あらすじ
テレビや雑誌などでレシピを紹介し、家庭の食卓をリードしてきた料理研究家たち。彼女・彼らの歴史は、そのまま日本人の暮らしの現代史である。その革命的時短料理で「働く女性の味方」となった小林カツ代、多彩なレシピで「主婦のカリスマ」となった栗原はるみ、さらに土井勝、辰巳芳子、高山なおみ……。百花繚乱の料理研究家を分析すれば、家庭料理や女性の生き方の変遷が見えてくる。本邦初の料理研究家論。
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Posted by ブクログ
この本は小林カツ代と栗原はるみにとどまらず、戦前からつい最近にいたるまでの料理研究家を論じながら、日本の既婚女性に求められてきたもの、そしてこれからの男性女性が直面する食を通した生活誌である。
まず、主婦が毎日の食事に頭を悩ませる姿というのは、割と最近できたものであるという事実にを指摘する。
冷凍・冷蔵の技術が庶民とは縁がなかった江戸以前、そして明治の頃。
多くの庶民は、旬の野菜と旬の魚を煮たり焼いたりして食べるしかなかった。
メニューに頭を悩ませるどころか、毎日同じものをほぼ食べていたのである。
数少ない大店の女性、または金回りのいい武家の女性は、自分で食事に頭を悩ませることもなく、使用人の作るご馳走を食べていた。
明治になり洋食が広まったころ、家庭で作る洋食のレシピの需要が高まった。
洋食屋に行かなくても食べられるハンバーグ、スパゲッティ、ライスカレーなど。
そしてほぼ日本オリジナルと言っていいコロッケやとんかつ。
その後中華のラーメン、餃子、焼売、酢豚などが家庭でできるメニューとなり、エスニックのフォーやトムヤムクンも、家庭で作れるようになってきている。
つまり、外食をいかに家庭料理にするかが、当初料理研究家がなしたことだった。
外食の料理が家庭料理になると今度は、いかに時間を短縮するかがキーになる。
どれだけ段取りをよくするか。
セオリーにとらわれずに手際よく。
これが小林カツ代の売りだった。
食がバラエティを競っている現在、和食洋食中華にとらわれないハイブリッドな料理を考案したのが栗原はるみ。
その後の世代ももちろん社会風潮を反映した調理法、メニューを次々発表する。
料理研究家を論ずるということは、日本の食文化を論ずることなのだ。
力強く同意したり、目からうろこが落ちたりしている間に、日本の食文化が実感できる。
これは稀有な本なのである。
特別料理好きではない私だけど、これを読んだらちょっとは料理を作りたくなった。
そうね。
里芋とエビとシメジの煮物にあんをかけたやつ。
食べたいものが作りたいもの。
Posted by ブクログ
まず難点を書いておく。この本は「小林かつよ」と「栗原はるみ」の2名について「だけ」書かれたものではない。時期ごとに活躍した「料理評論家」を通じて、戦後すぐから現代に至るまでの日本の家庭における食生活を評論分析したものである。古くは江上トミ・城戸崎愛らから、コウケンテツ・高山なおみに至るまで様々な料理研究家がこの本には登場する。
タイトルがミスリードを誘っている。この2名の料理研究家を対比し、さらには各々の息子と「男子ご飯」という番組の結びつきを盛り込んでいけば、それだけで十分読み応えのあるテーマとなりうる(実際この本でもそのあたりに触れている部分非常に面白い)だけに、このミスリードはとっても残念である。絶賛したい割に満点でないのはそこを指す。そこを差し引けば、非常に面白い切り口の評論だと思うのだけども。
日本経済はもはや、かつてのように男のみが働くことでは成り立たない。女性の社会進出が必要だなどという言葉すら旧時代的であると思う。性差だけでなく若者がバイトに行くことも、定年延長も含めて、働けるものは皆、経済をまわすために社会に貢献することがもはや大前提となっている。雇用形態・賃金格差の問題はここでは置くし、良し悪しを論ずるものでもないが。
当然、家事だけをするために労働力を家に囲っておくなどという贅沢は、よほど裕福でないとできないわけである。「専業主婦」という存在がレアになるのは当然である。
では家事は誰がするのか?「妻がいないと飯も食えない」という男贅沢な時代は終わっている。得意苦手は言ってられない。男であれ、息子娘であれ、炊事洗濯掃除等、最低限の家事は自分でできるのが大前提となった時代がやってきているのである。家事メンやイクメンなどもすぐ死語になるだろう。
仕事に関わる専門知識技術や、学生であれば学力なんかは無論のこと、プレゼンや人脈やゴルフや接待や、そんなものだけでなく、国民全員が家事・育児・介護などの「生活力」というスキルをあげていかないと生き残れない時代なのだと思う。
この本に直接的にそんな内容が書かれているわけではないが、読んでいて切実にそう思った。その当たり前だけど結構厳しい現実に気付かせてくれるだけでも、この本は名著だと思う。
Posted by ブクログ
料理が好きで、栗原はるみが好きで、料理教室が好きな私なので、新聞広告で見かけたときは興奮しました。。
本書は戦後から始まる料理研究家の活躍の歴史をたどりながら、昭和・平成の日本の食文化や女性を取り巻く社会情勢の移り変わりを分析した本です。
面白かった!
その時代に活躍した料理研究家を知ることで当時のくらしや価値観が見えてくるってさすが生活史研究家!着眼点がとてもいいです。
日本は戦前までかまどで煮炊きしたご飯が食卓にあがり、そこにメニューの工夫はなく、手に入る食材で毎日ほぼ同じものを食べていた。
それが高度成長期にはいり、専業主婦という地位が確立し、囲炉裏ではなくキッチンが設けられ、はじめて主婦が、同じ料理を出すわけにはいかないとレパートリーに悩み始める。
その後、働く女性が増え、時短料理が求められていく。と同時に、自己実現の欲求から、料理だけでなく生活スタイルまでを提案してくれる人も求められていく。
そして現在は、料理は女性が作るものという固定概念がうすれていきました。。
とまあざっくりこんな流れ。
こうした社会に対して、料理研究家が時代の求めに応じて生まれ、女性をリードしていくのです。
江上トミからコウケンテツまで、みんなかっこいい☆