あらすじ
それは、英仏間の戦争でも、百年の戦争でもなかった。イングランド王、フランス王と、頭に載せる王冠の色や形は違えども、戦う二大勢力ともに「フランス人」だった。また、この時期の戦争は、むしろそれ以前の抗争の延長線上に位置づけられる。それがなぜ、後世「英仏百年戦争と命名され、黒太子エドワードやジャンヌ・ダルクといった国民的英雄が創出されるにいたったのか。直木賞作家にして西洋歴史小説の第一人者の筆は、1337年から1453年にかけての錯綜する出来事をやさしく解きほぐし、より深いヨーロッパ理解へと読者をいざなってくれる。【目次】序、シェークスピア症候群/前史 一、それはノルマン朝の成立か/二、それはプランタジネット朝の成立か/三、第一次百年戦争/本史 一、エドワード三世/二、プランタジネットの逆襲/三、王家存亡の危機/四、シャルル五世/五、幕間の悲喜劇/六、英仏二重王国の夢/七、救世主/八、最終決戦/後史 一、フランス王の天下統一/二、薔薇戦争/結、かくて英仏百年戦争になる
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Posted by ブクログ
何度も何度も挑戦しては挫折するのが、西洋史。
百年戦争も薔薇戦争も、何冊も本を読んでいても全く頭に入ってこない。
だって、イギリス人はヘンリーとエドワードとジョンばっかりだし、フランス人はルイとシャルルとフィリップばっかりなんだもの。
誰が誰やら、ちんぷんかんぷん。
それはこの本を読んでももちろん変わらず、ヘンリーとかアンリとかがたくさん出てきますが、でも、この本は一味違う。
まず最初に書いているのが、イギリス人のシェイクスピア症候群。
西洋史にあまり詳しくない日本人でも、劣勢だったフランスがジャンヌ・ダルクの登場で戦況を覆し勝利した、ことぐらいは知っていると思うけど、イギリス人にとっての百年戦争はイギリスの勝利が常識になっているのだそうだ。
それは、イギリスの司馬遼太郎とも目される(?)シェイクスピアが、数々の戯曲でそのように書いているから。
司馬史観ならぬ、シェイクスピア史観。
“ちょこざいなシャルルが歴史にフランス王として罷り通るのは、イギリス自身の不幸な内乱(薔薇戦争)のせい”だとシェイクスピアはほのめかしている。らしい。
でもって、シェイクスピアもびっくりなのが(しなかったかもしれないけど)、イングランド王って、イングランドの貴族たちって、みんなフランス人だったってこと。
フランスの、フランスによる、フランス人のための戦争が、英仏百年戦争だった。
そもそもフランスの王家と大貴族には、明確な格差がなかった。
侵略や結婚などで領地が増えたり減ったりしているなかで、王家より力の強い貴族が現れることもあり、そうなると反逆だ内乱だということになってしまうのは、当たり前の流れ。
その一つとして、フランスの貴族と、母方の遺産としてイングランドを領地として持つ貴族の娘が結婚したことにより、莫大な領土を治めるフランスの大貴族が出来上がる。
彼らとフランス王家とのいざこざが、そもそものはじまりなのだ。
つまりフランス貴族とフランス王家との争い。
このころのフランスって、鎌倉幕府のような感じ。
一応王様がいるけれど、分家や婚姻で関係が入り乱れて、一枚岩になれない。
つねに謀反や裏切りの危険にさらされている。
鎌倉幕府も、将軍や天皇はさておき、北条家がまさにそんな感じでずっとごたごたしていた。
オルレアンの少女、ジャンヌ・ダルクは、ナポレオンが見出すまでは決してメジャーな存在ではなかった。
これもまた、司馬遼太郎に見いだされるまで無名の若者だった坂本龍馬を思い出させる。
歴史って、事実の上に主観の上塗りをされるから、洋の東西を問わず似たようなストーリーが出来上がってくるのかもしれない。
シェイクスピアが書くヘンリー五世
“父親との不仲ゆえに非行に走り、身分卑しき悪漢どもと徒党を組んで、不良少年の一頃をすごしながら、父親の死で王位につくや、とたん君主の鑑に生まれ変わると、シェークスピアは日本史における織田信長ばりの神話を紡いでいる。あるいは一連の描写に、王子を気さくな庶民派たらしめる作為を読み取るなら、むしろ「暴れん坊将軍」のようだというべきか。”
史実なのか、物語なのか。
それの見極めは、かなり難しい。
それが常識とされてしまうと、もはや疑ってかかることすら至難の業だ。
ところで。
英語の単語の中には、フランス語由来のものが結構あるのだそうです。
大陸の、文化の中心である大国のフランスの言葉は、田舎の島国であるイングランドの言葉よりも論理的だったり、抽象概念を表す言葉が豊富だったから。
日常的な、単純な事柄は英語で表現できても、複雑な思考や公的な事柄を表すにはフランス語の力を借りなければならなかった。
この辺は、中国語と日本語の関係を見るようでもあります。
そして人名。
英語名のヘンリーがフランス語名になるとアンリであるとか、英語名のジョンがフランス語名のジャンだとかは知っていたけど、フランス語名のギョームが、英語名だとウィリアムになるってのはどうよ!?
ムしか合ってないじゃないの。
しばらくしてまた西洋の本を読んだら、一から勉強しなくちゃならないくらいに忘れているんだろうなあ。
でも、英仏百年戦争が、フランス人同士の戦争であったことは、もう忘れないと思う。
Posted by ブクログ
石川雅之『純潔のマリア』から「英仏百年戦争」へ。
イングランドを治めていたのは、フランス人。と言うことは、英仏と言いながら、実はフランス人とフランス人の戦いであった訳だ。まだまだ知らないことは、多い。
また、「〇〇史」(←〇〇には国名が入る)とカテゴライズしてしまっているが故に見えなくなってしまっているものがあるという指摘も納得。文学も又然りである。
このまま「百年戦争」に関する小説を読んでみたいと思う。