あらすじ
太平洋戦争末期、南方諸島の日本軍が次々に玉砕し、本土決戦が叫ばれていた頃、海軍予備学生たちは特攻隊員として、空や海の果てに消えていった……。一特攻学徒兵吉野次郎の日記の形をとり、大空に散った彼ら若人たちの、生への執着と死の恐怖に身をもだえる真実の姿を描く。観念的イデオロギー的な従来の戦争小説にはのぞむことのできなかったリアリティを持つ問題作。
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Posted by ブクログ
2015.10記。
個人的追悼:小説家阿川弘之氏 (長いです)
小説家の阿川弘之氏がなくなった。とくに若い頃熱心に読んだ敬愛する作家のひとり。
阿川氏は自ら若き士官として務めた旧日本海軍への深い愛情を文学の下敷きにしていた。故に、戦後の文壇からは長く「反動」のレッテルを貼られ、大江健三郎に代表される「良心的」な作家と不当な形で比較されてきた。しかし一冊でも読めば、彼の作品が痛切なまでの反戦文学であることは容易に読み取れる。
海軍善玉、陸軍悪玉論は阿川氏が確立した史観であり(与那覇潤「中国化する日本」より)、最新の昭和史研究では見直しが進んでいるが、そのことと文学としての価値とはもちろん(無関係とは言えないにせよ)別個の問題だ。
「井上成美」「山本五十六」といった伝記文学、あるいは「暗い波濤」「春の城」といった戦争物の傑作群の中でもとりわけ印象深いのは「雲の墓標」。学徒動員されて特攻隊員として散っていく青年の姿をきりっとした文体で描く。士官学校でのカンニングシーンなどのたくまざるユーモアや、組織の理不尽さ、何より主人公の死を暗示させながら一切の具体的な描写がないラストシーンは強く心に残っている。
それにつけても考えるのは、戦争で亡くなった英霊に、「申し訳ない」と思うのか、「感謝」と思うのか、の違いだ。とくに若い世代が英霊、という言葉を使う場合、「英霊に感謝」という視点が大半だ(小林よしのりの「戦争論」が嚆矢だろう)。
それを決して否定したいわけではない一方、阿川氏も含めた戦争を実体験している表現者の作品に感じるのは、「自分だけ生き残って申し訳ない」という気持ちだ。この世代の人が「すぐ横で死んでいった同僚に感謝」なんて言っているのは見たことがない。
Posted by ブクログ
最近読んだのに記録がない。フォルダーの整理をかねて探してみたら、見つかった。
昨年一昨年は疲れてメモする気力がなかったので、読みっぱなしの本が多い。記録しようとは思って書き始めても、書き終わってないものが10冊近くあった。これは途中まででも別のホルダーに入れておけばかすかに記憶は残るだろう。
半分は未完もひどい状態なので削除した。再読して書くことがあるかどうか。
最近読んだ気がしていたのに、日付が昨年や一昨年になっている、日が過ぎるのは早い、まさに矢の如し。
「雲の墓標は昨年読んだ。紛れて無くなる前に載せておこう。
昭和31年4月 新潮社発行
平成12年2月 69刷 新潮文庫
「永遠の0」を読んだので思い出して読んでみた。
若い頃に読んだときは、感傷的な読み方で、主人公の吉野が次第に死を肯定して特攻機に乗る、友人の藤倉は批判的でありながら、事故死をする。学府から離れた若い死に胸が詰まった記憶がある。
戦後も遠くなったといわれ、自由を謳歌できる世代が育っている今、読んでみるとまた違った感慨がある。
戦争の経過や、戦況は「永遠の0」でも少しは理解できるが、海軍予備学生は、兵学校卒には軽く見られ、命を兵器にする。
学生生活(学問)に心を残しながら、次第に感化されていく様子が痛ましい。
渦中にあればこのように、自ら命を捨てることを次第に肯定するようになるのだろう、一種のマインドコントロール状態で、敵機に向かって突っ込んで、命を捨て未来を絶つことも厭わなくなるのだろう。
こういった気持ちは、平和になった今やっと気づくものなのだろう。
人権・自由が保障されている今、放縦ともいえる生き方さえ許されている。
たまにこういう本を読むことで、改めて自分を考える時間を持つことになった。
薄い文庫だが、読むことで記憶も薄れ掛けた、戦争があった事実を振り返ってみる。
楽しみのための読書にも、こんな短い時間があってもいいと思った。
Posted by ブクログ
何というか、描写が凄いの一言
藤倉悲しい。
この作品の中で、誰に一番感情移入をしたかと問われれば、
自分は間違いなく藤倉と答える。
藤倉が一番現代人っぽい感受性を持っており、でも、昇華の仕方は矢張り軍人らしさはあったかな
甘い物食べたがってた吉野がどんどん変わっていくのが、緩やかに教育に浸っていった感じで恐ろしいけれど、悲しかった。
教育の賜物と言うより、そうしないと生きていけなかったのやもしれない。
そう考えると、当時の世論的なものがいかに今と違う事なんだろう
最後の方の殺伐とした雰囲気の日記が、もう、ね。。。。
でも、日記を書く帳面も鉛筆もあったンだ。
特攻隊は死が近いから、意外と美味いモンを食べれてたンだね。
みかんとかいちごとか。
まぁ、輸送する術がないから其処で消費してたって感じだったけれども。
餓島とかにも届いてほしかったよねぇ……。うぅ。鼠輸送とかアホばかりなんだと。
吉野。最後のほうの殺気立ってる吉野。
吉野兄も悲しかった。
骨が見つかっていない人が多い事多い事。
今も、海や島の何処かに眠っているンだよね。
そんな方々に今の自分が生きている世界の土台を作ってもらったンだって思うと、
大事にしていかなきゃな、って思う。
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生き方を4通りに分けた時、その目指したものがねじれるように四人に収まってしまった。
予備学生として従軍した阿川先生自身が、「死」に向かい順応していく、して行くように見せかけて懊悩するのその心理。彼らと年齢が近い分、今の自分に置き換えた時、非常時というくくりを取り外してしまえば、「人間はこんな風に変わっていくのだ」と振り返るような想いがしました。特攻攻撃の多くは学徒兵であったことは有名です。彼らの気持ちの部分に触れると、にがくて苦しくて、でもすごく側にあるような、そんな気持ちになります。
Posted by ブクログ
学徒動員され、特攻隊員の心情を日記形式で綴った小説です。
入隊当初は大学での万葉集の研究に名残を残し、戦争という波に飲まれていく主人公。徐々に死というものに対する考えも変化していく。 かなり前に読んだので内容もうすらうすらになりましたが今でも間違いなく自分の中で1番の戦争文学です。
Posted by ブクログ
十年以上前に読んだ本で、ふと思い出して読み返して、また泣いた。学徒出陣で特攻隊に組み込まれた人の日記という形式で終戦までの日々が語られ、時々彼の友人たちの手紙が挟まる。淡々とした語り口の中で、しだいに軍隊に染まっていくさま、思想がごく自然に変わっていくさまを見るのがつらい。死を目前にして、読んでるこちらが泣きたくなるほど美しく景色が描写されるようになるのがつらい。友の死を当たり前のように受け入れるしかない、生と死が限りなく近く、逝くのが先か後かの違いでしかない空間がつらい。死ぬために訓練する狂気の空間が、実際にあったことだという事実が恐ろしい。
もう読むまいと思うくらい全体的に暗くつらい本なのに、戦争の気配がするたび、私はきっとまた読み返したくなるのだろうと思う。
Posted by ブクログ
「阿川弘之」を代表する作品のひとつ『雲の墓標』を読みました。
「阿川弘之」の著作はエッセイの『エレガントな象 ―続々 葭の髄から』以来なので、約1年半振りですね。
-----story-------------
青年たちは何を想い散ったのか。
史上最悪の戦術の犠牲となった特攻兵の清廉な魂を描く。
昭和文学の金字塔。
太平洋戦争末期、南方諸島の日本軍が次々に玉砕し、本土決戦が叫ばれていた頃、海軍予備学生たちは特攻隊員として、空や海の果てに消えていった……。
一特攻学徒兵「吉野次郎」の日記の形をとり、大空に散った彼ら若人たちの、生への執着と死の恐怖に身をもだえる真実の姿を描く。
観念的イデオロギー的な従来の戦争小説にはのぞむことのできなかったリアリティを持つ問題作。
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海軍予備学生で特攻隊員の「吉野次郎」が、応召されてから特攻隊員として出撃するまで… 入隊直後の戸惑いから、徐々に海軍の雰囲気に馴染み、洗脳され、特攻隊のひとりとして出撃するまでの日記及び手紙と、同期だが、常に軍隊の考え方に疑問を持ち、反戦的な考え方を貫いた「藤倉」の手紙で構成されています。
ドラマティックな展開はなく淡々とした筆致の作品なのですが、それが逆にリアル感を醸し出していて、作品の中に引き込まれて行く感じがしましたね。
貴重な両親との面会シーンにじ~んとなったり、
辛い軍隊生活で些細なことを幸せに感じるシーンをしんみりしたり、
特攻隊員の発表で、自分の名前が呼ばれなかったことにほっとしたり、
自分が、もし同じ立場で応召されたら、「吉野」のように考え、行動したんだろうなぁ… と感じながら読み進めた感じです。
雪が徐々に降り積もるように、静かにじんわりと、そして少しずつだけど確実に感動が込み上げてくる作品でした。
さすが戦争文学の傑作と呼ばれる作品だけありますね。
戦争のことを知ることは大切だと思います。
今の時代に生きていることを幸せだと思わなきゃいけないですねぇ。
でも… 読んでいると感情移入し過ぎてしまい、気持ちが沈みがちになっちゃいましたね。
Posted by ブクログ
目的化した死が、あらゆる不安をはらいのける
サルトルは、自由が人間を縛りつけるのだと言った
だが徒競走ならば、自由もへったくれもない
きれいさっぱり清められた一本道を、おのが死めがけて突っ走る
そのように自らを律して特攻の日を迎えようとする若者たちの手記
というテイで書かれた小説
その、スマートとすら呼べるすがすがしさは
ひょっとしたら同調圧力に負けたおのれをごまかす
自己欺瞞でしかないのかもしれない
いや、しかし実のところそれは、要領よく生き延びたとして
おのれに恥じないでいられるような人間でありたくはない、がゆえに
自らの意志でつかみとった気高さ、潔癖さであると
・・・生き延びてしまった者が
そのように納得してしまうことこそ欺瞞であろう
Posted by ブクログ
戦争に肯定的な軍人は、戦時中でも案外少なかったのではないかと思う。日本人特有の空気に支配されていたのだ。
戦時中にこれほど、自分に素直に書いた日記が実際にあったのだろうか?
Posted by ブクログ
読み終えたあと虚脱感を感じた。特攻隊として散っていった主人公の思いについて、日記形式に書かれている。主人公の気持ちを考えるも、なんと言うか、リアリティが感じられない。いや、これは想像力が無いだけなんだろうけど。同時代人はどう思うのだろうか。身につまされる思いがするのだろうか。
近頃の子供たちは、小さな科学者、小さな国家主義者として、こまちゃくれた育て方をされているものが多いようである。大人が子供の世界を造ってやることは、やめなければいけない。…自分たちは死んでも、子供たちの上には、ひろびろとした豊かな祝福された次の時代が来なければならぬ。
Posted by ブクログ
時間が経つにつれ、変化していく心情。
生きたい、生き残りたい、そして「死んでやるのだ」という心の動きの狭間で、どちらにしても痛みが残る悲しさ。
読み進めて、藤倉のくだりで鳥肌が立った。嘘だ、と言いたかった。彼の苦悩は現代の、戦後教育を受けた私たちにも分かるはずだ。
最後の方は喪失感が途方もなく大きくて、言葉にならない。どうやって生きていくのか、私には分からない。
Posted by ブクログ
淡々としていますが、変に脚色していない分すんなり入ってきました。
時折、ほのぼのした場面になったり、クスリと笑わせてくれる場面もあるので
それがまた終盤で切なさを増幅させます。
中高生に読んでもらい!と思う作品ですが
専門的な用語に解説がありませんので(日記形式なので仕方がないのですが)
いくらか戦争の知識がないと難しいのかなと感じました。
Posted by ブクログ
文庫本の解説で安岡章太郎氏が「おそらく大半の人が、この小説を泣かずに読みとおすことは出来ないだろう。」と書いているのだが、私はまったく涙は出なかった。といってこの作品に不満かといえばそうではない。死に赴くなかでの主人公たちの心の葛藤や友情、両親や師への思慕など共感できる場面は多々あった。だが、そこを一歩離れて、彼らの直面している戦争の愚かしさを少なからず知ってしまった(想像の閾を出ないが)後では、ぼんやりとした憤りしか感じなかった。私が泣くのは、得体の知れない感動(美や偉大さが存する)によるときである。
Posted by ブクログ
戦争終了後から15年程度でこういう作品が書かれるのかと思いきや、よく考えれば大岡昇平とかもそうでしたね。
それを考えると本作、ちょっと重厚感がない感がある。
ただ、時間が経って書かれた特攻の小説より暗さが目立っていて、やっぱり体験の断絶が起きている感がする。
Posted by ブクログ
戦争と少し離れたところに位置していた学生たちが、飛行科の予備学生として海軍に入り、終戦間際には特攻隊員に選出され散っていく。 自分の運命をどう受け入れるかと苦しみ、何としても運命を変えようと考える者、海軍教育のままに運命を受け入れる努力をする者・・・。 いづれにしても、彼らの運命の行き着く先を考えると胸が痛む。 こういう若者たちを二度と出さない世界になりますように・・・。
Posted by ブクログ
永遠の0を読んで
戦争を扱った本を読みたくなって選んだのがこれ。
同じ特攻隊の目線で、
でも立場は違ってて予備学生の視点。
やっぱり大きな声では言えない本音が相当あったんだと改めて思った。戦争って本当に恐ろしい。
2011/9/26
Posted by ブクログ
少々堅苦しい文章なので、読むのに疲れて何度も何度も挫折しましたが、今回やっと読み終えることが出来ました。
ただの大学生だった吉野くんが、段々と考えが変わってきて、「潔く死んでもいい」みたいになるのが怖かった。
海軍生活をずっと続けていると、そんな考え方になっちゃうの?
今の時代としては、吉野くんの友達の藤倉くんの考え方の方がよっぽど共感できます。
考え方が徐々に変わってはくるんだけど、時々すごく心に響くことをいう吉野くん。
残念です。
そして、私が、この本へ何度目かの挑戦をしているとき、作者の阿川さんがお亡くなりに。
ご冥福をお祈りします。
Posted by ブクログ
文学青年が軍隊で仲間と、時にはイキイキ過ごしているようにさえ読める日記だが、自分がいなくなった後の日本の将来を考えたり、友人のむごい死に様を目の当たりにしたり、明日特攻に飛び立てと言われた後、落ち込んだり、笑顔に戻ってまた冗談を言ったり、こんなのが現実だった彼らの青春。
Posted by ブクログ
太平洋戦争で海軍の予備学生となった京大生仲間の運命を、主人公・中野の日記を中心に語っていく。最初は戦争や軍隊の規律(という名の体罰・リンチ)に反発するものの、日々の軍隊生活の忙しさや不毛な作業の連続から、少しずつ諦めの気持ちになる様子が日記を通してよく伝わる。しかし、戦争への疑問、学問への未練、好きな人への思いとともに、戦争で華々しく散らんとする勇ましい言葉も出され、不安定に揺れ動く。ずっと戦争や軍の在り方に反発していた友人が、一番最初に、飛行訓練中に亡くなる。救助に行った中野がみた友人の様子がとてもリアルに描かれていて、おぞましさすら感じさせる。中野はもっと辛い気持ちで見ただろう。昨夜まで一緒にいて語り合っていた友なのだから。中野は特攻で飛び立つがその消息は不明という形で終わる。終戦10年でこのような話が描かれていたことに驚きを感じながら、そんな時だからこそ、当時の思いを忘れないためにもリアルに描かれたのではないかと感じた。
Posted by ブクログ
太平洋戦争末期の海軍に徴兵された予備学生の生活がリアルに描かれる。戦争反対をしなかったことを批判するに能わず。どうしようもなかった、敗戦がみえてたのに誰もが決し得なかった。こういった小説で、教訓を後世に残すべし。13.7.12