あらすじ
妻が死んでも泣けない男のラブストーリー。映画化話題作
予期せず家族を失った者たちは、どのように人生を取り戻すのか――。人を愛することの「素晴らしさと歯がゆさ」を描ききった物語。
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Posted by ブクログ
9年前に本木雅弘主演の映画を観たがワガママな小説家が自己嫌悪に陥りながら足掻いている印象しか残っておらず期待して遠くの映画館まで観に行ったのでガッカリしてしまったのを覚えている。原作を読み西川美和さんはすごいと感じました。物事を表現するのにあまり形容詞を重ねると薄っぺらくなってしまうのですが西川美和さんは矢継ぎ早に言葉を紡ぐのに表現に深みが増していき引き込まれてしまう。今年読んだ本で間違いなく一番の作品です。西川美和さんの他の作品も読みたいと思います。
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2024/6/18
西川美和監督「永い言い訳」が観たいと前から思ってたけど中々機会がなく先に本を読んだ。何か、すごい、好きな話だった。人間がよく描けているなぁって。良かった。脳内キャストは誰もヒットしなかったので恐る恐るググってみたけど…う〜ん、、どうだろう、でも観るの楽しみ。
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この幸夫の今風というかなんか人間的には欠陥があるとか言われそうでも能力があって能力があるからこそ欠陥を指摘されるような人がでも顔もいいわけで妬みもあったりして、そういった諸々が実に今っぽいというか。皆がそれらしく常識人として振る舞っている姿もそれなりに異常っぽくもあり、普通なようでもあり。でもやっぱ言いたいことを心に留めたり酷いこと言ったり。そんなグチャグチャが幸夫のおかしさに隠されてユーモアになってまぁ語り口も楽しい。
なんか救われるような救われないようなラストもたまらん。
というわけで不思議な面白さだったわけですよ。
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愛の冷めた夫婦と、幸せに見える子供2人の4人家族。両方で妻(母)を失って、夫である幸夫と陽一がそれぞれ妻のいない人生を歩んでいく話。
ラブストーリーとも、家族の物語とも、成長の物語とも違う気がする。
妻を失った直後の感情、だんだんと生活の変化に慣れること、自分や他人を責めること、向き合うことから避けること、子供に自分の存在意義を求めること、自暴自棄に生きる意味が見出せないこと、さまざまな感情が渦巻いて、簡単に前に進めるものでもない。前がどこかもわからない。
永い言い訳、と言うタイトルは、そんな中で人は永久的に自分自身を納得させようと言い訳し続けると言うことか。
でも死と向き合うこと、妻と向き合うこと、現実と向き合うことを少しずつしながら、時には言い訳もしながら、生きていくんだろうと最後には希望も持てる本。
「泣ける本」とオーダーして選書してもらった本だけど、すこーしだけ泣いた。感情昂って泣くよりも、ジーンとくる本だった。
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同じ事故で妻を亡くした男と母を亡くした子供たち__まるで家族のように過ごす日々が彼らを前に進めていく。ハートフルかと思いきやそんなことはない...綺麗に描きすぎない人間味溢れる話でとても良かった。読み終えてタイトルの"永い"っていいなとしみじみ思いました。
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事故をきっかけに仲良くなった子供を通じて、愛について学んでいく物語。
人は人を通じて学んでいく。
主人公の変化していく気持ちが悲しくて愛おしい。
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自分にしては珍しく、本のタイトルをよく思い出す小説だった。そしてそれは、この物語全てを締めくくる言葉だ、と考えることが容易だったからだろう。
この話は幸夫の永い言い訳そのものだ。だから、結局これら全てが言い訳になる、という結末が見えていた。つまり、読みながらこの感情はいつか言い切ることができるようになる、とわかることができた。
この物語で私の心は何に揺さぶられたのだろう。言い訳であった行動や心情に共感しなかったと思う。ただ、悲しい出来事が起こるたびに可哀想にと同情してた。そういえば、もし自分の相手が死んだとしたら、も考えなかったな。それもまた彼の心情に共感しなかったからだろう。
ただ、この物語は言葉の積み重なり複雑に絡む文章が難解で、しかし結末は見えているのだからそこに足を取られたくない気持ちがして、なのか、先へと先へと読んでしまった。もっとでんっと、ゆったり読んでみたいものだった。
まあ、だが面白かった。他の作品も読もうと思う。
そういえば、読み終えてから始めのページをパラパラと見返してみると、初めはここでいう「言い訳」を定義するような話から、そういえば幸夫は美形で名前にコンプレックスがあったことを思い出した。そしてこのような外見的なことは読み進めていくうちに薄くなり、幸夫の内面的なことばかり描かれていたことに気づいた。
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何の気無しに手に取った一冊にしてはとてもパンチ力のある一冊だった。
小説の魅力の一つに文章から、この先自分では体験しないであろう人生を追体験できるというのがあるように私は思うが、この本は登場人物の心境が事細かに描かれておりリアリティに舌を巻いた。
衣笠幸夫のように非常になれたり、大宮陽一のように家族の悲しみにやるせ無くなり少し荒れたり、大宮真平のように自分の境遇に対する不平不満に押しつぶされそうになったり…。
読者自身は妻、家族をバス事故で亡くした訳でもないけどその心情がヒシヒシ伝わってくるような、鬼気迫る一作でした。
本当にながいながい言い訳でした。
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2016年本屋大賞第4位作品。
不慮の事故により妻と母を喪った二組の家族が、ひょんなことから交流して再生していく話し
最初は少しつまらない感じがしましたが、二組の家族が交流するところから俄然惹き込まれて、最後は優しく読み終えることができました❗️
愛する人を喪った悲しみは簡単に癒えることはありませんが、瘡蓋のように時間を掛けて日常に溶け込んでいくのだと感じました❗️
心にジンワリと染み込むオススメのラブストーリーです❗️
Posted by ブクログ
愛するべき時に愛することを怠った代償。
気づくの遅すぎ!と思いながら、
少しづつ幸夫の気持ちがほぐれていくのを
見てた。
真平とあーちゃんとの交流は、不器用ながらも
微笑ましくて、幸夫のダメさもいつのまにか、
憎めなくなった。
生きていくためには思うことができる存在が
必要と気付いた幸夫が、自分自身の納得できる
言い訳を見つけられて、良かったと思う。
この先は、永い言い訳をしながら、自分と
向き合っていくのかな?
映画も見てみたい。
Posted by ブクログ
パートナーの死がもたらすものは何か。
残された家族が幸せだったパターン。子供がおらず夫だけ残されたパターン。
この2つの家庭が交流し合う中で、それぞれの葛藤などを描いた作品。
子供の柔軟性。妻を愛していた夫の辛さ。妻を愛していないと思っていた夫の心の底にあるものが揺らいでいくさま。
素晴らしかったです。
他の作品も読もうと思います。
Posted by ブクログ
妻を突然亡くしてからの夫の再生記みたいな感じかと思ってたけど、もっと奥深い話だった。冷めきった夫婦が相方を亡くし、同じ境遇の家族と自身の対比で落ち込みながらもその子供達と触れ合いながらようやく妻の死と対峙して自分が知らなかった妻の一面を知って後悔を抱えながらもがきながら生きていくみたいなことなのかな。どの家族もそれなりの問題を抱えていて見る角度や人によって良くも悪くも違ってみえるんだと思った。
Posted by ブクログ
面白い!
個人的には「ゆれる」よりヒットしました。
いや、それは「ゆれる」は映画を先に見て、オダギリさんの演技が許せないという個人的な感情が邪魔してるだけかもしれませんが。
「永い言い訳」の映画は見てません。これからも見ないことにします。
身近な人が死んで、本当に泣けるようになるには、実は時間がかかる、葬儀の時なんか全然泣けない、その感覚に共感。
僕は15で父が死んで、ホントに泣けたのは19の時だった(たぶん)。
自分のむしゃくしゃを、無罪の子供にぶつけてしまった時の、罪悪感と死にたいような気持ちにも共感。
あの思いを二度としたくなさすぎて、今は子供が思い通りにならなくても、怒らなくなってしまった(それで良いかは分からんけど)。
文学的にどうこうとか思うより、シンプルに引き込まれてどんどん読んで、推理でもサスペンスでもミステリーでもないのに、あっという間に読み終わった、そういう作品。
けど、どうなんだろう。奥さんを亡くした男性の話だから、男性の自分にハマったのか。
身近な女性の感想を聞いてみたい作品。
Posted by ブクログ
「いつか君に出会って欲しい本」にて紹介されており手に取る。
出だしで、いきなり永い言い訳が説明され、結構驚かされる展開、終わるので短編集かと思った、が話は続く。なかなか見ない構成だな。
バスの事故で妻を亡くした小説家の主人公、同じバスの事故で妻を亡くしたトラック運転手の家族にふれ、死や生きることを考える。
主人公駄目人間加減とトラック運転手家族の対比も面白い構造を作っている。
多くの本、小説でも問われているが「大切な人が急に死んでも後悔しない生き方をしているか」と言う問題を改めて考えてみる。大切人が病気で余命何日となっても、特に後悔や行動を変える事もないかと思うと、出来ている気はする。家族仲は良いと今は思う。
ふと、出だしに説明されていた、永い言い訳の行を再度読んでみる。ん?いるかこの文。
booklogをいじっていて気づく、あ、これ再読だな。良いと評価した本なのに、全然覚えていない自分に驚く。でもまあ、面白い小説を新鮮な気持ちで2度も読めたと思うことにする。
Posted by ブクログ
主人公がクズ過ぎる上に幼稚過ぎるけどそれとは裏腹に巧みな言葉で物語が紡がれていて最後まで一気に読んでしまいました。自分自身や、身近な人に必ず訪れる死について考える時間になりました。
Posted by ブクログ
これで好転する、と思ったらこじれて
また復活してこんどこそ
と思ったらまた躓いて
そんなことを繰り返しながら「家族のようなもの」になってゆく。失った本当の家族とは「家族」になりきれなかったのにさ。
再生と破壊を繰り返してゆくうちに、後ろめたさを感じながら、言い訳を見つけてゆく。ああしてあげればよかった、こうすればよかったのか。
その言い訳は、生きながら探して見つけてゆくから「永い」。
Posted by ブクログ
もしこれが実話だったら、いくら永い言い訳をされても私が亡くなった妻だったら幸夫を許せない…笑
こういう妙に薄情なダメ男は、実在していそう。
亡くなった妻の友人家族と深く関わって喜怒哀楽を共にする様子は憎めなくてハートフルな気持ちになった
Posted by ブクログ
あらすじをみてハートフルな感じになるのかと思ったらそういうわけでもなかった。子供たちとふれあって元気を取り戻していく、でもいい話だと思ってしまうけどそれだけの話じゃなかったのがおもしろかった
Posted by ブクログ
面白かった。
最初は人間味のない、ドロドロした話かなと思いましたが、徐々に融解していきました。
多人数の視点で書かれており、個々の心情がよく理解できたので、良かったです。
Posted by ブクログ
映画で気になっていた作品だったが,なんとなく本木さんが嫌いになりそうな役柄だったので,見るのに躊躇していた。(好きなので嫌いになりたくなかったから)なので小説で読んでみようと思ったのだけれど,配役を知っていたので脳内で役者さんに当てはめて読んでしまった結果,最初,失敗したと思った。本当にこんなに好きになれない主人公はなかなかいないくらい性格の悪い主人公。
ただ子どもたちの交流を通して,愛を少しづつ知っていくところに救われた。
ー愛するべき日々に愛することを怠ったことの,代償は小さくはない。
この一文は,自分も心に留めておきたい。
Posted by ブクログ
四十代、人気作家の妻が、高校からの友人とスキー旅行へ行った際、バスが崖から落ちて、友人ともども帰らぬ人となる。友人の夫と初めて会ったのは、被害者の会。八歳ほど若く、まだ三十代のその夫は、まっすぐな激情型で、妻の死を大いに悲しみ、憤っているが、作家のほうは、もうずいぶん前から妻との仲がうまくいっていなかったこともあり、また、元来のひねくれた性格ゆえ、悲しめない。事故の時、若い編集者を家に連れ込んで性交していた負い目もある。作家のほうに子供はなかったが、友人夫婦のほうには小6と4歳の子供があり、作家は、母親を失い、生活の立ち行かなくなった家族を見て、トラック運転手という不規則な仕事をしている父親に代わり、塾のある日だけ、子供たちの面倒を見ようと申し出る。
これもずっと読みたいと思ってて、ついに読んだ。映画は見ていない。なぜか、妻が不倫相手と一緒に事故に遭う話と勘違いしてた。不倫してたのは夫だったが、それはこの話の核ではない。まったく心が通っていないのに、夫婦という形だけ維持してきた夫が、不慮の事故で妻を亡くしたときに、自分の妻がどういう人間だったかわからず狼狽える話だった。自分でも、皮肉屋で、人と同じに感動したりできないと言っているが、これがまったく嫌なクズ夫で、事故後も、普通に不倫相手を抱いたり、気遣ってくれる編集者に暴言を吐いたり、近づいてくるファンを疎ましく思ったり、事故の特集番組をくそくだらないと思いながら作家としての体面を保ったり、する。妻の死を悲しむ様子はない。ただ、ことあるごとに、不在を感じている。
不器用ながらも子供の面倒を見ることで、自分の存在意義を見出す過程はかわいかった。でも、せっかく築いた関係も、むらむらと湧いた僻み根性で、ぶち壊しにしてしまう。その後、トラック運転手が事件を起こし、その後始末をすることで関係は修復する。そうしてようやく、作家は妻の死を実感する。確かに愛し合った日々はあったのに、いつしか空気になり、存在すら疎ましくなっていた日々を悔い、涙する。
映画の人だからかな、登場人物の視点がわりと自由に行き来し、主人公にしても、幸夫、と三人称で書いたり、ぼく、と一人称で書いたりしてあったが、読みにくいことは全然なくて、面白かった。いろんなところに目が行き届いている感じがした。人間は失敗するなあ。それでも生きていかないといけないんだなあ。以下、いいなと思った表現の書き抜き。
「こんがりと日焼けした高い頬骨に、咀嚼力の強そうな顎は、昭和の時代の面立ちを彷彿とさせ、光沢のあるハイネックのアンダーシャツに、見るからに着慣れないツイードのジャケットというその出で立ちからしてホワイトカラーの種族には見えなかった。」
「ああ、月並みだが、子供の瞳というのはほんとうに澄んでいるものなのだ。 幸夫は針のように細い矢で、胸の悪いところを射られたような気がした。」
「留守番を命じられた子犬のような表情になった陽一を見て、幸夫はこころひそかに満足した。腹の皮の内側を、羽根でくすぐられるような愉楽があった。」
「陽一にも、この女性にも共通する年甲斐もない純真無垢のようなものにも、ほとほと嫌気が差す。ただ悪意が無いことをかさにきて、無遠慮に他人の領域や後ろ暗いところに踏み込んできては、心を荒らす。」
Posted by ブクログ
理屈っぽく愛を知らない幸夫と、直情的で愛に生きる陽一の組み合わせがおもしろかった。
母親を失った子どもたちが幸夫に心を開いていく過程や幸夫が愛の形に気づいていくのは微笑ましかった。
ただ、幸夫があまりにも自分勝手で子供っぽくて、そのせいで感情移入できないところが多すぎた。
Posted by ブクログ
実写がもっくんと深津絵里だと分かったうえで読んだせいか、あまり感情移入はできなかった。
それでも、この作家の作品はもう一冊くらい読んでみたいかな。人の性の奥深い部分に気づかせてくれるかもしれない、と感じたから。
Posted by ブクログ
映画キッカケでこの作品を知って気になってたのだけど、映画見る前に読んでみた。
真平とアーちゃんと打ち解けていく過程、4人での何気ない幸せな日常がとても好き。子守初日の主人公とアーちゃんのやりとりが面白かった。
最後の夫たちから妻への手紙もグッときた。
身近な人を大切にしたいと改めて思う。いつ何が起こるかわからない。生きてるうちに、今、大切にしないと。
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妻をバス事故で亡くした作家・津村啓こと衣笠幸夫。妻の親友も同じ事故で亡くなり、その夫と子供2人が残された。残された4人で家族が再生されようとするが、そう簡単にはいかない。衣笠幸夫がダメ男すぎて、自分には許容不可能。感動ストーリーがかなりマイナスされました。
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衣笠幸夫(津村啓)
二浪して大学に入学する。就職活動の帰りに美容室に入り、田中夏子と再開するし、のちに結婚する。四年勤めた出版社を辞めた。小説家。
衣笠夏子
幸夫と大学で同じ語学クラスで顔見知りになったが、まもなく大学を辞めた。美容学校へ通い、美容師の資格をとった。旧姓田中。旅行のバスの事故により死亡。
栗田琴江
大友辰彦
スタイリスト。
ゆき
高校を卒業して以来、毎年二人旅をしている。再婚後、出産育児で中断していたが、下の子の灯が、二歳半になるのを待って再開した。旧姓橘。旅行のバスの事故により死亡。
大宮洋一
ゆきの夫。
灯
ゆきの娘。
真平
ゆきの上の子。
アリムラタイチ
小学校の時の友達。
岸本
作家・津村啓のタレント業務のマネジメントをしている。
福永千尋
R社の編集者。
加藤
J社。
伊藤
文芸担当。
Tさん
作家。
安藤奈緒美
幸夫と大学の同級生。夏子とは大学に入って最初の友達だった。
桑名弘一郎
R社の副編集長。
大迫
R社の編集長。
松本
真平と塾で同じクラス。
梅垣
松本と同じ学校。
タカシ
フランス料理屋の店員。
土井
制作会社バンブークリエイトのプロデューサー。
田原
ディレクター。
地主暁子
鏑木優子
サイエンスショーの女性。
田野原泰子
風俗店従業員。
小城聡
山梨県警鳴沢署司法警察員警部補。
喜多嶋恒彦
弁護士。
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愛妻家とそうでない主人公の妻が不慮の事故で亡くなってしまう物語。
ひとを愛することとは…ということを投げかけるストーリー。
『長い』でなく『永い』言い訳の意味がわかったような気がします。
Posted by ブクログ
映画監督で作家の西川美和さんの長編です。著者自らの手によって映画にもなっていますが、本書はノベライズなのか、この作品を原作として映画化したのかはちょっとわかりません。いや、単行本ででているくらいだから、たぶん原作なのでしょう。
深夜バスの事故によって妻を失くした小説家と、その妻とと共に亡くなった妻の友人の残された夫と二人の小さな子ども。ふとしたことから、小説家と彼の友人の家族との交流が生まれます。
小説家の衣笠幸夫を主人公としながらも、章ごとに視点や人称が入れ替わる体裁で書かれているので、群像劇のような印象も受けます。また、一人称で語れる章は、ぐっと人物にズームアップするように感じられるので、そうじゃないところとの関係に緩急が生じていて、作品がより柔軟なつくりになっていました。くわえて、それぞれの人物の向いている方向が微妙にずれているし、角度も違いますし、同じ人物のなかでも気分によって素直だったり憎たらしくなったりして、デコボコがある感じがします。総合的なイメージでは、いろいろな柄の布(大柄の文様や細かい文様、キャラクターものや縞模様などさまざまな種類)で縫われたキルトが多角形の箱の表面に張られている、というような作品というように、僕には感じられました。
この小説の意識の底にあたるような部分に流れているのは、たぶん愛情に関するものでしょう。冷え切った関係になってしまった夫婦の、その残された夫のなかにはどんな愛情があるのか、というように。また、お互いが正面からつきあいあう家族、つまりぶつかり合いであってもそれぞれが甘んじて受けることを当たり前とする家族に相当する、小説家と交流するようになる家族のなかの愛情もそうです。
が、読んでいて引っかかってくるのは、いろいろな人物たちの本音ばかりではなく、その本音に結ばれた行為のひとつである「卑怯さ」なのでした。卑怯さを許さないだとか許すだとかの考え方もあると思うんです。前者は真摯さの大切を問うようなものでもあるし、後者は寛容さでおおきく包み込みつつ人間への諦念を持ちながらもその後の少しだけだとしたとしても「改善」を約束させるものだったりします。
卑怯さというのは不誠実さを土台としていたりします。そして本書のタイトル『永い言い訳』とは、そんな不誠実さへの永いながい言い訳、終わらないような言い訳なのではないかと僕は読みました。ここでは主人公の衣笠幸夫の言い訳が芯になっていますが、これについては、誠実であるほうが好いのだと考える人であればだれもが言い訳をするものだと思うのです。原罪のように、人はその土台に、本能的な利己ゆえの不誠実を備えているだろうからです。それを超えたいがために、言い訳をするのです。その言い訳は、ただ逃げるだけではなく、ただ逸らすだけでもなく、乗り越えるためのじたばたする態度なのです。
本書で著者はそういったところに挑戦しているし、結果、なかなかに真に迫ったのではないかと思いました。また、だからこそ、よく執筆関係の文章で「ちゃんと人間が書けているかどうかを小説で問われる」なんて見かけたりしますけれども、その点でいえば、むせかえるくらい多様な人間臭さが詰まっている作品として書けていると言えるでしょう。
作品自体、枠から暴れ出たそうにしているところを感じますし、著者は作品がそうしたいのならそうさせる、というように書いたのではないかなと想像するところです。そういう作品だけに、作品自体にまだ空想の余地もあり、「自分だったらどう編むか」みたいに考えたくなったりもします。刺激になりますね。
人をまるごとみようとするときに、そして、それを自分で表現したいときに、何を見ていて何を見ていないか、そして何を意識の外に無意識的にうっちゃってしまいがちか、というようなことに向かいあってみたい人にはつよくおすすめした小説作品でした。そうじゃなくても、ぞんぶんに楽しめると思います。読み手に敷居が高くない文体で、それでいてだらしない表現はなく、手に取ってみればよい読書になると思います。おもしろかった。