あらすじ
自らは病気の自覚のない、精神を病んだ人を説得して医療につなげてきた著者の許には、万策尽きて疲れ果てた親がやってくる。過度の教育圧力に潰れたエリートの息子、酒に溺れて親に刃物を向ける男、母親を奴隷扱いし、ゴミに埋もれて生活する娘……。究極の育児・教育の失敗ともいえる事例から見えてくることを分析し、その対策を検討する。現代人必読、衝撃のノンフィクション。
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Posted by ブクログ
精神障害を抱えたまま長年引きこもりを続けると、症状が悪化し、やがて固定化してせん妄、薬物・アルコール依存などから抜けられなくなる。男の場合は特に暴力・威嚇によって家族をコントロール下においてしまう。家族はそれを恥として隠そうとしたり、社会も本人の意思を尊重するというのが大原則なので、問題はますます悪化する。パーソナリティ障害のような、認知も治療法も進んでいない病を医療につなげるために尽力してきた著者が、現状を豊富な実例と共に伝える。
後半には2013年の精神保健福祉法の法改正について触れている。精神病者を家族ではなく社会で広く受け入れる体制へ変更されたが、現場の態勢が脆弱なまま、家族という堤防の決壊を招いている。この現状では、いつ犯罪行動へと患者が向かうか分からない、という危機感も書かれている。対応困難な患者の背景には、必ずといっていいほど親子関係の問題も隠れているという話も示唆的だ。
自分も青年期までは依存症の患者を家族に抱えていたし、最近ではたまたま仕事で精神障害を抱えていると思われる人の対応に追われることとなった。家族の困難は理解できるし、そうした困難に真正面から立ち向かう著者の仕事は、かけがえのないものだと感じる。
障碍者のインクルージョンはひと昔前に比べればずいぶん進んでいるが、同時にそこから零れ落ちる闇もますます深くなっているのだろう。他者に対する寛容さを失った社会で、制度や法が人権保護という名の下にそうした人たちの居場所をかろうじて作っている。しかしそれも万能では、もちろんない。他者への不寛容なまなざしは、巡り巡って自分にもかえって来るはずだ。問題についてオープンに話していく土壌を作っていくことが必要だと思う。
実話ですね。
わが家も、一昔前までは、ここに出てくる家族と同じような生活でした。
境界性人格障害とされた家族が、他の家族に暴力をふるう。私には、直接暴力はありませんでしたが、枕元に護身用のナイフを置いて寝てました。
家族みんなで(本人も含めて)、精神科やカウンセラー、警察などとも相談しながら治療を進めていましたが、結局、彼は自殺することを選びました。
話の中で、「つながってない」患者の話がでてきますが、うちは、けしてつながってない家族でも、患者でもありませんでした。
精神疾患や人格障害者は、知らない人からすれば、恐ろしく感じるかもしれませんが、この本を読むことで、その存在を恐れることなく知って欲しいと思います。
Posted by ブクログ
精神障害者移送をしている著者の活動記録のようなもの。
移送だけじゃなくて面会やら環境調整やら宿泊施設経営やら、とにかく手広くやっている。
物々しい言葉使いやパターナリスティックな態度などで敵意を持たれやすいと思うが、内容に批判を加えるのは簡単ではなさそうというくらい実情をよく見ている印象。
本人の問題、家族の問題、病院から制度まで、どれか一つに帰責しないで多角的に分析している。
別に医療化や入院が最適なソリューションじゃないことを著者自身はわかりつつ現実に対応して支援しているようだ。
そのうえで敢えて書くけど、ちょっとナイーブ過ぎて被害的。文章のトーンが。そのあたり「頑張っている」と自認する関係者は腹立つかも。
各種メディアで見る姿と本で読んだ印象はだいぶ違うので、興味のある人は読んでみるといいと思う。