【感想・ネタバレ】辞書になった男 ケンボー先生と山田先生のレビュー

あらすじ

「三省堂国語辞典」略して「三国(サンコク)」。
そして 「新明解国語辞典」略して「新明解」(赤瀬川原平著『新解さんの謎』でブームとなった辞書である)。
二冊ともに戦後、三省堂から刊行された辞書で、あわせて累計4000万部の知られざる国民的ベストセラーだ。

しかし、この辞書を作った(書いた)二人の人物のことは、ほとんど知られていない。
「三国」を書いたのが、ケンボー先生こと見坊豪紀(けんぼう・ひでとし)。
「新明解」を書いたのは、山田先生こと山田忠雄(やまだ・ただお)。
二人とも国語学者だが、「三国」と「新明解」の性格はまったく異なる。

「三国」が簡潔にして、「現代的」であるとすれば、「新明解」は独断とも思える語釈に満ち、
「規範的」。そこには二人の言語観・辞書が反映されている。
本書は、二人の国語学者がいかにして日本辞書史に屹立する二つの辞書を作り上げたかを
二人の生涯をたどりながら、追いかけたノンフィクション。
著者は同じテーマで「ケンボー先生と山田先生」(NHKBS)という番組を制作したディレクター。
同番組はATP賞最優秀賞、放送文化基金賞最優秀賞を受賞。番組には盛り込めなかった新事実や
こぼれおちた興味深いエピソード、取材秘話なども含めて一冊の本にまとめた。
本書で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞している。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

数年前にNHKで放送していた番組は見ていたけど、番組放送後に判明した事実なども補完されていて面白かった。
見坊先生の言葉に対する姿勢が、辞書は言葉を正すものではないというOEDの姿勢とまったく同じというのが面白い。

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2019年04月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

サンキュータツオ経由で本書の存在を知り、長く気になっていた。
思い切ってもとになったテレビ番組を見てみたら、これが一大ミステリースペクタクル!
大興奮して本書を読んだ次第。

「明解国語辞典」
金田一京助の名義のもとに、ケンボー先生がほぼ単独で作り、山田先生が「助手」を務めた。
ふたりの理想は食い違い、改訂のタイミングを巡って三省堂編集者の作為も悪く作用して、仲たがい。

「三省堂国語辞典」
独特な性格も相俟って言葉の海に飲まれてしまったともいえるケンボー先生。
辞書は鑑となる前にまずは鏡であるべきだと考え、凄まじい量の用例を収集した。

「新明解国語辞典」
「学生のひねたような」山田先生が、文明批評であるべきとしてビアス「悪魔の辞典」のベクトルで推し進めた。
「見坊に事故あり」という序文が離別の引き金になってしまったという歴史。
いわば編集主幹の「乗っ取り」。

これが関係者の証言だけでなく、各々の辞書の例文の中に手がかりが求められるのが、大変面白い。
「新解さんの謎」で知ったただの笑える例文かと思いきや、人生がかかっていたのだ。

ふたりの性格や超人的な体力に、読んでいて魅了される。
本の後半に「柔の見坊」「剛の山田」という一見の印象を覆す記述(ケンボー先生のほうが強情、山田先生は卓球好きで面倒見がいい、など)もあり、
辞書のスタイルも別ベクトルだが見方によっては表裏一体な部分もある、という着地が、もうできすぎたミステリーのように面白かった。

共同作業ができなかったからこそよかった、と人生の終盤に零していたという記述もあったが、
これこそ世界の豊かさというものだ。

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2017年03月12日

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