【感想・ネタバレ】ヴォイス 西のはての年代記IIのレビュー

あらすじ

〈西のはて〉を舞台にした、ル=グウィンのファンタジーシリーズ第二作!文字を邪悪なものとする禁書の地で、少女メマーは一族の館に本が隠されていることを知り、当主からひそかに教育を受ける――。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

グウィンの作品の中でどれが好き? という(ある意味とても酷で厄介な)問いを投げかけられたら、いまの私は「ゲド戦記」や「闇の左手」よりもこの本(「西のはて年代記」二巻)をえらんでしまうかもしれない。そのくらい気に入りで、また、わたしにはまだおぼろげにしかわからない深い霊性を湛えた本のように思う。物語そのものは、高い地位の生まれの母を持ちながら「侵略の落とし子」として生まれた少女メマーを主人公に、その目を通して進んでいく。メマーは豊かな感性の持ち主で、その考えのくるくる踊るところーーたとえば客人のための食材を用意したり、自分に半分血を入れた侵略者に強い憎しみを露わにしたり、そのひとりと「男の子」として話して憤慨したりーーに生き生きとしたこころの動きを見ることができる。そして、ゆえに、そのメマーが「語り手」として突き動かされた自分におびえること、メマーに語らせたものが何だったかについて、導き手たる「道の長」が解釈するところが気持ちに沁みる。前作に続いてオレックとグライが出てくるのもうれしい。

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2022年10月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「西の果ての年代記」の第二部、『ヴォイス』。
これは名作だった。『ゲド戦記』を読んだときの感動がよみがえって、涙が出た。
一神教の軍事国家に侵略された自然崇拝に近い多神教の国が舞台。
文字が邪悪なものとされ、禁書の地となっている。

ル=グウィンは、自身の問題意識をふんだんに盛り込みながら、ファンタジーとしての魅力を損なわずに空想の世界を描き出している。
アンサルという都市で起きていることは、しかし、あきらかに現実の世界に存在する多くの矛盾を意識して書かれている。
軍事に対する弁論の力。
女性に対する理不尽な差別。
一神教の強靭さと、多神教の柔軟さ。
不可思議なものへの畏敬の念と、商業に携わる者たちの粘り強さ。

ゲド戦記でもそうだったが、ル=グウィンのなかにある「英雄否定」のようなものが今回もしっかりと描かれている。
「英雄否定」では不正確か。「スーパーマン否定」かな。
この物語の最後は、無血革命だ。
空想上の物語なんだから、どこまでだって劇的に仕上げることはできるし、はっきりいって、そのほうがおもしろい。
しかし、ル=グウィンはそういうふうに物語を語らない。

特殊な能力を祖先から受け継いだ人物も登場するが、それは真に物語を決定的な方向に導く要因にはならない。

葛藤し、怖れ、悩む生身の人間たちの、ほんのすこしの勇気や、誠実なる心が本当の物語の決定要因だ。


ゲド戦記以来、それが彼女の語りたい物語の大切な部分なのだろう。


感心するのは、それにしても、話がおもしろいことだ。
退屈なる純文学の雰囲気は、まったくない。
緻密に描きこまれた世界観は魅力的で、めまぐるしく変転する物語の流れにはスピード感さえある。



それと、この第二部『ヴォイス』は、本や詩や、物語や朗誦、朗読といったものも重要な登場物だ。
本がまだ貴重品で、人々の重要な娯楽を吟遊詩人たちが提供していた時代。
「読み手」「語り人」「創り人」といった言葉が出てきて、それはある種の神性を帯びた尊敬される人々のことを指す。

活字離れが言われて久しい現代にあって、思い切り描きこまれた、本や文字、物語の大切さ、美しさに心を打たれた。1000年に渡って大切に保存される書物の存在、そこに書き込まれた詩の数々。


物語の後半、二十年以上のときを経て、禁書が解かれたときに交わされた言葉をひとつ。
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「今はもう本を隠す必要なんてないですよね? オレック、聴衆の前で朗読してくれませんか―そらで朗誦するのではなく。そうすれば、本は魔物ではなくて、わたしたちの歴史、わたしたちの心、わたしたちの自由が記されたものだとわかると思うんです」
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本好きのひとりとして、本が失われ、再生される物語にも静かに感動した。




そうそう。一神教と多神教についても、示唆に富んだセリフがあったなあ。
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「オレック、あなたの言うように、彼らには強みがあります」道の長は行った。
「ひとりの大王、唯一の神、ひとつの信仰をもつ彼らは、ひとつの心で行動することができます。だが、ひとつのものは割れる場合もあります。わたしたちの強みは、たくさんのものとうまくやれることです。ここはわたしたちの聖なる土地です。わたしたちはここで、地つきの神々や霊たちに混じって暮らしています。わたしたちはその方々とともに辛抱しています。わたしたちは傷つき、力をそがれ、奴隷にされました。しかし、オルド人たちがわたしたちの知恵を破壊しない限り、わたしたちは滅びないのです」
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2011年04月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

・『ゲド戦記』の似姿
 『ギフト』でもうっすらと感じたことだが、『ヴォイス』ではさらに感じた。
 『ヴォイス』に対応する物語は『壊れた腕輪』であろう。喰らわれしものアルハは設定が完璧すぎて、テナーをお姫様にしてしまった。その反動が『帰還』で爆発し、それによって一部の読者はやっつけられてしまった。
 お姫様にならないための背景を与えられたメマーは、元気いっぱいに活躍する。しかし、怒りを秘めた内向的な若者として描写されていたにしては、ややご都合的ではある。

・一人称視点
 説明調である。朗読向けなのか。そんな印象を『ギフト』にもった。狙いはどうあれ、一人称視点による事物紹介は説明調になりやすいようである。
 事物紹介を一通り終えたあと、メマーが伸びゆくくだりにおいては非常に力強く働くが、メマーが不在である場面の語りや、先に述べた焦点がぼやける印象の場面では一転して弱い。

・すわりの悪さ
 注目を集めるキャラクターが多すぎるせいで焦点がぼやける印象があり、いちどきに順に焦点が移っていく場合には嫌気を覚えることがある。演劇のスポットライト的な演出のように見えるというか。この物語にもその気がある。

・総括
 物語よりも、設定に重きが置かれてしまった観がある。
 「ありきたりな悪役」を避けようと工夫した気配というか、曰く言い難い物語のよじれのようなものを感じる。小物すぎる人物がその座を占めることになり、カタルシスが弱い。
 日々は続いていく系のエンディングだが、物語に没頭できなかったためか、染みる感じはない。

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2022年09月27日

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