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Posted by ブクログ
人は悪くないが、それぞれに弱さを抱えている二人の主人公、著者は読者に彼らへの共感が生まれそうになると絶妙に回避してくる。温かくはないが冷たくもないまなざしで彼らの行動や心情をとことん丁寧に書き続ける。周囲の登場人物も含め、こんな、と言ってはなんだが特段の魅力のない人々を淡々と描写できるのはすごい。早逝が惜しい。
著者が唯一明確に悪しざまに描いているのは”モリ”だけだった。ややメタな存在として登場する老人”所さん”を通じてはっきりと断罪し、ラストにも主人公と対峙させている。どんなダメな他者にでも愛情あるまなざしをかける著者なのに、よほどそういう人が嫌なんだなと、もしかしたら深く傷つけられた経験があるのかもしれないと思った。
P46 私と佐々井君が話をするのは大体朝食の時で、どうでもいいこと、罪のないことを選んでしゃべるだけだ。相手の受け取りやすいところにしか球を投げてはいけないるルールのキャッチボール。
P61 生きにくさを武器に笑いを取る、非凡を売りに生きていく。しかしそういう子が日の目を見るには、誰かがその子を面白がる必要があった。
P113 尊敬する気持ちに、うっすら濁った軽蔑が入り混じるのを感じた。「いいな」と「いい気なもんだな」は地続きの感情だと俺は知った。
P329 「(モリは)あれはよくない男だ。そもそもあの男が悪いと僕は思う」妙にはっきりと所さんは言った。【中略】「人の弱みに付け込んで、人の好意を食い物にするタイプだ。都合が悪くなれば、選んだのはそっちだ、自己責任だなんて言って逃げていくような人間だ」【中略】「でもきっと人はああいうのに弱いんだ。人の心の撫で方をよく知っている。人たらしだ。わかりやすく悪い人間より、もっと気をつけないといけない」
P360 「僕が阿保で役立たずだと家族はにこりともしないけど、他人は笑ってくれるなーって思い出したんだよ、どうせ馬鹿にされるんなら他人からされたほうがいいってしみじみ思ったんだよな。」