あらすじ
故郷を飛び出し、静かに暮らす同窓生夫婦。夫は毎日妻の弁当を食べ、出社せず釣り三昧。行動を共にする後輩は、勤め先がブラック企業だと気づいていた。家事だけが取り柄の妻は、妹に誘われカフェを始めるが。
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Posted by ブクログ
人は悪くないが、それぞれに弱さを抱えている二人の主人公、著者は読者に彼らへの共感が生まれそうになると絶妙に回避してくる。温かくはないが冷たくもないまなざしで彼らの行動や心情をとことん丁寧に書き続ける。周囲の登場人物も含め、こんな、と言ってはなんだが特段の魅力のない人々を淡々と描写できるのはすごい。早逝が惜しい。
著者が唯一明確に悪しざまに描いているのは”モリ”だけだった。ややメタな存在として登場する老人”所さん”を通じてはっきりと断罪し、ラストにも主人公と対峙させている。どんなダメな他者にでも愛情あるまなざしをかける著者なのに、よほどそういう人が嫌なんだなと、もしかしたら深く傷つけられた経験があるのかもしれないと思った。
P46 私と佐々井君が話をするのは大体朝食の時で、どうでもいいこと、罪のないことを選んでしゃべるだけだ。相手の受け取りやすいところにしか球を投げてはいけないるルールのキャッチボール。
P61 生きにくさを武器に笑いを取る、非凡を売りに生きていく。しかしそういう子が日の目を見るには、誰かがその子を面白がる必要があった。
P113 尊敬する気持ちに、うっすら濁った軽蔑が入り混じるのを感じた。「いいな」と「いい気なもんだな」は地続きの感情だと俺は知った。
P329 「(モリは)あれはよくない男だ。そもそもあの男が悪いと僕は思う」妙にはっきりと所さんは言った。【中略】「人の弱みに付け込んで、人の好意を食い物にするタイプだ。都合が悪くなれば、選んだのはそっちだ、自己責任だなんて言って逃げていくような人間だ」【中略】「でもきっと人はああいうのに弱いんだ。人の心の撫で方をよく知っている。人たらしだ。わかりやすく悪い人間より、もっと気をつけないといけない」
P360 「僕が阿保で役立たずだと家族はにこりともしないけど、他人は笑ってくれるなーって思い出したんだよ、どうせ馬鹿にされるんなら他人からされたほうがいいってしみじみ思ったんだよな。」
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冬乃とそのダンナ、佐々井、川崎とその恋人、百花。この2組のカップルや、その他の人物のつながりが分かりはじめたとき、「あ、これはおもしろい!」と思いました。冬乃と川崎、2人の語りで進行していきます。
冬乃と川崎の心が、丁寧に描かれており、とちゅう目頭が熱くなるところが何ヶ所かありました。思うようにならない2人のもどかしさが、よく伝わってきます。
冬乃の心の支えとなっていた、年配のおじさまの言葉
「生きていくということはやり過ごすことだよ」
この言葉、刺さりました。私も袋小路に入ったようになっていたとき、似たような言葉を職場の先輩にかけられたことがあったからです。それは、「流れにまかせて」でした。これまでの人生、人に、言葉に助けられていました。
川崎の言葉の中にも、刺さるものがありました。それは、
「巻き込んだり巻き込まれたり、みんなそうやって生きているのだろうか」
はて、私はどっちの方が多かったのだろう。身近な人に迷惑をかけたこと、多かったなあ。反省しきりです。
川崎くん、25才。こんな弟いたら、正直ちょっと大変!(笑)ですが、でも「ガンバ」って言ってあげたいです。
山本文緒さんの作品、好きです。それは本当のことが書いてあるから。受け取り方によっては、キツく感じてしまうかもしれないけれど。でも、突き離されたという感じで終わるのでなく、優しさを感じるのです。
山本文緒さんが他界される(2021年)の少し前、TVで拝見し、気さくな方で「親戚のお姉さんでいてほしい」と思い、いきなりファンになり、さっそく作品を読み始め、ほどなくしての訃報。ショックでした。
これまで5冊ほど読んでいます。その他の作品もゆっくり読んでいきたいです。
Posted by ブクログ
久しぶりにジーンときて、人生頑張ろうと思えました。働きすぎで自分が何やってるかわからなくなって似たような状況が小説ほどではない忙しさだったけどやっぱりやばい状況だったんだなって客観視できました。この物語から何もうまく行ってることはないけどそれでも人を大切に自分の意志をもって生きていきたいと思えました。菫ちゃんのことももっと知りたかったな(^^)
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穏やかにお互いを労り合う夫婦になのに序盤から感じる違和感。
話が進むにつれ大きくなる不安。
どんどん引き込まれ1日で読み終わった。
「同じ悩みに飽きろ。
人生の登場人物を変えるんだ。」
のセリフに自分が重なりズキンとした。
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姉妹と夫婦と他人と、血の繋がりがなくてもあたたかい関係性を築く様子が描かれている物語。山本さんの小説は話の展開が読者を惹きつけるなぁと思いました。「プラナリア」「恋愛中毒」に引き続き、人間の持つ嫌な面を描写するのが非常に上手だと感じました。
内省しながら読むのが好きでした(^^)
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久里浜で、金を無心する両親に苦しめらる冬乃と菫の姉妹、芸人になる夢を挫折して生きる目的を見いだせない川崎くんなどが、日々の暮らしに苦労しながら何かを掴んでいく。落ち着いた文体で読んでいて心地よいしっかりした長編。じんわりと心が暖かくなったりした。
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生きていくとはやりすごすということ。
生きるというのは複雑で、自分の望むようにはいかないものだ。
自分が一生懸命頑張ったつもりでも、あっけなく終わりが来てしまって無力感を感じたり、誰かに必要とされるがまま生きてきたら食い物にされることだってある。
そんな生きる難しさの中で、誰かに頼りたくなったり、それがいつの間にかそのうち自分と他人の境界線を超えてしまって人を苦しめてしまったり。
そんな関係性が怖くなり、もう手を伸ばすこと自体をなんとなくやり過ごしてしまったり。
とはいえ、生きるを諦めることも、成層圏から人を見下して楽しむことも愚か。
きっと自分が羨ましいと感じる人にも、自分が想像し得ない苦しみがあり、しがらみがある。
みんな失敗しながらも、未熟ながらも、日々生きる中で重ねる小さな成功体験を希望に生きていくしかない
そんな解釈をした。
私も仕事をしていて、他に自分に合う環境がどこかにあるのではと探してしまうこともある。
ただそんな環境はどこにもなくって、やっぱり自分で諦めずに、時々やりすごしながら、誰かに適度に頼りながら
やりすごしていくしかないんだな、と思えた
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姉妹ではじめた海街のカフェ、
芸人を夢見たけど、家庭をもつためにブラック企業で勤める若者、
一見、夢見がちな人たちの地に足ついてない話のようにみえる。
けれど、逃げられなかった現実の重さや
人生自体を誰かに相乗りして自分を保とうとした弱さをしっかり見つめている。
一見にていない冬乃と川崎は、どこか似ている。
背負った生来の重さに向き合ったとき、ようやく自分の人生が動き出す。
人は凹み、傷付き、けれど少しずつ再生する。
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頭が良いことと良い人であることは別でありましろ相反する、登場人物を全員ならべるとまさにそのことがグラデーションとなってかんじられる、そんな一冊。
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大好きな作者、山本文緒さんの作品に読む前からワクワクしました。
家族の中でおこる一つ一つの出来事に、時には思いやる気持ち、憎む気持ち、支配しようとする気持ち、余裕のなさから相手に切り込んでしまう言葉の数々に作者さんらしい作品だなと。
家族以外の登場人物もどう説明して良いのか、本人にも何故そうしてまうのか分からない所に人ってそうだよねと思ってみたり。
結局最後には相手を思う気持ちがあればそれが正解になるのかな。
Posted by ブクログ
様々な事に振り回されながらも生きる人達のお話
メインの視点は、平凡な自分というものと生き方に迷っている女性と、芸人を諦めた男がちゃんとしたところで働けるようにする話
故郷とは違う、海沿いの見知らぬ街で暮らす同郷の夫婦の冬乃と佐々井
そんな中、ここ数年連絡のなかった妹の菫が、住んでいるところがボヤ騒ぎを起こして転がり込んでくる。
菫はすぐに街に馴染み、元スナックを居抜きでカフェをやると言い出し、冬乃も巻き込まれていく。
一方、元お笑い芸人の川崎は、同窓会をきっかけに付き合い始めた彼女のために芸人をやめて働きだし、現在は佐々井の部下。
仕事は暇で佐々井が仕事をサボって釣りをするのに付き合い、冬乃が作る二人分のお弁当を食べるような伸び切った生活。
しかし、仕事が激減する事になった得意先の秋月の許しがあった事から、仕事が激増してブラック会社としての被害を受けていく事になる。
主な登場人物
冬乃、妹の菫、夫の佐々井くん
所さん(仮称)
佐々井の部下の川崎
川崎の彼女の百花、芸人時代に繋がりのあった杏子
得意先でいいように扱き使ってくる秋月
秋月に紹介されたナオミ
そして、飽きる事を繰り返すモリ
これは夫婦の物語なのか?
家族の物語なのか?
人の自立の物語なのか?
主眼がよくわからない
それにしても読み進めるのが辛い物語であった
夫婦のすれ違いもそうだし
途中で事情が明らかになる家族の不和というか両親の依存だったり
川崎のブラック環境だったり、佐々井のメンタルだったり
著者の山本文緒さんもうつ病で苦しんだという話を聞いたので、ご自身の体験が反映されているのだろうなぁと思う
物語を通じてその苦しさやどうしようもなさが読者まで伝わってくるというのも、流石の文章力と言えるかもしれない
冬乃と佐々井の夫婦の絆の一つとして料理がある気がする
毎日お弁当を作って渡す冬乃
「食事の用意をすることでしか私は夫と繋がれないような気がしていた」とも感じていたけど
佐々井が会社を辞めて、自分の食事を用意する事に気を遣わなくて良いと言ったところが関係が断ち切られたように思ったきっかけかなと思う
そして、冬乃が帰ってきたときに佐々井が挽き肉と豆のカレーを作っていたところが再び繋がろうとしたきっかけかな
あと、二人でカフェをするという提案も、料理を通じて二人で同じ方向を向くという構図になっている気がする
菫もなぁ
最初は胡散臭い存在に思えてたけど
菫なりに冬乃の事を考えていたわけだし
ボヤの原因に関しても口を割らなかったというのは、やはりそんな想いがあったという事でしょう
そして、引っ越し先を両親に伝えていたというのも、冬乃ほど割り切れていないという家族の情を感じる
モリに感化されていそうで、最後までは踏み切れてないんだよなー
特定の家を持たずに友人知人の家を渡り歩き、いつでも身の回りのものを捨てられるようにしてフィービジネスで生きているモリ
何かを始めてもいつか「飽きる」事を考えている
このモリという存在がメインの主人公達以上にやたらと目立つ
様々な面で他の人達の対局の存在で、どうも読者の感情をざわつかせる役割
なのに、とある言葉には人生の秘訣の一つが含まれている気がする
「同じ悩みにそろそろ飽きろ。人生の登場人物を変えるんだ」
言われてみれば、人生の悩みは人に付随する事が多い
問題のある人との関わりを絶てば自然と悩みはなくなるのかもしれない
まぁ、だからといって実践する気はないけどね
そんなモリも最後には
「おれは、お前のようには絶対ならない」
と否定される
でも、本人にはまったく響いてないんだろうなぁ
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横須賀市久里浜を舞台に、各人が交ざり会いながら、自身の悩みと『共存』していく様が描かれている。
登場人物の中で、私は菫に感情移入してしまった。私も退職する際に、上司からは冷淡だと非難された。菫さん、分かる気がします。
久里浜に居住した経験があるが、とても忠実に街のことが描写されている。
本作の唯一の難点は、章ごとに視点が行ったり来たり切り替わる点。今誰の視点か迷子になってしまうことはあった。
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川崎くんと冬乃の話。
自分で状況を変えよう、と行動する気持ちが人を魅力的にしていくなあ、とわかりやすく感じた作品。
そのために悩んだり、憤ったり、少し休んだり、人の優しさに気づく過程も大切だね。
疲れてると周り見えなくなったり、
周囲の存在に気づけなくなったり、
自分の思考に辟易したりでぐったりだけど、
前には進んでるんだよね。
はっきり結末は描かれないんだけど、
解説にもあったように流れ着いた流木をそっと優しく海に還してくれます。
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冬乃と川崎が主人公として交互に心情が語られる。
人生の緩やかな流れに乗って少しずつ強さを発揮していく冬乃は素敵なのかもしれない。しかし、私はプライドが高くてどこか他人を見下して駄目なまま、底から這い上がろうとして這い上がりきれない川崎に共感する。私にも同じ部分があるからだ。最後、川崎にも前に進めるきっかけができるところが救いだと思う。そして、仕事を辞めて部屋に引きこもっている息子を問い詰めることなく海鮮焼きそばを用意してくれる川崎の母親は、実はすごい人なのではないか。
Posted by ブクログ
良い作品だった。
人は誰でも、どんな立場でも、それぞれ何かしら悩み、何かと闘い、その度自分を奮い立たせて乗り越えて、なんでもない日常を送っているものだと思わせる。
田舎を出て夫と久里浜でふたり暮らしの冬乃。
芸人を諦め、サラリーマンをしている川崎。
派手さもなく、一見ただの一般人と思われる2人に焦点をあてつつも、全てではなくても彼らと共通する人生の瞬間を読者は感じると思う。
そういうことあったあった、と。
主人公も不器用ながらも思い悩み、時には人に頼りつつも、なんとか乗り切る。
淡々と、だけどとても緻密に、引き込まれるように人の心理を描けるのは作者ならではだと思う。
ハッピーエンドというわけでもないし、全てが解決したわけでもない最後なのに妙に清々しく感じられた。
どうでもよいが、川崎は示談金払えたのかが気になった。
Posted by ブクログ
良い作品でした。
派手さはなく、明るさもないのですが、馴れ合いとも違う感じで、ダメなりに勇気付けてくれます。
不器用で、悪循環にはまり、ずるずると抜け出せずにいる。抜け出す為の、努力がぬるい。
そんな登場人物が少しずつ少しずつ己から目を逸らす事を止め、問題と向き合い、しっかりとした一歩を踏み出していく。
こう書くと、キラキラしたハッピーエンドが待ってるように見えますが、踏み出した一歩は、至極普通なこと。
けれど、「普通」なんて人それぞれで向き合う問題の大きさも人それぞれ。
ただ、向き合ってる時、向き合うまでの気持ちは、似たり寄ったりなのかもしれません。
だから、次が気になって一気に読んでしまいました。
「人の弱みにつけこんで、人の好意を食い物にするタイプだ。都合が悪くなれば、選んだのはそっちだ、自己責任だなんて言って逃げていくような人間だ。盗人たけだけしい。でもきっと人はああいうのに弱いんだ。人の心の撫で方をよく知ってる。人たらしだ。」
「力まなくていいよ。けりなんかつかないよ。でも気持ちに区切りをつけるのはいいことかもしれないね。生きていくということは、やり過ごすということだよ。自分の意志で決めて動いているようでも、ただ大きな流れに人は動かされているだけだ。成り行きに逆らわずに身を任すのがいいよ。できることはちょっと舵を取るくらいのことだ」
この二つの台詞にハッとしました。
そうか、あれは「妖怪 人たらし」だったのか、と。だったら仕方ないやと楽になり、いつか年老いて、人生を振り返った時に、あぁ、我ながら良い舵取りをしたなぁと思いたいなと。
その為に今は、しっかりとした意志を持って頑張ろうと思い、少し力が出ました。
2014年48冊目。
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のっけから、爽やかでライトな表紙からは想像できないような、どこにも逃げ出せない日々の描写が細かいディテールで続き、息が詰まる(リアルという点ではいい意味で)。
結構随所にきついセリフがあり、よくある優しい小説とは一線を画す。
妹にカフェをやりたいと持ちかけられた姉が、「なに浮ついたこと言ってんの」「働きたいのならコンビニのアルバイトでも新聞配達でも、体使って真面目にやれば?」と返答するのとか、しんどい!
3歩進んで2歩さがるペースで、ゆっくりと登場人物たちが殻を破り、能動的に人生に立ち向かえるようになるまでを、のめり込んで読んだ。
冬乃の「何にもできない、働く自信がないってただ嘆いて、できないんだからしょうがないってどこかで開き直ってたところもあったと思います。自己評価が低すぎるのって、高すぎるのと同じくらい鼻持ちならないのかもって最近気が付いたんです」というセリフが心に刺さった。
Posted by ブクログ
「自分らしく生きるとは」ということについて、たまに考える。とくに今の自分の状況が、先が定まっていない、ある意味でとても自由な状態だから。
自分らしく生きたいけれど、それは言葉で言うほど簡単ではないことを、既に分かってしまっている。
もしかしたらそれはものすごく簡単なことなのかもしれないけれど、そこに踏み出す勇気を持つのが若い頃のようにはいかなくなっているという意味で、簡単ではないと感じてしまっているのかもしれない。
…などとぶつくさ考えながらのレビュースタートなのだけど、山本文緒さんの小説やっぱり好きだなとシンプルに思った。
先日亡くなられてしまったので未読のものを読んでいこうと思っているのだけど、苦しい中に光が見えたり、辛いけれど希望があったりするところが、まさに人生に似ていると感じる小説だった。
主人公はごく平凡な主婦の冬乃。夫の佐々井くんとともに、故郷を出て暮らしている。ある日しばらく没交渉だった妹の菫が転がり込んできたことで人生は動き出す。
もう1人の主人公は、芸人になることに挫折して会社員となった川崎。勤め先はブラック企業で、そこで世話になっている上司は冬乃の夫の佐々井。川崎は会社がブラック企業であることに気づきながらも、なかなかやめることもままならず、恋人の百花との関係も悪くなっていく。
この2人の目線の章が交互に続くかたちの物語。冬乃の目線から見た夫の佐々井や妹の菫、そして佐々井の部下であった川崎の姿。そして川崎の目線から見た佐々井や冬乃、彼らをとりまく人々の姿。
菫の行動に巻き込まれるかたちでカフェを始めた冬乃なのだけど、それが辛いかたちを迎えつつも、ひとつの大きな転機になる。そしてそれが、なあなあのまま暮らしてきた夫や、いわゆる毒親である両親との関係を考え直すきっかけとなる。
実際の人生もそういうことがある、と思う。思いがけない風に人生が動いていって、その先にあった出来事が自分の価値観をがらりと変えてしまうことが時々ある。一見悪いことに見えることが、後々自分を変えてくれた大きな出来事だったと気づくことがある。
ドラマティックではない自然な流れでそういうことが描かれていて、読んでいて辛い気持ちになったりしつつも、最後には勇気を与えられたような心持ちになった。
良い人間と悪い人間、努力する時間と怠ける時間、良い部分とダメな部分、両方がきちんと表現されているからリアルなのだと感じた。
重めなのにとても清々しい物語だった。
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ぐちゃぐちゃの生活や人間関係の沼みたいなものにはまり込んだ人達が沼から這い出そうともがく。
生きていく上で抱えるモヤモヤ感に共感できるところが。そのモヤモヤを吐き出せる人や場所があることに救いを感じた。
特に夫婦で力強く手を握る姿が印象的。
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感想がまとまらない。
わたしの母親は、いつも誰かの愚痴を言っていて、お酒しか飲まなくて、いつも私の事を下げて言う。
お母さんに言っても嫌な事言われるだけだから何も話さなくなった。わたしは、自己肯定感が低い。
楽しいことも確かにたくさんあったのだ。
Posted by ブクログ
故郷を離れて久里浜で暮らす佐々井と冬乃な夫婦の元に冬乃の妹である菫が突然転がり込んできた。
その冬乃と、芸人に挫折し、佐々井が勤める会社に正社員として働き始めた川崎の2人の目線で話が進んでいく。
冬乃は突然現れた妹に振り回されるように、カフェを始めることになり、川崎と佐々井が勤める会社はブラック企業。
その他様々な人間関係等を抱え、2人とも疲弊していた。
そんな、なんとも言えない窮屈さややるせなさに包まれ疲弊する2人を支えてくれる温かい人たちがいることに安堵する。
苦難や上手く行かないことに立ち向かう勇気がもらえるかも。
2025.8.17
Posted by ブクログ
人との出会いは人を変えていく。
冬乃も佐々井くんも菫も川崎くんも。
家族だからこそ踏み込める領域もあるし、触れては行けないところもある。難しいなあ。
所さん(通称)ご夫婦が素敵。生きていくということは、やり過ごすということ。
Posted by ブクログ
爽やかな表紙につられて購入した。
でも本文は結構ドロリとシていた。私は山本さんの書くお話が大好きなので、「キタキタ!」と喜んだ。出てくる人物が驚くほど、私の苦手なタイプばかりで、あ……となりながら読んでいた。滞留した人間たちのそれぞれの再生を描いた作品。どんな理由があったとしても、のこらず歩き出せて良かった。そんなことを思いながら、表紙を見て、「あ。このシーン」ってなった。前向きになれる作品。
Posted by ブクログ
故郷を出てから連絡をとっていなかった妹が家に転がり込み、そのことから『なぎさ』というカフェをオープンさせることになった主人公、冬乃。
彼女と妹、菫や夫の佐々井、その職場の後輩である川崎など様々な生き方や考え方を交えながら成長を描いた作品。
大好きな山本文緒作品なのに。
そろそろ私も卒業の時期が来たのか?
そんな気持ちにさせてくれた一冊。
Posted by ブクログ
救いようのないくらい苦しく辛い話だったけど読後が不思議と爽やかで、希望すら感じる。悲しいことばかりだけど前を向こうという感じがどうにもリアルで頭が下がります。
川崎くんもすみれも好きになれず。
冬乃にも特別魅力を感じてなかったはずなのに、グダグダの川崎くんや残酷なすみれにも優しい手を差し伸べられるようになった冬乃の強さにじんときた。
両親とのこともう少し早めに書いてくれてた方が自分は冬乃に感情移入できたかも。
Posted by ブクログ
1人の主婦を取り巻く人々がまあ、精神的に成長していくお話というひとくくりでまとめてよいのか…それでも一気に読んだ。微妙な心理状態の動きが淡々と丁寧に描かれていた。自己肯定感が強くなっていくひとたち。外に動き出す人たち。いつでもどこでもどんな人でも前に動いていける。悪い時ばかりではない。そんな先に一筋の光が見えてくるお話だった。
Posted by ブクログ
冬乃の本質的な強さを徐々に引き出して行くストーリー展開が、面白く感じた。
妻として、姉として、カフェを営むものとして、そして、娘として対峙する冬乃の成長が、どこか励みになる。
もう一人の語り手、川崎君なりの決意もあと味は良かった。