あらすじ
構想35年。ヒマラヤ登山の経験を持つ作家・谷甲州が、史実を基に伝説の登山家・加藤文太郎を描ききった長編山岳小説の下巻。
雪山登山がまだ一般的でなかった昭和初期の時代に、案内人も雇わず、ただ独り雪の北アルプスを駆け抜けて風雪の北鎌尾根に消えてしまった加藤文太郎の生涯がリアルに浮かび上がる。
加藤の遺稿集『単独行』を徹底的に分析し、独自の解釈によって生み出された文太郎像は、新田次郎の『孤高の人』とはちがったキャラクター設定となっていて興味深い。
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Posted by ブクログ
新田次郎の「孤高の人」に出てくる加藤文太郎よりかなり駄目人間として描かれる加藤文太郎が良い。
勿論登山家としてのスキル実績はすごいのだけど(岩場が苦手とかあるけど)、人付き合いは徹底的に苦手で相手に誤解ばかり与えている、その上でカッコつけでメンツを気にするタイプ、親が危篤でも山優先、有給は使い切って会社の上司に睨まれる…
読んでいてなんだか滑稽だし、自分に似ているなぁと思うところもあったりして(孤高の人でに描かれる文太郎は超人的すぎて似ているとか思うとこなかったな)、シンパシー感じながらグイグイ読まされた。
厳冬期のアルプスなんて俺には一生縁がないだろう山なんだけど、加藤文太郎の足元の蟻的なへっぽこ中年登山家見習いであっても、単独行を選ぶ気持ち、なのに人恋しさにジリジリする気持ち、なんとなく分かるのである。
山でなくても、例えば酒を呑む事でもそう。一人酒だとそう悪酔いすることなくスッキリ楽しく酒に向き合える、だからこれからは一人酒だけを楽しんで行こうと思った瞬間、大勢で賑やかに呑む宴会にどうしようもなく惹かれたりする。そしてそういう場に呑みに行って場を乱して居づらい思いをしたりする。
…俺は酒場の加藤文太郎か!
文庫本下巻のあとがきにかかれた「孤高の人」のオマージュとしてしかけられたラストシーン…なんとなくあそこかなぁ。でももう一度「孤高の人」ざっと読み返して確認してみようかなぁ。
ムッサ山に行きたくなってきた。とりあえず高取山(笑