりの殺意」のクソジジイっぷりときたら!次の2編は異常な趣味嗜好を持った医療関係者の話が続いて気分が悪くなったけれど、最後の1編、白い巨塔の派閥争いに巻き込まれる男の話「嘘はキライ」は面白かった。
他の作品を読んでみたくなる程の魅力は感じなかったが、短編集ということもあり気軽に一気読みできた。