あらすじ
どうして「理想が勝つ国」アメリカは、トランプを大統領候補に選んだのか? テロの連鎖はどこまで続くのか? 中国の軍拡は日本を飲み込むのか? なぜ「歴史の終わり」どころか、ポスト冷戦期には想像もできなかった出来事が次々に起こるのか? その変化の本質を知るには、日々のニュースから目を離さず、同時に背後にある因果・相関関係を見抜く本物の「歴史的大局観」が必要になる。そうした離れ業のできる数少ない天才が、国際情勢の原理を知り抜いた佐藤優氏、宮家邦彦氏という二人のプロフェッショナルだ。中東、中央アジア、欧州、アメリカ、中国とまさに「地球を一周」しながら語り尽くされるのは、米大統領選、IS、パナマ文書、イギリスのEU離脱など最新の世界情勢とともに、その裏で地殻変動を起こす「世界史の大転換」である。それがわかれば日本はどうすれば生き残れるのか、という戦略もおのずと浮かび上がるはず。常識の通じない時代で未来を正確に読むために、いま知るべきことがすべて詰め込まれた、圧倒的な密度の一冊。内容例:「プレモダン」「モダン」「ポストモダン」の混在する世界/トランプ現象は世界で渦巻く大衆迎合主義の「アメリカ版」/西側諸国への「世界イスラム革命戦争」がついに始まった/なぜイスラム宗教改革は「振り出しに戻す」運動になるのか/ISの影響が新疆ウイグル自治区に及ぶ危険性/伏流水のように噴き出す欧州社会の「反セム主義」/フランスが二度にわたってテロの標的にされた理由/イギリスのEU離脱と「パナマ文書」が関係している?/「本来のアメリカ人に権利を取り戻す」という言葉の魅力/トランプとサンダースに共通した「妥協を排す純粋主義」/クリントンの特徴はよくも悪くも「ポリティカル・マシーン」/新しい米大統領のもと、米中は新たな均衡点を探る/「保育園落ちた日本死ね!!!」ブログと民主主義の危機/日本の財界はもっと積極的にアメリカへ投資せよ ほか
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Posted by ブクログ
元外務省のノンキャリアとキャリア、また外務省のロシアンスクールとアラビストの対談が面白い。前に(文藝春秋?)二人の対談を読んだが、その対談では、佐藤氏が細部に議論を持ち込んで、対談をリードした感じがしたが、今回は宮家氏が、「外務省のラスプーチン」に対してさすがキャリアと思わせる知識と理論を組み立てて、堂々と論陣を張って、読み応えがあり非常に面白かった。
宮家氏は、「私は中東分析を六次元連立方程式に譬えています。変数には①欧州vs北アフリカの地中海変数、②イスラエルvsパレスチナ・アラブのレバノン変数、③イランvs湾岸アラブの湾岸変数、④世俗主義・アラブ民族主義vsイスラム主義の世俗変数、⑤穏健イスラム主義vsイスラム過激主義のイスラム変数、⑥少数派政権vs多数派政治エリートの少数派変数。すべて中東地域の地政学とも関連する伝統的な政治的対立軸ですが、諸変数の相関関係をみることによって中東情勢の流れをある程度予測することは可能です」と言って、「アラブの春の失敗」した理由などを具体的にコメントしていく。そして「部族的権威主義が色濃く残る中東で政治の自由化だけを進めれば、専制以外の統治手段に慣れていない政治エリートたちの統治能力を逆に減じて、イスラム勢力の台頭を許す。結果として、それまで機能していた国家統治システム自体を破壊することになる」といった分析力はなかなかのものであり、中央アジアの分析も面白かった。
一方、佐藤氏も「フランスやイギリスはアサド政権を潰すために急ごしらえで反体制派を作り、それにスンニ派国家のサウジやカタールが支援し、シリア内戦を生み出し、そこにISが付け込んで入り込み今日のシリアの泥沼化を招いた」と読み解く。
彼らの見方は、現在の中東の混乱は「民主化が正義」とする欧米が招いた結果であり、さらにアメリカの中東政策のパートナーが従来のサウジアラビアからイランに変わりつつある現状に対して、サウジのロシア接近や、更にトルコのエルドアン大統領のオスマントルコ帝国復活の思惑等が絡み合い、IS問題が片付いた後も、核の拡散などのリスクが高まり、中東の安定化は難しいと予見する。
また中国についても、宮家氏は「中華のアイデンティは、多民族の統合によってネーションを生み出す近代思想とは異質なものでした。数千年来の伝統である周囲の蛮族を漢人に同化させる発想から抜け出ていない」
佐藤氏も「アメリカや日本といった世界標準の近代国家のなかにめざすべきモデルを見出さず、『過去の中華帝国の再発見』というかたちで自国の未来を構築しようとしている」
宮家氏は、その中国の国家目標はアヘン戦争以来の屈辱を晴らすため、アメリカを東アジアから追い出そうとしており、そのために中国はアメリカとだけ手を握ろうとしていて、日本、韓国、台湾、東南アジア諸国は最初から相手にしていない。それは「アメリカよ同盟国を見捨てろ」と言うに相応しい。まさに中国こそが「戦後レジームへの挑戦者」だと断言する。
等々と、二人の対話の面白さに引き込まれ、読み応えたっぷりでした。