【感想・ネタバレ】偶然世界のレビュー

あらすじ

九惑星系の最高権力者ヴェリックは、公共的偶然発生装置のランダムな動きにより失脚した。かわって権力の座についた無級者カートライトも、ボトルのくじ引きにより六十億の人々のなかから選ばれる。だが、数時間後、指名大会で選出された刺客がカートライトの命をねらっていた……著者の第一長篇。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

SF界では有名な方らしいというのと、本屋で見た装丁がかっこよ(略)厨二心をくすぐられたので購入。よく耳にする「~は~の夢を見るか?」というタイトルの元ネタでる「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」という作品を書いたフィリップ・K・ディックの長篇処女作。らしい。本当はどこかの作品でオマージュだか参考だかにされているから手に取ったんだと思うけど、その作品かは忘れてしまった。

ボトルという装置によってランダムに権威者が無作為に変動していく近未来の世界で、従属契約や刺客とディープの争い。《炎の月》。
絶対的君臨者として存在するヴェリック。それにつき従うエレノアとムーア。テッドは翻弄されるがままにその最高権力を取り戻すための戦いに巻き込まれていく。無級者として惨めな生活を強いられるカートライトも、そのボトルが巻き起こす嵐の真ん中に放り込まれていった。

突然始まるボトルという装置が支配する世界に戸惑うこともありつつ、SF世界として楽しめた。カクテルや飲み物にすら近未来の要素を持たせ、登場人物たちが交わす言葉も当たり前のようにSF要素が飛び交う。
いまいち登場人物たちの心情が理解できない部分も多かったが、おおよそ因果の破綻なく物語が進められるので、プロットの正確さを感じた。これまで私が手にした翻訳本の中ではかなり読みやすい。
エンターテインメントとしてストーリーの破綻は感じられず気持ちのいいテンポで進んで行く。絡み合う隷属関係はあまり意識しなかった。それが最も効果を表すのは後半になってからだ。また、《炎の月》という理想的世界と過程される惑星への希求も同様に。
全体を通してランダムに当てがわられる殺し合いゲームに主眼を添えられているので、ゲームならではのハラハラ感や攻略感も楽しめる一方でどこかグレーに彩られた世界で生きる登場人物たちの言葉がいやに光る。
物語の途中ではテッド・ベントリーが自分は精神病質なのか苦悩するシーンがある。違法は我々なのか世界なのか。異質なのは自らなのか周囲なのか。それはぺリグ・ボディにムーアの悪意によって突然放り込まれたテッドの戸惑いのように、ヴェリックに依存するしか存在できなかったエレノアのように自らのアイデンティティについて問いを少しづつ投げかける。
Mゲームによって歪められた世界から九惑星を越えて新たな世界を手に入れるその欲求、テッドがヒルを飛び出し違法を犯し社会と自分との折り合いを苦悩させるまでに至らしめた彼の欲求、それはどちらも物語最終の台詞のように前進する志向が含まれたからこそ成し遂げられ、虐げられるものではない。そして、ひとつのゲームが終わったのである。

「SFの古典」というおとで読みいにくいかと不安だったが、エンタメ要素は多く充分に現代でも楽しめる作品である。これを切り口に、「ニューロマンサー」や「アンドロイドは~」なども読んで、SF的世界の造詣を深めるための一歩にしては充分の役割を担えるだけの実力のある作品だった。

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2013年02月20日

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