あらすじ
世界の16の国と地域で翻訳刊行されるなど、いまや古典となった『荒木飛呂彦の漫画術』(集英社新書)から10年。だが、ある時、『漫画術』を読んで漫画家になった人もいるとしたら、「もうちょっと深い話も伝えておかなければならないのではないか」と、荒木は考えた。『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズをはじめとした荒木作品に登場する名悪役たちの魅力とリアリティはどのように生まれるのか? 漫画の王道を歩み続けるために必要なことは? いまだ語られなかった、漫画家・荒木飛呂彦の「企業秘密」を掘り下げた、新・漫画術。
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著者の情熱が伝わる
「ここまで語って良いのですか」と思う程詳細な内容です。そして何より著者の漫画への情熱、好奇心が伝わります。
悪役は物語をより豊かに魅了してくれる存在。読者に共感や嫌悪感・何らかの感情を抱かせる悪役の作り込み方に圧倒されました。
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先生が考えていることを知れるなんて贅沢な時間だった!こういう考え方、いいなあって思うところがあって、仕事や趣味の創作に活かしていきたいと思った!
Posted by ブクログ
荒木先生の漫画、そして自分の作品のキャラクターを愛する気持ちが伝わってきて、世界的なド天才に向かって何を…という感じだが、何だか可愛らしくも思えてくる一冊。
長く一線を走り続ける本当の天才ってこういう気持ちにさせてくるものなのかもしれない。
ジョジョ、最近のシリーズは追えてないから読みたいなあ。
いろいろコツや、基本のポイントはあるけれども、1番大事なのは「何を描きたいか」ということなのかな、と思った。
実際のコマや、ジョジョの登場人物を使って、丁寧に説明してくれている本書だが、いやだからと言ってジョジョほど個性的な作品になるかね!?とも思い、荒木先生のすごさを改めて感じる。
そんな先生も新人時代は編集にボロクソ言われたこともあるようで(1時間くらい怒られて、途中で寝たこともあるらしい笑)、みんな地道に自分を信じて頑張れば道も開けるかもね、というメッセージも感じた。
あと実際に漫画家になった人向けに書いているということで「税金はきちんと払う」という章があったのは笑った。親切すぎるよ!
Posted by ブクログ
いやぁ〜〜〜ジョジョ読みたくなる!!!
ジョジョの作品は悪役が魅力的なことが多いので、
気になって読んでみると舞台裏に連れて行ってくれたようでとてもワクワクとした…!!
こうやって彼等の行く路がが紡がれているのだと思うと、より深く熱く彼等の鼓動を感じられたッッ
作品が魅力的なのは荒木先生だからだ!!!
と改めて強く感じられる作品だった。
この後、9部1巻マンガを読んでみたのだけれど、
痺れるゥ〜〜〜ッッ面白すぎるッッッッ
続きを読んできまーーーーすっ!
Posted by ブクログ
荒木さんが語る漫画家としての志が、さまざまな表現を使って豊かに描かれていた。さらに、魅力的なキャラクターやストーリーをゼロから考え、形にしていく手順についても、具体的かつ詳細に説明されていた。
自分は漫画家志望ではないが、読んでいるうちに漫画を創り上げる過程を疑似体験できたほどだった。
Posted by ブクログ
大好きなジョジョを描く荒木先生の漫画術。
漫画家志望ではないけど、漫画や映画、小説に対する見え方が広がり、勉強になった!
今作は第二弾とのことで、「悪役」がテーマ。悪役が主役や作品をさらに引き立てること。そして、圧倒的強さ、無理でしょと思わせるほど魅力的な作品になると感じた。DIOとか吉良とかの絶望感ほんと良かったもんなあ。
荒木先生の提唱する漫画の基本四大構造(テーマ、ストーリー、世界観、キャラクター)については、映画、小説を振り返るときにも使えそう。物足りないときに、何が不足していたのかの物差しにも使えそう
第一弾『荒木飛呂彦の漫画術』も読まないと
あと、『荒木飛呂彦の超偏愛!映画の掟』も面白そうなんだよな、、
Posted by ブクログ
「はじめに」に書かれているように、荒木先生が意識されていることを惜しげもなく披露してくれていることに感謝(って漫画家志望ではないけれど)。第二章の「悪役の作り方の基本」がとても面白い。コラム『ジョジョ』歴代敵キャラについてはファン必見。第二部で敵が3人だった理由とか。そして、泉京香が適役(もしかして最強?)っていうのもすごくうなづける。悪意のない敵キャラで透明な赤ちゃんが挙がっていたけれど、漫画版で、どう対処したものやら困ったなあと思いながら読んでいたキャラは、山岸由花子だ。可愛さ余って憎さ百倍、みたいな。でも基本は好意が行動の源泉なので、厄介だなって思ってました。
Posted by ブクログ
ジョジョのテーマが公開されていており、作品を読み直したいと思う。ブレずに自分を表現すること。表現するためのキャラクター、ストーリー、世界観はテーマから逸れてしまうとメッセージ性が弱まってしまうとわかる。いろんな作品に触れてオリジナルの作品を作る。写真も同じなんだろうな。「アイディアというものは作家個人の能力・発想なのですから、好奇心や興味を持ち続ける限り、宇宙のように無限に広がっているものだ。」いい言葉だなあ。
Posted by ブクログ
春樹先生ほどのすごい漫画家でも他の漫画をたくさん読んで研究していることがわかり驚きました。また、キャラクターを設定するときは、その人の履歴書を詳細に書くこと、また様々なキャラクターの履歴書をキャラが被らないように一度に作成することなど、先生の手の打ちを惜しげもなく紹介していてとても面白かったです。
Posted by ブクログ
還暦を過ぎてもまだ若々しさを保ったままずっとジョジョシリーズを書き続けている荒木飛呂彦の、執筆の方法論をまとめた一冊が本作になる。もともとはタイトルにある通り「漫画術」という作品があり本作はその続編という位置付けになるようだ。前作は読んだことがなかったのだがこの1冊は SNS でかなり褒められていたために 手に取ってみた。
きひろひこと言うとデビュー当時はいくつかの作品を書いていたもののほぼ彼の漫画人生は全てジョジョシリーズにより構成されてると言っていいだろう。自分が漫画を読み始めた頃にはまだ第2部のジョセフジョースター編をやっていたのだがまさか40代を過ぎて第9部を読むことになるとは思ってもいなかった。今や実はスタンドは幽波紋と書かれていた時代があってその前段階として波紋が使えたということを知らない世代も多いのではないだろうか。
またジョジョシリーズ今のようにメインストリームになったのはおそらく第5部あたりからだったのではないかと思う。第3部でスタンドという存在が出て王道の少年漫画のようになったがそれでもまだやや子供には小難しいストーリーだったこともあります大きくなって人気が爆発したと言ってもいいかもしれない。
本作はシリーズの悪役の構成に特にフォーカスを当てているところが一番の特徴だろう。ジョジョシリーズといえば強烈な悪役が印象的なシリーズだが、この1冊を読むとかなり作者が戦略的に悪役を生み出していることがわかる。また時代の雰囲気に合わせて悪役のキャラクターを設定しているというところがあるらしく、だとすると今の時代にジョジョが連載されていたとしても吉良吉影のような人間は生まれなかったのかもしれない。
技術論的なことに興味がある人間は本作では物足りないかもしれないが自分のように漫画を書くわけではなく、愛する漫画の作者がどんなことを考えているのかを知りたいと思うような人間にとってはたまらない一冊だった。少し間を開けて最初の方の漫画術も読んでみようかと思っている。
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58冊目『荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方』(荒木飛呂彦 著、2024年11月、集英社)
大人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の著者が自身の創作術の秘密を語るハウツー本。『荒木飛呂彦の漫画術』(2015)の続編であり、本書では「悪役」の作り方を軸に、漫画の「基本四大構造」、そして長く漫画家を続けるための心構えを説く。
この本には漫画を追求し続けた人間の『スゴ味』があるッ!
〈悪役を作るということは、作者の「悪とは何か」という一種の「哲学」が反映される、けっこう深い作業なのです〉
Posted by ブクログ
◯創作において、作品全体のテーマを決めることが大切。自分はこれを書いてみたい、といったイメージで決めてもよい。
◯主人公と悪役はセットで考える。かっこいい悪役を描くなら、悪役は自分の悪を肯定する。同情を誘うような過去や迷いはかっこよさを低下させる。
◯理に適っていない行動はとらせない。キャラがかっこよくなくなる。
◯社会のルールや常識を身につけるのは創作をするうえで大切。その常識から外れたキャラこそ魅力的になりやすいので、基本としてしっかり理解しておく。
Posted by ブクログ
前著『荒木飛呂彦の漫画術』に続く第二弾。
本書を執筆した理由を荒木先生はこう述べている。前作を読んだ人が漫画家になったとして、それでも道に迷ってしまうことがある。そのときのために前作よりももっと深く書くべきではないか。
漫画には「こう書かなければならない」というルールはない。ただセオリーはある。もちろん自由に漫画を描く権利はあるのだから、あえて王道から逸れ我が漫画道を行くのも良し。しかし進むべき道を忘れ王道への戻り方もわからなくなったとき、備えとしての地図があったほうがいい。それが前作であり今作である。
『荒木飛呂彦の漫画術』や『荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方』は、荒木先生が漫画家生活を通じて蓄積し裏付けされた経験知と知識を、自身の作品を通じて伝授するためのものだ。そして今作は前作を補完するものと言っていいだろう。
前作では良い漫画を描くための土台が紹介されている。今回はそれの発展形で、良い漫画を描くためには「悪役」と「融合」が重要なファクターとなる。
悪役というのは言わば主人公の行手を阻む困難であり乗り換える壁である。現実世界においても、大なり小なり、トラブルはつきものだ。だからこそ悪役をいかに作り込み登場させるのかによって作品をよりいっそう深いものにできるのかが決まる。
融合はすなわち一つの世界だ。漫画を描くにあたっては、「キャラクター」「世界観」「テーマ」ストーリー」の4つが重要になるが、それぞれが独立していては読者の目を引く作品にはならない。この世界の全てはあまねく調和が取れている。漫画に対しても同様の原則を当てはめるべきで、たとえば『ドラえもん』のような世界に『ONE PIECE』のキャラを登場させるべきではない。それはフレンチに茶碗いっぱいの白米を出すようなものであり、「混ぜるなキケン!」と書かれた洗剤をあえて混ぜるようなものだ。
どんな作品であってもそこに登場するものは全て同じ性質を有している必要がある。「融合」と言うべきか「統一」と言うべきか、釣り合いの取れた舞台を用意することが漫画には欠かせない。
本書は悪役すなわち敵がテーマであるが、漫画家における「敵」とは何なのか。それは「自分の軸を捨ててしまうこと」だ。
漫画家になれば思ったように自作が売れない時期もあるだろう。そのとき「世間ではこういうのが流行ってるから」「担当編集者がこうアドバイスくれるから」と、ウケを狙いたくなる。しかしこれでは調和の取れた「世界観」を描けなくなる。つまり、世間の流行を取り入れて漫画を書けば、当初に設定した「世界観」から逸脱し「なんだかよくわからない漫画」になってしまうのだ。
誘惑に負けることなく自分の軸をしっかりと持つことが大切だ。
さて、本書は悪役の作り方がメインテーマだ。しかし別の読み方もできる。それは「漫画の構造」だ。
本書を読めば漫画という媒体がどのように設計されているのかが大方把握できる。むろん漫画すべてに共通するわけではないが、少なくとも荒木先生の作品は本書に従って読むことができるだろう。そしてこの場合、読者は作品を一段と深く味わうことができる。
たとえば、荒木先生の人気作のひとつ『岸辺露伴は動かない』だ。
主人公・露伴は、売れっ子漫画家であり、旺盛な好奇心を持っている。「ヘブンズドア」という特殊な能力を持っていて、人を「読む」ことができる。露伴はその好奇心で色々な事件と出会い、時には「ヘブンズドア」で解決し、それを漫画を描くための材料へ昇華していく。
そんな岸辺露伴の敵は一体なにか。
それは、担当編集者の泉鏡香だ。
漫画家目線であればたしかに泉鏡香が「敵」であることに納得できる。たとえば彼女は露伴の原稿にうっかりコーヒーをこぼしそうになる。膨大な労力を割いて書き上げた原稿にコーヒーをこぼすような編集者は、なるほど確かに「敵」でしかない。このシーンはさらりと描かれており、よくよく注意して読まなければ岸辺露伴vs泉鏡香の構図を見落としてしまいかねない。
また、彼女はトラブルメーカーとしての役割も果たす。
作品を読めばわかるが、岸辺露伴は好奇心旺盛だからといって何でもかんでもやるわけではない。たしかに過剰な好奇心が見て取れるシーンもある(懺悔室にて、撮影禁止なのに人の目を盗んで撮影してしまうところ)が、一定の節度は守って行動している。
しかしこれでは「ストーリー」が生まれない。かといって露伴が無茶苦茶な行為をすれば、露伴のキャラにブレが生じ、読み手は「露伴がそんなことするかな」と世界に入り込めなくなる。ようは露伴が浮いてしまうのだ。
そこで泉鏡香だ。たとえば「富豪村」のエピソードでは、彼女が持ちかけた提案で露伴は禁足地とされる富豪村へ行くことになる。そこではマナーが過度に重んじられ、一つのマナー違反につき一つの代償を払う。こうして露伴はトラブルに巻き込まれるのだが、この一件はそもそも泉鏡香が元凶である。
このように漫画は登場人物との関わりによってストーリーが「自然」と生まれていくのだ。そして本書を読めばこうしたストーリーを構造的に読み解くことができる。作者の視点に立って読むことができるのだ。
つまり、『荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方』は描き手に対してはもちろん、読み手に対しても、漫画を読む上でとても重要な手がかりを授けてくれるだろう。
本作は、荒木飛呂彦先生はじめ、多くの漫画家の心を「読む」ことができる「ヘブンズドア」である。
Posted by ブクログ
キャラクター、ストーリー、世界観、テーマの4大要素のうち、少年漫画に大事なのはキャラクターで動かす動機が大事。
主人公を際立たせるうえでも、悪役は非常に大事。悪とは何かを突き詰める。
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「好きなことをやろう、ただし独りよがりになってはいけない」という言葉は、覚えておこうと思った。ぶれずに自分で決めたことをやり抜くことは難しいのに、その上1人の世界に入りすぎてはいけない。
私は人の意見にすぐ左右される上に、こうでなくては!と思い込んでしまうので、治すには頑張らないといけない。
「ちやほやしてくる人は敵」という言葉も印象に残った。努力し続けようと思った。
Posted by ブクログ
とりわけ本書の重要な章は第三章「漫画の王道を歩み続けるために」であると感じる。荒木飛呂彦は漫画の面白さを維持しながら「芸術性」も兼ね備えている。ルーブル美術館で展示された実績、その独特なファッションと色使い、ポージングも、類の無い存在である。その作者がどのように「芸術か商業か」のバランスを保ってきたかが、文面で滲み出ているのだ。このバランス感覚はビジネス的感覚であり、漫画家として食っていくための、重要なベースとなる。前著と併せて読みたい一冊だ。
Posted by ブクログ
荒木先生はこんなことを考えながら漫画を書いているんだな、ということを知ることができました。
自分の知らない世界を覗いている感覚があって、楽しかったです。
Posted by ブクログ
デビュー当時の僕は、自分が好きなサスペンス調の話を漫画で描いては、「これでは連載できない」と編集者からダメ出しをくらっていました。そうした経験を重ねて悟ったのは、サスペンスはストーリーに重点を置くので、キャラクターが弱くなりがちだということです。【キャラクター】のところで述べたように、漫画の最重要事項であるキャラクターがしっかり描けていなければ、大勢の読者の支持は得られません。ですから、そのキャラクターたちのためにストーリーを作っていくのが鉄則です。『漫画術』では、そこに僕が気づくまでの経緯を詳しく説明しています。
漫画の必殺技とも呼べるキャラクターは、それひとつで漫画が成り立つほどの強力な要素ですが、どんなに魅力的なキャラクターも、ファッションやセリフの言葉遣い、価値観などが時代と共に古くなっていく宿命を負っています。その弱点を補うのがストーリーで、時代を超えた名作漫画は、多少、キャラクターに古臭さを感じさせても、その力強いストーリーで読者を魅了し続けるのです。
では、どうすればそんなストーリーを考えることができるでしょうか。
忘れていけないのは、ストーリーはいつもプラスで、右肩上がりに主人公が上がっていくように構成するということです。少年漫画のヒットの理想形は、主人公が「勝てそうにないんじゃないか」という困難に見舞われ、そのレベルもどんどんパワーアップしていくけれども、主人公も成長していって最終的には勝利を収める、というストーリー展開です。僕は「プラスとマイナスの法則」と呼んでいるのですが、漫画のスタート時の主人公の気持ちや置かれた状況をゼロ地点として、そこからずっと上がっていくのが、漫画をヒットさせる「プラスプラス」のストーリーです。ゼロよりさらにマイナスからのスタートも、主人公は常にプラスというのは同様で、さらにより劇的な展開になる効果があります。そのプラスの積み重ねを毎回どうしていくかが、漫画家のアイディアが問われる部分と言えるでしょう。
一方、「プラスで行っていたのに途中でマイナスにしてしまう」のはルール違反です。「プラス→マイナス→プラス」では結局また元のゼロの地点に戻っているだけですし、プラスとマイナスが繰り返されると、「こいつ、また悩んでるよ」と読者をうんざりさせてしまいます。現実の人生はプラスで上がることもあればマイナスで下がることもありますから、「ここで主人公が壁にぶつかる展開にしようかな」という誘惑に駆られたりするかもしれませんが、漫画のストーリーで現実を再現してはいけません。たとえ主人公が何かに迷うことがあったとしても、常に前に向かって進んでいくなど、とにかくプラスを続けていくというのが鉄則です。
一方、あえて人間の暗黒部分を追求し、主人公がひたすらマイナスに向かっていくストーリーはあり得ると思います、『闇金ウシジマくん』や『ウォーキング・デッド』は、そうした右肩下がりにマイナスになる作品の典型でしょう。大事なのは、プラスにしろマイナスにしろ、矢印が常に同じ方向を指しているということです。プラスプラスで上がっていくストリーで途中でマイナスにしてはいけないのと同じで、マイナスに下っていっているのに、ちょっといい話を入れてほっこりさせると、そこだけが浮いて他と融合しない、何か違和感のある作品になってしまいます。
『ジョジョ』は、そんな風に戦いのことばかり考えている中で、「戦うときに何が一番怖いだろうか。時間を止められたりするのも怖いけど、やっぱり先祖のわけわからない因縁が世代を超えて自分に降りかかってくるのが一番の恐怖なんじゃないか」というところから生まれた漫画です。『ジョジョ』が大好きで、『ジョジョ』みたいな漫画を描きたいと思っている人は、絵やセリフを真似るのではなく、「自分の一番怖いものは何だろう?」と考えてみれば、「『ジョジョ』みたいな漫画」がきっと描けると思います。なぜなら、それが『ジョジョ』の本質だからです。
相手が強ければ強いほど、主人公vs.悪役の戦いがおもしろくなりますし、主人公はその困難な戦いを通して大きく成長できます。貴族の息子として幸せに暮らしていたジョナサンに対し、強烈な悪の魅力を放つディオは常に先を行っているので、その分、ジョナサンはどうしても平均的な人物にならざるを得ません。そんな平凡な若者だったジョナサンも、強大な敵であるディオと戦うことで、大切なものを守り抜くヒーローになっていきます。ディオという素晴らしい悪役の存在が、ジョナサンをそこまで引き上げていったのです。
一方、悪役というものは主人公がいてこそ成り立つのですから、悪を魅力的に描くためには、主人公をどういうキャラクターにするかということが軸になります。ジョナサンをディオと同じくらい強烈なキャラクターにするということもできなくはないですが、必ずしも「善」と「悪」を拮抗させる必要はありません。平凡なジョナサンは、いわば『シャーロック・ホームズ』シリーズにおけるワトスンの役回りで、ファンタジー漫画の中の「基準点」という立ち位置です。『魔少年ビーティ―』の公一くん、あるいは『ジョジョ』第四部の康一くんのような、読者と同じ常識を持っているキャラクターという「ゼロ地点」があるからこそ、そこと悪との間にあるギャップの激しさが浮き彫りになっていきます。漫画には、こういう平凡な人物が少なくともひとりはいないと、何が基準か分からなくなってしまう恐れがあり、もし出てくるキャラクターが皆、ディオのようなタイプだったら、ああいう邪悪さが「普通」になってしまうでしょう。
僕がキャラクターを動かしていくときに特に気をつけているのは、理に適っていない間抜けな行動をとらせない、ということです。「間抜けな行動」は『漫画術』で「ストーリー上やってはいけないタブー」として挙げているくらいのダメパターンで、いくらアイディアが出なくても、敵が間抜けな行動をとってくれたおかげで勝てた、という展開にしてはいけません。特に、ディオは常にジョナサンを上回っている存在ですから、たとえジョナサンが負けそうになっても、ディオが間抜けな行動をとってくれたおかげでジョナサンが勝てた、という展開にはしたくありませんでした。
僕はホラー映画が大好きでよく観るのですが、「外に逃げればいいのに、なんでわざわざ追い詰められに二階に行くんだよ」とか、「夜、街灯もないような場所に出かけるのに懐中電灯も持たないのか」とか「タクシーが走っているのに、なんでタクシーを捕まえないんだろう」とか、現実にはあり得ない、間抜けな展開がしょっちゅう出てくることには、本当にイライラします。早く振り返ればいいのに固まって動かない、間抜けな警察の性で犯人が捕まらない、というのもよくあるパターンです。そういう間抜けなキャラは作品を弱くしますし、作り手の都合でキャラクターを動かしているということがバレバレで、一気に観客はシラけてしまいます。
また、「そうか、わかったぞ!」みたいな、現実でそんなことを言う人がいると思えないセリフも嫌だな、と思います。階段から落ちているのに「しっかりしろー」と揺さぶる人、屋上で彼氏と一緒にいるとき、「はー気持ちいい」と深呼吸する女の子など、とにかくわかりやすくしたいという演出なのか、日本の映画やドラマにはこういうわざとらしいシーンが多い気がします。
もちろん、漫画にはわかりやすさやお決まりのキャラクターも必要ですが、やりすぎると一気に嘘くさくなってしまいます。【世界観】のところで述べたように、漫画はファンタジー、嘘の世界とはいえ、だからこそ「こんなのあり得ない」と読者に思わせるようではいけません。階段から落ちて頭を打っている人を揺すったら命に関わるし、怪しい気配を感じているなら、「なんだろう?」とすぐに振り返るものです。センスと言ってしまうと身も蓋もありませんが、要は「こいつのセリフは何か嘘っぽくないか」「こういうのは現実にはありそうにない」という判断ができるかどうか、そしてもし嘘をつくとしても上手につこう、ということですね。
露伴にとって京香は「悪役」と書きましたが、基本、編集者は「敵」ではありません。
もしかしたら、新人の漫画家の中には、「ここができてない」「これはダメだ」と編集者から厳しいことを言われて、「この人は敵だ!」となってしまう人がいるかもしれません。でも、編集者はあくまでプロとして、その原稿をよくするための指摘をしているのであって、別に漫画家本人を否定しているわけではないのです。一生懸命描いた作品を批判されればされでも傷つきますが、そこは誤解しないほうがいいと思いますし、編集者は漫画家と切磋琢磨しながら一緒に上がっていく仲間、バディだということを忘れないでほしいと思います。僕の歴代の担当編集者もよき相棒として、読者との距離感をどこかつかみきれない僕をそれとなく導いてくれています。
僕も新人時代、編集者から厳しいダメ出しを山のように受けました。『漫画術』でも、原稿を袋からちょっと出しただけで、「こんなの見たくない」「なんかもっと読みたくなるようなの描いてきてよ」と突き返す編集者のエピソードを書きましたが、当時、漫画を持ち込んでくる新人に対する気遣いなどは一切なかったですし、僕も面と向かってずいぶんキツいことを言われました。一時間くらいずっと編集者に怒られたときは、漫画を描いた後で疲れていたので、途中で寝てしまったこともあります(笑)。僕が新人のときに出会った編集者たちのキャラクターを京香に取り入れてみたら、さらにパワーアップするかもしれません。
自分のメンタルを守ることは最優先だということを前提としつつ、僕の場合はそういう厳しい編集者たちがいたからこそ、「ただ好きで漫画を描いているだけではプロにはなれないんだな」と気づくことができました。特に初代担当編集者からは「好きなことはやろう。だけど、読者が楽しめないような独りよがりのマンガはいけないよ」ということを徹底的に叩き込まれました。漫画家にとって最初の読者は編集者です。彼らが袋から原稿を出したとき、「お、これは読んでみたいぞ」と思わせるにはどうすればいいか、絵やタイトル、セリフの入れ方に至るまで考え抜いたことで、プロとしてやっていく一歩を踏み出せたのだと思います。『漫画術』には、編集者に最初の一ページをめくらせるにはどうすればいいか具体的に解説してありますので、漫画家志望者は活用してみてください。
Posted by ブクログ
漫画をエンタメと思っていたが、著者が、世情や心の機微を観察して漫画の中にリアリティも持たせていると知り、奥が深いと思った。
漫画をあまり読まないので、著者の漫画を読んだことがなく、漫画を例として解説されているところは理解が難しかったが、著者の考え方からは学ぶところが多かった。
Posted by ブクログ
2025/11/08〜2025/11/08
『荒木飛呂彦の漫画術』の続編。
漫画家や漫画家をめざす人に向けて書かれた本であることが明言されているが、荒木飛呂彦作品のファンが読んでも楽しめるようになっている。
前作でも言及されていたし、荒木飛呂彦展でも公開されていたし、インタビューなどでも折に触れて紹介されてきたのでファンにはお馴染みの身上書。
一人一人別個にに身上書を書き上げていくのではなく、複数のキャラクターを同時に作り上げていく荒木先生の手法は以前も紹介されていたが、対極となる主人公とライバルの身上書は一緒に書き上げるべきだと言うことがよく理解できた。
“石”仮面、エイジャの赤“石”、“石”の矢、“岩”人間……と、シリーズを通して石が重大な要素となっているという点は目から鱗が落ちる思いだった。
Posted by ブクログ
各部に登場する悪役の解説や、モデルとなった作品はファンにとって必読の内容であろう。
日常の人物や出来事をアイデアとして創作に取り入れたり、創作に対する「自分のためだけに漫画を描かない」「彼らの言葉(作品への賛美)を信じてはいけない」といったマインドが非常に興味深かった。
Posted by ブクログ
魔少年ビューティ。バオー来訪者。ジョジョの奇妙な冒険。岸辺露伴は動かない。多くの人は、異色の作品だと感想を抱く。しかし、荒木飛呂彦は常に「王道」を意識して執筆してきたのだ!!本書では荒木飛呂彦の漫画への情熱に加え、どのように作品に向き合ってきたが語られる。また、漫画を描かない人にも本書はおすすめだ。創作をする上で、必ずぶち当たる障害。それを乗り越えるためのハウツー本でもあるッッッ!!
Posted by ブクログ
魅力的な悪役が多数登場する、ジョジョの作者による漫画作成手法。
ディオ、吉良に比べてその他の悪役に関する記述が露骨に薄いので、この2人が例外的なホームランだったのだろう。
後半は悪役に関係しない内容で、読む価値は薄い。
Posted by ブクログ
漫画家や物語を描く人向けの内容だが、キャラクターを作る際に気をつけるポイントは良作かどうかを見極めるポイントでもあるため参考になった。駄作をみて、なぜしらける展開なのかを言語化してくれた。
Posted by ブクログ
漫画の方法論。作画のテクニックはほぼない。
キャラ立てが漫画としては一番重要。
その他。
確かに漫画の作り方としてはかなり王道だし、荒木先生が言うからこその説得と。荒木先生が言うからこそのドン引きと両方ある感じ。
生存者バイアスもなくはないだろうが、漫画描き続けようと思う子は、ちゃんと読んどいて思う。実のところそう大したことは仰ってないが、なんと言っても圧倒的な説得力よ。
そうして、これを実践するだけでは自分の足元を脅かすことはできないと言う自信でもあろう。
Posted by ブクログ
漫画家は目指してないけど、悪役が好きなので、荒木先生がどんな考え方で作っているのか知りたくて読んでみた。
キャラクター設定(身上調査書)、ストーリーや世界観、全体的なテーマなど、漫画だけじゃなく小説やドラマなど作品には関係あるなと思った。
社会のルールや常識をもとに人間観察をして、面白い人を見つけようとする。同じ事柄をみていても、感じる能力や気付⇒アイディアに繋げられるかは個人の能力次第だよな。
新書ってあまり手に取らないけど、論理的でレポートを読んでいる感覚で面白かった。
Posted by ブクログ
「悪役」を題材に、漫画の組み立て方を語る一冊。著者の描く漫画の構造と、その中での悪役という存在を解説してゆく。
本の後半では、悪役となるキャラクターを1から実際に作っていく流れが、実例と共に収められている。
ちょうど少し前に自己理解を深める本を読んだが、自己理解のために自分にとって「大事な価値観」を見つけることと、悪役らしい行動を決める上で重要となる「キャラクターの動機」を見つけることが、少し似ているように感じた。
自己理解というものは、自分の内側にひとつのキャラクターを確立する、その過程のことを表しているのかも知れない。
Posted by ブクログ
他職種の仕事の向き合い方をみてみたくて読んでみた。
商業誌として売れること、それとは別に自分の描きたいもの。
画材についてや編集者や世間との関係、お金、税金について
かっこいい大人でありたいと思った。
そんなプロ意識をもった仕事を私もしたい。
漫画家は芸術家なんだ。
サラッとしか漫画を読んでこなかったがもっと味わっていきたい。