あらすじ
乃木希典――第三軍司令官、陸軍大将として日露戦争の勝利に貢献。戦後は伯爵となり、学習院院長、軍事参議官、宮内省御用掛などを歴任し、英雄として称えられた。そんな彼が明治帝の崩御に殉じて、妻とともに自らの命を断ったのはなぜなのか? “軍神”と呼ばれた男の内面に迫り、人間像を浮き彫りにした問題作。
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乃木希典に対し、司馬遼太郎は常に厳しく、突き放した態度を取っていますが、「要塞」は二百三高地の奪取を目指した乃木の苦悶と愚かさを、「殉死」は自己の一生を不遇と見ていた乃木が明治天皇の大喪の礼の日に見事に自決を果たす姿を、それぞれ淡々と描くもの。余韻が残る。
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小説らしからぬ小説。事実の積み重ねに重きを置いているように見え、まるで伝記みたい。だが、旅順攻略の際に児玉登場などあるので、やっぱり創作が入った小説なのだろう。
読後いろいろ疑問がある。あまりにも乃木は本書で無能呼ばわりされているが、そんなにも無能な乃木がなぜ三軍を率いるほどの大役を任され、また任され続けたのか。たぶん結構な人数が不思議に思うのではないだろうか。長州出身で縁故があったとか明治帝の寵愛だけでは説明が苦しいように見える。もはや50歳代の老将軍にとって縁故は関係ないだろうし、国家存亡に際して明治帝の意向で指揮官が簡単に決まるような明治国家でないことは司馬遼太郎が一番知ってることではなかったか。
これは本当に私の独断と偏見だが、司馬遼太郎は乃木希典に非常に屈折した思いを抱いていたように思う。乃木が発する軍人精神は、自身の軍隊生活と関係して司馬遼太郎の最も嫌う性格のひとつである。東郷平八郎の洒脱な講義の描写は乃木の描写とは対照的に好意を感じる。一方で陽明学徒としての乃木を肯定的に描いているように見える。理論より実践、結果よりプロセス、実利より様式美。たぶん司馬遼太郎はこういう性格は嫌いじゃない。まるで陽明学者みたいな主人公を数々の小説で活躍させてきたのだから。
結果この不思議な「殉死」という小説ができたのだと思うとき、改めて自分自身が司馬の虜であることに気づく。
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司馬さんは乃木さんの事を冷めた視点で辛口で綴っていたけど、乃木希典という人はやはり凄い人物に思えた。
自決当日の写真は、衝撃的。
薄い本だけど、とっても中身の濃い一冊。
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坂の上の雲のスピンオフ版
または外伝と言ってもよいかもしれない乃木希典の人生の本。
司馬遼太郎がこれでもか!くらいに乃木希典の事があまり好きではないのが伝わる(坂の上の雲もそうだったけど)
なんかあれだよな、終始不器用な人だなという印象しかないかも。
旅順攻略もそうだし、その後の生活でもそうだし
明治天皇のあとを追って亡くなるのは
それはそれで美しいのかもしれないけど
なんか同時に滑稽だなとも思った。私は。
美的価値は本当に人それぞれだな、と。
乃木神社はいったことあるけど、乃木邸はまだなので
今度ぜひ行きたい。
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「坂の上の雲」の主要人物として登場する乃木希典のその後を描いたスピンオフ作品。
司馬遼太郎による軍人、乃木の評価は著しく低い。「坂の上の雲」でも本小説でも、日露戦争の対旅順要塞での無策ぶりの描写は痛烈だ。
そもそも乃木という人は、軍に求められるのは戦略や戦術ではなく精神主義と考え、軍司令官として自身の失敗を「自死」で片付けようとする傾向にあった。そんな人間は軍を含めて、組織の管理者としては無責任すぎて、不適切だ。が、外部の国民や天皇からすれば、彼の死を恐れない部分が軍人としての潔さ、カッコよさに見えた。
そして、乃木は夫婦そろって明治天皇の後を追って殉死する。日露戦争では2人の息子を亡くしている。一族をあげて日本に殉じた乃木将軍は神の存在となる。
この軍神乃木の存在が、日本軍の悪しき精神主義の基礎となり、昭和の戦力や戦局を無視した戦争につながった。著者が「坂の上の雲」から一貫して乃木の無能をたたき続けた理由はそこにあるんだろう。
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なるほど、という感想が1番かもしれない。
乃木希典のことが気になってこの本を読んでみた。作中通り、日露戦争では大量の犠牲の上に旅順を攻略した。その犠牲の大きな原因は乃木希典であった、たくさんの人を死なせ、自分自身はこれでもかというほど武士道を貫き通して最後は死んだ。
人として、日本人として見習わなければならない点は多々あると思う。実際、昭和天皇は乃木希典を慕い、その教えに忠実だった。その結果、先の世界大戦で敗戦し、占領された中でも天皇は象徴として残った。マッカーサーの心を大きく揺さぶった。軍部の影響が大きかった故だが、昭和天皇はとても人道的であり、非人道的な兵器には大変否定的で、戦後復興の大きな象徴になれたのは、乃木希典の教えがあったからかもしれない。
個人的には児玉の友情もとても胸熱だった。乃木希典の1番の理解者で、よき友だったと思う。乃木希典に振り回されながらも、乃木式の美に尊敬し、そういったところが憎めないんだという心うちがひしひしと伝わってきた。日露戦争の時も、戦争に勝つことはもちろんだが、乃木の安否も同等なほどに心配し、戦上を駆け回り夜を共にした。児玉という男の熱さにも心揺さぶれるものがあった。
個人的には、乃木希典は小説ほど否定される人物ではないという意見だ。戦場では才能がなくたくさんの人を死なせたが、同時に乃木式の精神で世界を感動させ救われた人もたくさんいると思う。少なくとも人として見習うべき点が多いため、今の自分は乃木希典を肯定したい。
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坂の上の雲が再放送されており、本棚にあるのにずっと読んでいなかった本書を急に読みたくなる。
司馬遼太郎の乃木評はけっこう辛いものがあるとずっと思っていたが、本書を読んでその想いは少し違ったものになった。軍人としては無能に近いと評しながらも人間乃木については評価するところもあり。
不器用な人だったんだなと思う。本書の中に「乃木にはどこかひとの庇護意識を刺激するものがあるのであろう」という面白い一文がある。司馬遼太郎もまさにそんな目で乃木を見ていたのであろうか。
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坂の上の雲で基本的にはエンドレスボロカス言われる乃木希典。(少しフォローも入るが)
彼のバックグラウンドと、日露戦争後から自決まで。小説ではない。
「希典自身、自分の一生を暗い不遇なものとして感じていたらしいが、これはどうであろう」
という司馬さんの締めくくりが、いろんな想いを巡らさせる。
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児玉源太郎によれば軍人の頭脳は柔軟でなければならず、新しい現象に対して幼児のように新鮮な目を持たねばならない
将器というのは教育によるものではなく、ついにはうまれついての才能によるものであろうか
軍人というのはいったん腰をすえた作戦観念や地理的場所から容易に抜けだすことができない職業人
↑
私は、児玉源太郎将軍が好きです。
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作者が乃木希典を題材にここまでの長編を書くからには興味をそそる要素があったからであって、それはやはり明治天皇の後追い自死があったからであり、しかも妻も含めてとなるとその人間性を詳しく探求したくなったのでしょう。
第一部は「坂の上の雲」でも詳細に描かれた旅順攻略を中心とした、司令官として害をなすほどの極まる無能さで、作者も憤りを隠さず描いており、読み手にもその悪手に憤りを感じる。犠牲になった当時の兵員達のことを思うと悲痛です。
第二部は割腹自殺にいたる動機を作者の想像を交えて描かれる。昭和初期の人物、山鹿素行を崇拝し、その図書「中朝事実」を将来の昭和天皇に強要するほどの熱の入れよう、それはやはり異常に偏った考えであり、儒教に傾倒した極めて純粋な、軍人としては最悪の志向の主となった故、という掘り下げに納得感がある。
終盤の切腹シーンは妻、静子の心理も含めとても詳細に語られているが、とても尋常ではなく、心を揺り動かされる。その自殺を世界は驚嘆とともに評価されていることも驚きで、アメリカ軍での模範とされているのもある意味アブナイ話ではある。
自死の朝の写真の不可解さにも一層興味をそそられる。
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久しぶりの司馬遼‼︎
幕末から明治を生きた乃木希典。
相変わらずのしつこいほどの余談と描写(フィクション含⁇)に人物像がどんどん浮かび上がり、あまり馴染みのない明治時代でも興味が止まらなかった。
乃木希典。
幕末前後の長州の奥の奥の信念を持ち続けた人物ならではの『劇的』(作者談)な人生、人物像に深く感じ入るところあり。
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"司馬遼太郎さんの本。乃木希典さんは、日露戦争の英雄として記憶していた。靖国神社脇にある遊就館の展示イメージが強烈に印象に残っている。(乃木希典大将は戦死者ではないので、靖国神社に御霊はない。)
本作品では、軍事としての能力が著しく欠けており、家系、人脈、人柄から陸軍大将という地位にあり、日清戦争時に第三軍司令官として旅順、203高地へ赴任したとある。結果的に多くの戦死者を出すことになる難攻不落の要塞攻略に、正面突破の命令しか見いだせなかった無能な軍人として描かれている。
歴史は語る人により、見方が大きく変わるものである。多くの書物を読むべき理由のひとつがここにある。"
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ちょうど坂の上の雲を読んでおり乃木将軍の人となりに
興味を持ったということと、中学の時に国語の教師が明治帝の崩御の際に
殉死した軍人がいたということとその時の描写を授業で語っていたのを
意外と強烈に覚えていたので乃木大将がなぜ殉死(しかも奥さんを伴って)
へと向かったのかを知りたくて読んでみました。
ただ、司馬遼太郎は一貫して乃木希典という人物に批判的なので
坂の上の雲と殉死しか読んでいないのでは司馬フィルターを通してしか
乃木希典という人物を捕らえていないことにはなるのですが
この本自体は様々な人の証言や状況証拠から経緯を追っており
読み応えがありました。
陽明学の流れを組んでの殉死だとは思っていなかったのですが
説得力のある分析だなぁと思いました。
結末は分かっていながらもその悲しい結末へと向かっていく過程を
知りたくて夢中で読み漁ってしまいました。
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日露戦争で日本の軍隊を指揮した実在の人物乃木希典をテーマにした小説。もともと別の作品の「坂の上の雲」でどういった人物かは知っていたが今回の作品はより軍人として生きた人間像を浮き彫りにして単なる英雄として描かれがちな人物に対して一種の異常性をも含めてより興味を持った。
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ひとりの不幸な人生を垣間見てしまった気がする。司馬遼太郎の人物を描き出す力は凄いと思った。またこれが史実なら、日露戦争で戦死した人はいかに不幸なことかと思ってしまう。
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司馬遼太郎曰く、乃木希典は愚将。
だが、文人ではあるらしい。
陽明学などのバックボーンも紹介し、
殉死に至る心境の経緯を描いている。
メモのような書き方ではあるが、
おそらく司馬遼太郎で補完しているところもあり、
史実というより小説のような読み物だと思う。
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乃木希典。日露戦争で苦闘したこの第三軍司令官、陸軍大将は、輝ける英雄として称えられた。戦後は伯爵となり、学習院院長、軍事参議官、宮内省御用掛など数多くの栄誉を一身に受けた彼が明治帝の崩御に殉じて、その妻とともにみずからの命を断ったのはなぜか。〝軍神〟の内面に迫って、人間像を浮き彫りにした問題作。
”坂の上の雲“のサイドストーリーと言う印象で読み進めていった。坂の上の雲を読んでいる時は、第三軍に対して何をやっているんだと腹がたった。
この本を読んで、乃木希典という人は軍人としては能力は無かったかもしれないが、日本の武士道を体現したことで水師営での見事な会見を行い、日本国の評価を高めることができた。これは乃木希典だからこそ出来たことであろう。
明治天皇との信頼関係が強いことは知っていたが、昭和天皇と関わりが深かったことは新鮮な驚きだった。
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30代までに主要な司馬作品は読んできたが、本書は読んでなかった。理由は、予想がついたから。司馬さんは『坂の上の雲』の秋山兄弟や正岡子規、『竜馬がゆく』の坂本龍馬など、好きな人物を明るく描き、好評を得た。『坂の上の雲』で執拗とも思えるくらい無能ぶりを批判してきた乃木希典を題材とした本書の書きぶりは予想がついた。
読み始めて直ぐ合点、「自分の思考を確認するために著した」とのこと。「Ⅰ 要塞」は『坂の上の雲』のスピンオフな内容。「Ⅱ 腹を切ること」は日露戦争後から明治45年9月13日に殉死するまでを描いている。ここでも司馬さんの乃木評は変わらないのだが、劇的に生きる嫌いな乃木に驚きすら感じているように読めた。
気になったのは乃木が“教育係”を務めた昭和天皇への影響と同日殉死せざるを得なくなった妻、静子さん。時代とは言え、日露戦争で二人の息子を亡くし、夫の“指示”から15分後の殉死(52歳)は気の毒でしかない。
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自身が思う美と忠誠を生涯にわたって体現した乃木希典。ひとつひとつの挙動からクライマックスの切腹に至るまで、全てが美しく思えてくる。死を前提とした武士道、己の信じた善を(成否を案ずることなく)実行する陽明学に通ずる部分があるという。
彼の陰鬱さや滑稽さ、間の悪さもひっくるめて、明治帝や児玉源太郎がそうだったように我々もいつのまにか魅了され心を揺さぶられる。『どこかひとの庇護意識を刺激する』という表現がまさにぴったり。
中盤、日露戦争における旅順攻略のあたりは坂の上の雲で読んだ内容で中ダレしたけれども、司馬遼太郎の眼鏡を通して見た乃木希典とその周辺はとてもドラマチックで一気に惹きつけられた。
お七、妻静子は最期に何を考えたんだろう。ひとは15分間で覚悟を決められるものなのだろうか。または乃木希典という人物が静子の心も動かしたのか。いやはや自分にはそこまでスピる自信がないな…。
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坂の上の雲の内容を見れば、大体この本の方向性は見当がつくことと思う。
筆者が「自分の思考を確認するために著した」という本。
乃木希典を好んでいたとは思えない司馬氏の目を通した
『史実』であることに変わりはなく
これが真実乃木希典であったかと言えばなんとも言えないところ。
最期の時を前にし、静子夫人の胸中はいかばかりであったか。
後味が良いとは言えない話である。
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司馬さんは、乃木ファンではない。
では、何故この作品を書いたのか?
確かに乃木希典の精神主義は、その後の日本陸軍に負の影響を与えた。
だが日本男児には、生まれ持った武士道精神が宿っていて何故かこの愚将乃木希典に惹かれてしまうのかもしれない。
奥さんには、同情しますが…。
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p.195
かれのみはその前時代人の美的精神をかたくなに守り、化石のように存在させつづけた。
坂の上の雲でもそうですが、司馬遼太郎は乃木希典がよっぽど嫌いだったのかな。
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陽明思想とナルシスティズムに凝り固まった軍人で、自分の友達や仲間にはしたくないと思った。
だけど少し自分に似ているところもあった。
同族嫌悪…?
司馬史観の本領発揮
怜悧で英邁かつ鋭敏なる司馬先生による歴史館は目から鱗の世界のようである。この乃木に対する犀利で客観的な分析は思わず嘉悦してしまうほどだ。
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乃木の理想主義。形式主義。そして無能。その無能さにもなかなか自分で気付いていない。悲劇。
その空っぽさは、空っぽさゆえに人が讃える。美しいものを正義としてしまうのだ、われわれ、民衆は。そこに中身がない分、どこまでも清らかな人に見えてしまうのだ。この日本人の感性は、どうにかならないものだろうか? 理性的ではないよなあ。
西郷は理想主義であるが、形式には拘らず、現実を伴ったものであった。だが、清廉なもの、人格に人は寄ってくるという点では同じ。どちらも悲劇だし、いまだにその幻想を抱く日本人も現在進行形の悲劇だ。
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事実誤認の多さが、今では批判されているらしい
ウィキペディアなどで調べてみてください
しかしまあ娯楽小説ですから
日露戦争の旅順攻略戦において、六万もの犠牲を出した乃木希典は
今なお愚将との謗りを受けることが多い
ただ実際の問題は
当時すでに、半ばお飾りの大将だった乃木自身のことよりも
参謀の伊地知幸介らが、己の固定観念とプライドにとらわれすぎて
外野の意見を聞かなくなっていた点にあった
損害が大きくなって、やむを得ず大本営の進言を受け入れたが
それを上手く生かすこともできないまま
結局、児玉源太郎においしいところをさらわれる格好となった
マクロな観点で戦場を眺めわたす目を、伊地知が持ち得なかった一方
乃木はある種の忍耐で、その独走を追認・放任した
ただし、旅順攻略の見通しを甘く見積もったのは大本営も同じであり
そのことが初期方針を大きく誤らせたのも事実だろう
結局は、空気に流れた人々の責任を負わされただけ
そう言えないこともない
そしてその報酬が、乃木の神格化だった
自己陶酔にも似た忍耐と、敵将への丁重な扱いが美談にされた
それは、「弱い父親」への同情混じりの信仰
封建的というのでもない
自己憐憫に支えられた逆さまのファシズムであり
すべての「無能な働き者」たちに、生きる勇気をもたらすもの
乃木と共に仰ぎ見る天皇のもとで
彼らはたしかに、時代を形成する一部分たりえたのだった
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作者はこれを小説でなく事実としているが、やはりこれは物語でしかないと感じます。作者の怨念によって書かれたんだなぁと。乃木さん好きには複雑な内容。ただ、そうと分かりながら読んだので不満はありません。どんな酷評も、乃木さんの弱さを含め好きな私にはある意味良い作品でした。
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乃木希典の一生を冷ややかな筆致で描く。日露戦争のくだりは『坂の上の雲』を読めばいいとして、後半部、明治帝の崩御に殉じ妻と自死する場面だけでもこの本は読む価値がある。
『坂の上の雲』では触れられていなかったが、乃木希典の陽明学への傾倒についての言及と考察が興味深い。陽明学派にあっては、【おのれが是と感じ信じたことこそ絶対真理であり、それをそのようにおのれが知った以上、精神に火を点じなければならず、行動をおこさねばならず、行動をおこすことによって思想は完結するのである。行動が思想の属性か思想が行動の属性かはべつとして行動をともなわぬ思想というものを極度に卑しめるものであった。】
物事に客観的態度をとり時に主観を合わせつつ物事を合理的に格物致知しようとせず、おのれが道が常に正しいとする考えは学問というより宗教ですらある、と司馬は断じる。
そーいや、自分の価値観や前提を疑わない人って、人の話を聞かないのに加えて、妙に行動的なところがあるよなぁ。思想と行動を一致させることが正しいと思ってるとこもあるなぁ、と思ったりしました。74点。
Posted by ブクログ
高校生の頃、「坂の上の雲」を読んだ。秋山兄弟や啄木のことより、バルチック艦隊のことより、乃木将軍の無能ぶりが印象強かった。
最近では、それほど無能ではなかったとする研究もあるようだが、どうなんだろう。
読書している感じは普通の司馬遼太郎作品とさほど変わらないが、司馬さんは小説以前の覚え書として書いたとしている。主人公に感情移入したくないということだろうか。
旅順攻略については参謀、伊地知幸介も酷いのだが、やはり屍が累々と重なったのは乃木将軍の所為だろう。砲撃の当たりそうな処にフラフラ出ていこうとする自殺行為も度々。こんな困り者を死なせまいと何故か山県有朋や児玉源太郎は助けの手を差し出す。
日露戦争後は明治帝の心情的な従者であったという。ひたむきに誠実でることが、おかしみになり、天皇から愛されたという。そんな天皇と乃木将軍の関係は本書で初めて知った。
そして殉死について。司馬さんは淡々とその事実をルポしている。陽明学の影響なども取り上げているが、自身も共感してはいないのだろう。
何か奇妙さばかりが胸に残ったようだ。