あらすじ
魔導士が差別され、虐げられている国ラバルタ。田舎で私塾を開いている三流魔導士レオンは、魔導士の最高機関〈鉄の砦〉からひとりの少年を託される。幼くして家族をラバルタの騎士に殺され、桁違いの魔導の潜在能力がありながら、学ぶことを拒む少年ゼクス。頑なだった少年は、レオンの辛抱強い指導の下で才能を開花させていく。やがてその力を認められ〈鉄の塔〉に召還されたゼクスだったが、貴族の魔導士アスターとの出会いが彼の、そして王国の運命を大きく変えていく。第1回創元ファンタジイ新人賞優秀賞受賞の本格異世界ファンタジイ。/解説=三村美衣
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Posted by ブクログ
ゼクスという少年は、セルディア人であること、そして魔導師であることによって、周囲から疎まれ、蔑まれていた。
彼は、自分を見下した者たちを見返したいという強い思いから、魔導師の最高機関「鉄の砦」を目指し、それを見事に成し遂げる。
セルディア人というだけで偏見の目を向けられながらも、命を預け合う小隊の仲間たちとの出会いによって、彼の心は少しずつ溶かされていく。
さらに、小競り合いだった戦いはやがて大規模な戦線へと発展し、その中でゼクスは功績を重ね、「大魔導師」とまで呼ばれる存在になる。
しかし、彼の心には常に暗い影が差していた。
そんな彼に、あるセルディア人がこう語る。
「怒りや憎しみから、人は他者を害したいという欲を持つようになる。道義を忘れ、捨て、その欲に屈する。それが膨らみに膨らむと、波となって大勢を飲み込む。それが魔物だ。」
この言葉を読んだ時、私の中にも“魔物”がいるのかもしれないと思った。
かつての私は、物事を優劣で捉え、常に優っていたいと思っていた。
優るために努力もしていたし、自分を下に見た人たちや、傷付けてきた人たちを見返したいとも思っていた。
力を誇示したいという気持ちもあった。
それはまさに、怒りや憎しみから生まれた感情だったのだと思う。
今は比較的落ち着いていて、その“魔物”が暴走することは少ない。
それでも、人との摩擦の中で、心の奥で蠢くのを感じることがある。
作中では、魔導が暴走しないように「躁魔」の技術を磨いていた。
それと同じように、人にも感情を制御する技術が必要なのだろうと思った。
けれど実際には、どれだけの人が感情をコントロールできているのだろう。
どれだけの人が、自分の中の“魔物”を抑えられているのだろうか。
感情の荒波を相手にぶつけることは、目には見えなくても、大きな影響を与える。
けれど心は見えないからこそ、自分が誰かを傷付けていることに気付けない場合も多いのだと思う。
作中には、「魔導を使うということは、あらゆる生命、死、狂気、恐怖と繋がるということだ」という言葉があった。
それは、人の感情にも通じるのではないだろうか。
感情と向き合うことは、自分自身と向き合うこと。
だからこそ、人は学び、経験を積みながら、自分の中の“魔物”と共に生きていくのかもしれない。
暴れさせないために、少しずつ制御の術を覚えながら。
Posted by ブクログ
魔術が使える者が忌み嫌われるという王道から外れたストーリーなのに、ゼクスの圧倒的強さに厨二試がくすぐられた。
レオンとゼクスの絆が、見えないところでしっかりと繋がっていて温かい気持ちになった。出てくる人たちもみんなキャラが立っていてスラスラ読めちゃう。おかげで寝不足。
戦争の怖さと、それでも守りたいものと。天秤にかけて自分の小ささを知る。ラノベ馬鹿にしすぎてた。
Posted by ブクログ
第1回創元ファンタジィ新人賞優秀賞受賞作品。
世界観がしっかりしているハイ・ファンタジー。剣と魔法の異世界ファンタジーのド直球。文章は読みやすいがしっかりしている。文体も王道という感じ。心象描写は少な目かな。
ファンタジーは好きだけれどラノベテイストは苦手、という人におススメ。ラノベ的お約束な要素は一切入っていないので。まさに大人も楽しめるファンタジー。
ただまあ物語の流れや設定は王道なので、正直目新しい部分は特にない。逆に言えば安心して王道を楽しめる作品、とも言えるけれども。そして解説にあった「空気感」がないせいか? ハマるまではいかなかった。あんまり心に残らないというか、あと一歩という感じ。でも伏線も回収していて捨てキャラクターもいない、とても丁寧な作品だったので、この著者の次回作が楽しみ。
ゼクスが二重三重の差別に苦しんでいる、というのは読んでいてこちらまで苦しくなり、腹立たしくなった。どこへ行っても侮蔑の対象にされる。その高すぎる能力さえも、嫉妬とやっかみの対象に。侮蔑と嫉妬は紙一重なのかな、とも思った。
ゼクスもレオンも他のキャラクターも、すごく「生きている」という感じがした。薄っぺらいキャラではなくて、ちゃんと人間している。弱いところも汚いところもあるし、矛盾している部分もある。ダーニャが反発し続けるのではなくて、戦争の罪を飲み下すところとか。
一番好きなシーンはゼクスが初めてレオンの導きによって魔導を使ったシーン。二人の上に水が落ちて虹ができる光景が目に浮かんで、その美しさに心が震えた。
Posted by ブクログ
第1回創元ファンタジイ新人賞優秀賞受賞作。
魔導士が下賤の身分とされ、虐げられている国ラバルタ。人一倍勉強して豊富な知識を持っているのに、天与の才に恵まれなかったため三流魔導士として私塾を開きながら生きるレオン。比類の魔導の才を持ちながら、ある理由から魔導を学ぼうとせず、処分されかかっていた少年ゼクス。レオンの元にゼクスが強制的に弟子入りすることになり、物語が始まる。
びっくりするような展開は少なく、ハリポタのような呪文が出てくることもないけれど、その分、安心して読め、素直に楽しめました。また、とても読みやすい文章で、すいすいとページをめくっていけました。
魔導士のいる異世界ファンタジーなので魔法も描かれてはいますが、物語の主軸はレオンとゼクスの師弟愛や、魔導士たちの生き様にあると思います。魔導士たちの必死な姿に感動しました。
アストリア王子率いる解放軍とラバルタの停戦後の世界、レオンとゼクスのその後について、書いてくださると嬉しいです。
(続編の『魔導の福音』に描かれるのでしょうか?)
続編も読む予定です。