あらすじ
学校の怪談『顔の染み女』を調べていると、別の『開かずの扉の胡蝶さん』の噂が柴山の耳に入る。その部屋で、トルソーを死体に見立てた殺人(?)事件が発生。クラスメイトと柴山が、二重の密室の謎に迫る! 電子書籍特典付き!
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Posted by ブクログ
● 感想
マツリカ・シリーズの第三弾にして、初の長編。日常の謎系のミステリでありながら、現代密室と過去密室の2つの密室の謎が提示されている。
柴山祐希が現代密室の犯人と疑われ、「試験期間の最終日までに真相を見つけ出さないと、犯人と断定される。」という時間制限によるサスペンス的なノリも含んでいる。
マツリカ・シリーズは、柴山祐希の成長を感じる展開となっている。その一環として、この作品では、これまでの作品では重要な役どころを占めていた「小西さん」は、ほとんど存在感がない。柴山のほか、松本まりか、高梨といった人物が、柴山と一緒に探偵の役回りをしている。
後付け的な部分はあると思うが、過去密室の捜査の際に、過去の事件で関わったことがある先輩に聞き込みをするなど、過去作品を伏線として使っている部分がある。そういった意味で、過去作品まで含めた、マツリカシリーズの総決算という意味合いもある。
ミステリとしてのデキはどうか。現代密室の犯人は、探偵チームの一員である春日麻衣子。密室を作った鍵は、偽物の制服を用意し、カーテンが閉まっていた絵を描いていたというもの。春日麻衣子が、柴山を犯人に仕立て上げようとした動機がつかみにくいので、読者をミスリードするためともとれる。野村という存在をミスディレクションとしており、意外性、密室トリックとも、考えられているが、やられた感はそれほどない。原因は、密室トリックが込み入り過ぎているからだと思う。もっとシンプルな方が入り込めた。偽物の制服を用意していたという点も、伏線が感じられなかった。とはいえ、密室のトリックとしての完成度は高い。
過去密室の方は、被害者の秋山風花と松橋すみれが嘘の証言をしていたから密室になっているだけで、犯人が七里というシンプルなもの。密室が成立した原因は、屋上での垂れ幕作業によって生じた影と、犯人が同じ服装をしていたことにある。過去密室の謎を柴山が解くことで、柴山の成長を感じる場面となるが、謎としてはたいしたものではない。
マツリカさんが、学校に来て、関係者の前で謎解きをするなど、これまでのお約束を破る展開。柴山の成長、お約束を破る展開、2つの密室の謎と面白さがアップしており、過去作に比べると気持ち悪い描写が少ないという点もいい。過去作を見ていないと面白さが減ってしまうので、過去作から読んでほしいが、この作品に限った方が他人にお勧めしやすいという印象。
ミステリとしてのトリックは、込み入り過ぎているという難点があり、現代密室の犯人が柴山を巻き込んだ動機の弱さ、全体を見て、読者を騙そうとし過ぎている要素はある。とはいえ、シリーズでは屈指の完成度と読みやすさがあり、全体の評価は★4としておきたい。これが、傑作「medium 霊媒探偵城塚翡翠」につながっていく、相沢沙呼としても重要な作品となっていると感じる作品である。
● 事件
● 設定
柴山は、七里との間で、現代密室の謎を、試験が終わる日までの解き、真犯人を見つけないと、柴山が罪を被るという約束をしている。
● 密室殺トルソー事件(=現代密室)
テニス部の七里観月の制服を着たトルソーが、密室なっている第一美術準備室で、カッターに刺された状態で見つかる。
【6つの推理】
● 1つ目の推理 松本まりかの推理
試験準備期間前に鍵を借り、窓を開けておく。窓から室内に入り、窓から出る。あとは、第1発見者として窓の鍵を閉める。
● 2つ目の推理 柴山祐希の推理1
窓から出入りをし、糸を利用して鍵を閉める。ただし、ほこりの状況からこのような事実はないことが分かっている。
● 3つ目の推理 三ノ輪部長の推理
猪頭先生が犯人。又は吉田先生が犯人。先生なら鍵を自由に使えるので、密室でもなんでもない。ただし、猪頭先生が犯人でないことはアリバイから分かる。
● 4つ目の推理 高梨の推理
トルソーを、薄くて長い板で滑り込ませた。ただし、現実的には、相当の重労働でほぼ不可能
● 5つ目の推理 村木翔子の推理
美術室の鍵を偽物とすり替える。松本まりかが犯人という推理
● 6つ目の推理
合鍵を使うという推理
● 廃墟の魔女の推理
鍵は、自転車の鍵とブリーツスカート。ブラウスのポケットに自転車の鍵が入っていた点に違和感がある。状況と推理から、自転車の鍵は、スカートのポケットに入っていたはず。それが、どうしてブラウスのポケットに移ったのか。それは、糸を使い、部屋の外からポケットに鍵を入れるため。犯人は、精巧な偽物の制服を用意していた。準備はずっと以前から行い、確認は本物でさせる。カーテンは、ベランダから、窓にカーテンが掛かっている絵を張り付けた。犯人は、制服を盗んだ当日に美術室に入ることができ、野村が席を外した数分で鍵を送り込むことが可能で、深夜零時にタイミングよく、柴山にライトの明滅を見せることができた人物、春日麻衣子
● 2年前の事件(=過去密室)
文化祭の準備期間中に、開かずの扉の中で、一人の女生徒が血を流している状態で見つかった。
写真部の松橋すみれと三ノ輪は、秋山風花が階段を上るのを目撃。松橋は、その後、倒れている秋山を発見。その部屋は密室
秋山は午後4時半頃、襲われ、気絶。しかし、午後5時頃、松橋すみれと三ノ輪は、部屋に入った秋山風花を見たという。垂れ幕の影と同じポロシャツ。この2つから、部屋に入ったのは秋山だと思った。秋山は、七里にカッターで切られたが、自分から襲ったという事情もあり、文化祭を守るために、松橋と口裏を合わせ、七里に襲われたとは言わなかった。隠して、狂言をしたという噂が流れた。
Posted by ブクログ
これまでマツリカシリーズは小さな謎を解いていって最後に大きな謎でしめくくるの言う感じが多かったが今回はひとつの謎に集中して取り組んでいく感じの作品だった。
推理を出しては失敗しての繰り返しは自分も小説の登場人物と試しているようで良かった。
最後のマツリカさんの登場シーンがカッコよすぎる、
また、どんな人でも皆自分の存在価値を求めて生きていくんだなと思った。たとえそれがどんなやり方であろうと、、
Posted by ブクログ
今までの流れがあったから芽生えた葛藤や楽しみ。
正義感?真面目さ?倫理観?何っていうか表現は難しいけど、自分のことを陥れようとした人を思いやれるだろうか?ともに過ごした時間まで、嘘だったかのように思ってしまいそうだ。そんなことはないのに。
今後は楽しい思い出が増えることを予期させる終わりでした。
Posted by ブクログ
シリーズ3作目にして初の長編。現実的に無理だろうと思われる推理の展開が続く中盤は中だるみしたけれど、最後は結構好きです。シリーズの良さも出ていたと思います。
Posted by ブクログ
マツリカ・シリーズ3作目にして初の長編。『密室「殺トルソー」事件』を、柴山君と仲間たちが解決していく。
作中、登場人物の一人が「人が死なない密室を書いた小説で有名なものはないんですか?」と問うている。作者はこれにチャレンジしたわけだ。
今作では柴山君と仲間たちがそれぞれの推理を披露していく。《古典部》シリーズの「愚者のエンドロール」に似たような展開だ。そして最後は、あの方の登場となる。1巻目と2巻目を読んでいたほうが楽しめる。それらに、伏線が張られていることに気づくだろう。柴山君の煩悩は相変わらずだが、マツリカさんの過去がまた少し明らかになる。
あと、「もしこれが男性作家が書いた推理小説だったら、その作家はプリーツスカートに詳しいただの変態ではないか」とある。これ自虐ネタなのだろうか。
Posted by ブクログ
なかなかマツリカさんがいつものように出てこなくて、待たされて焦らされて、満を持しての登場だった。そこまでが長かった。やっぱりマツリカさんが推理を披露してくれないと締まらないのである。
それと今回は、他の生徒の前にいるマツリカさんの姿が見られて、彼女が下僕だけではなく誰にでもああいう強気な態度であることが分かった。柴山じゃないけどマツリカさんのことが気になって仕方ない。
事件に関して、マツリカさんに言われて初めて気づくことばかりだった。プリーツスカートの構造から論理的に説明して見せたところは面白かったし、「これがもし男性作家の書いた推理小説だったら」と柴山がその変態性を指摘するところで笑ってしまった。読者がどんな目で見ているかよく分かっていて、自虐を入れてくるのが良かった。
相手を思うからこそ何も言えないということは大いにある。そこに気づけただけでも柴犬くんは成長したのだなぁと思える。
Posted by ブクログ
現在のところこの「マツリカ」シリーズはこの第三巻まで発行されている。予備知識なしにこのシリーズを読み始めたので、この「マトリョーシカ」で最大の謎であるマツリカさんのことが語られてシリーズが終わるのかと思っていたが、どうやら違うみたいだ。
まさかこのままこのシリーズが、様々な謎を回収しないまま終わるとは思えないので、続編を楽しみに待ちたい。
さて本作であるが、シリーズ初めての長編である。「マツリカ」さんの登場場面が少ないのが寂しい。その分柴山君は相変わらずウジウジしながらも頼もしく成長しており、八面六臂の活躍を見せる。
密室の謎があまりに回りくどく、その謎解きに自分自身がのめり込めなかったので、ミステリーとしてはあまり楽しめなかったが、柴山君の成長物語、あるいは良質の青春ドラマとしては楽しめた。
それにしても、柴山君の周りには魅力的な女子がいっぱい集まる。なんとも羨ましい。