あらすじ
“たとえ”という名の男子に恋をした女子高生・愛。彼の恋人が同級生の美雪だということを知り、次第に接近する。火のように激しい気性を持った愛は、二人の穏やかな交際がどうしても理解できず、苛立ち、ついにはなぜか美雪の唇を奪う――。身勝手にあたりをなぎ倒し、傷つけ、そして傷ついて。芥川賞受賞作『蹴りたい背中』以来、著者が久しぶりに高校生の青春と恋愛を詩的に描いた傑作小説。
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宗教的哲学的作品
この小説はティーンズの恋愛物というより、哲学的命題を含んだ福音書の一節という風に感じられた。
物語の中に聖書を出してくるのも、そういったイメージを促そうとしているように思わせられた
この小説の最重要なテーマは、いわゆる(柄谷行人氏のいう)「単独性」というやつだと思う。
自分を自分たらしめるもの、他の誰にも見出せるものではないと信じられるもの、
そしてそこから自分の生きるエネルギーが湧き出てくるよう感じられるもの
私の「単独性」のイメージはそんな感じ。
主人公の愛ちゃんは、たとえ君という、一見地味でそこまでモテるタイプに思えなかった青年に恋心を抱いたことで、
そこに自らの「単独性」を見出し、夢中になった。
しかし、たとえ君と美雪ちゃんが既に長年の恋仲だったことを知ることで、
そこで発見された「単独性」は虚偽であったことになり、自分の存在価値を疑うほどに傷ついてしまう。
その後、愛ちゃんは自傷行為のような狂人的事件を次々に起こし、超プラトニック純愛カップルである、
たとえ美雪双方を傷つけようとする。
それに対して美雪は、聖母のような徳を発揮し、狂人にまで堕ちた愛を受け入れ許そうとし、
たとえ美雪の絆は却って強まり、それを見せつけられた愛ちゃんは更に傷つく
最後のパラグラフで小説タイトルになっている「ひらいて」というのがやっと出てくる。
ここで折り鶴を「ひらいて」、解こう、解放しようとしているのは、かつてその鶴を折りながら念じていたこと、
つまり、かつての「単独性」だと思っていたものへの拘り、その「単独性」への独善的なアプローチの姿勢。
それらを全てリニューアルしたい、生まれ変わりたいという願いだったのだと思う。
しかし、「ひらいて」という言い方には、それは自分には到底成し得ないという諦観も混じっているのではないか
手元のもうまっさらには戻せない皺だらけの千代紙を、自分の姿と重ねていたのではないか
愛(主人公の名前と"LOVE"とのダブルミーニング)に「単独性」を求めることの厳しさ、難しさ。
そこへは独りよがりな欲求だけでは決して辿り着けない。他者に対する敬虔なひたむきさ、誠実さ、思いやりが求められている。
これはやはり、非常に宗教的な作品であると思います
素晴らしい小説でした
Posted by ブクログ
お気に入りの小説を読み返そう週間!(「生きてるだけで、愛。」と二作連続でヒロインが全裸になっていた)
登場人物の"たとえ"が好みすぎたっていう程度の記憶しかなかったけど、読んでるうちにみるみる思い出してきた。
ステレオタイプな陽キャJKだった愛が、属性の異なるたとえにうっかり(&どっぷり)恋をしてしまい、どんどんどんどん欲望を剥き出しにして、向こうみずの狂気で暴れていく姿を美しいと思った。
愛はたとえの彼女である美雪のことを妬んで酷いことをするのに、美雪はどこまでも優しくて素直で可愛らしい。
たとえと美雪。二人のかけがえのない関係(百パーセントの相手だな)は、愛が介入していなかったらどうなっていたか。東京に行って、結婚して、結ばれて、平和な家庭を築いて幸せに暮らした?
あまり想像できない。愛にぐちゃぐちゃに徹底的に破壊されたことが、二人にとっても実は必要なことだったんじゃないかと、どうしてかそう思いたくて仕方がない。
そもそも、前半と後半で物語の様相がちがいすぎる。読後は全力疾走したみたいに息が上がる。そこには、まるでひらかれた折り鶴のようにいくつもの折り跡が残っている。
願わくは三人の十年後の姿をどうにかして読みたい。
Posted by ブクログ
最高によかった。綿矢りさの文章を浴びたい!!!と思い立って読み始めた本だったけど、読んでいくにつれて、これこれこれ欲しかったのはこれですという感じで、言葉が、そこに詰まってる感情が体に染みわたってきて、じんわりとひたひたとよかった。読み終わったあと本を握りしめて余韻に浸っていた。たとえに対する自分勝手な愛の気持ち、美雪の完璧な美少女感、たとえの中に閉じ込められている怯えと暴力性。愛が母親に聖書の一節を声に出して読んでっていうシーン好きだな。自分もだれかのそんな存在になりたい。誰かを求めること求められること、受け入れること受け入れられること、誰かに自分のことを認めてもらうこと、その人の中に自分のためのスペースを作ってもらうこと、これってほんとうにあったかくて、糧だよね。今を生きているし、これからも生きていく。愛も美雪もたとえも、かわいい。とにかくかわいくて愛おしい。
Posted by ブクログ
主人公の人気が高く目立つ方の愛ちゃんは暗めで大人びているたとえくんに恋に落ちる。ただ、あるきっかけでたとえくんと持病持ちでクラスでも浮いている美雪が付き合っていることを知る。ちょっと非現実的な青春の話。
愛ちゃんは常に打算的で毎日鏡で笑顔の練習をしている。愛ちゃんは自分の笑顔を靴下の刺繍と表現しているように、勉強や人間関係で、世渡り上手で器用に見えながら、たとえくんを好きになって一気に脆くて不器用な面が公になっていく。
愛ちゃんの完璧で普遍的な人生の計画を、たとえくんを好きになってから崩し始める。愛ちゃんがたとえくんにした愛情表現は奇行に見えるが、愛ちゃんにとってはきっと、それが愛を示す術。愛ちゃんは男性と関係を持つこともしながら、自分の人生ごと興味が薄い。そんな彼女が初めて、人を愛して、半ば本能的に走り出す。愛ちゃんは打算的でもやけくそでもなくただ、欲望に従って、突き動かされるのが爽快。
そんな彼女に振り回されるたとえくんと美雪ちゃん。普通なら驚くところもたとえくんは慣れているかのように、動じない。美雪ちゃんはどこまでも純粋で弱いのだが、美しい。お互いの傷で繋がりあっている恋人なのに兄弟のような2人。そんな2人の間に入り込みたい。そう思うのはきっと、愛ちゃんも、持病もないし家族の大きな問題もないけど、愛ちゃんも誰にも言わないけど理由もなくただとてつもなく辛いときがあるから。「理由なんかどうでもいい。私たちはいつもときどきひどくつらい。」そんな奥底の自分も2人なら、受け入れてくれる気がしたからじゃないかな。「たとえくんに蔑まれるために生まれてきた」のは、いつも周りは表面をみて褒めるだけに対して、たとえくんと美雪は本質を見ようとしてちゃんと貶してくれるからかな。
結果的に、たとえくんは「お前も来い。どうにかして連れて行ってやる。」と言う。美雪は愛ちゃんに手紙を書く。これは、愛ちゃんをたとえくんと美雪ちゃんが受け入れたってことだよね。愛ちゃんはたとえくんと美雪に対する感情は友情でも愛でもないと言った。愛ちゃんの中で、愛情というのは汚いものだから。だけど、確かに、愛ちゃんから2人に対する感情は愛で、それは、とても美しいものだと思う。
愛ちゃんは「せっかく掴んだのに」「こぼれ落ちていく」と言っているが、2人が受け入れたことでちゃんと掴めて未来に進めたんじゃないかな。卒業後、愛ちゃんは浪人して予定通り大学に行くかもしれない。2人と愛ちゃんはもう会わないかもしれない。愛ちゃんは適当な人と結婚して世間的な幸せを手にするんだろう。だけど、この、おかしな部分の自分を受け入れてくれた、愛してくれた、その体験が愛ちゃんの支えになって、愛ちゃんのこれからの人生は決して無駄ではない。愛ちゃんが思い出してあの2人どうしてるかな、と、ふっと笑っているといいな。愛ちゃんは「二度と、他の人を、同じように愛したくなんかない。」という。どうか、そうでありますように。
過去に何があったのか、とか家庭環境とかを多く語らずに、その人の今の心境や価値観を細かく描く綿谷りささんの作品が大好き。最近は、過去に〜な人は〜な傾向。とか〜の病気とか、その人の個性じゃなくて、大雑把に括りたがるけど、綿谷りささんの登場人物は一人一人が生きていて、個性的であり現実的であり、人間らしい。設定はありがちな青春モノだけど主人公の行動が面白くて、引き込まれる。
濃厚な話すぎて語彙力も、思考も、足りないのが悔しい。スイスイ読みやすすぎて二日で読み終わった。
Posted by ブクログ
ハードカバーではなく、文庫本バージョンで!
たとえの 「まずしい笑顔だな 」という言葉に出合ってから、私は、「笑顔がまずしくならないように生きること」 を 目標に据えている。
今回、前読んだ時と別のところでいえば、
美雪の愛ちゃんへの手紙がささったな。美雪の手紙はとても文学的で、本筋ではない、とりとめのない文章まで素晴らしい。
「あまりにも自分のために生きてきた」のところは、本当にすごく刺さった。
映画はかなり小説を忠実に描いてたように思ったけど、それでもないセリフとか、
たとえば、卒業式の日にたとえが「お前も一緒に来い」なんて映画では言わないのに気づいて、
そのセリフがない方が確かにいいかも、!なんて私も思った。
ユカと多田くんの描写についてもそうだし、映画は映画としてのオリジナル性がしっかりあったんだなぁと思った。
小説での、終わり方こんなだったなんて、覚えてなかったけど、すごくよかったな
「ひらいて」
Posted by ブクログ
思いを込める、という愛し方がある。
贈る、押しつける、届くように。
けれど、ひらく、という愛し方もある。
手を広げ、ありのままを晒し、受け入れるように。
自己価値の証明、もしくは執着としての感情を「愛」と呼ぶことしか知らなかった愛ちゃんが、承認欲求や評価などのためでなく、胸を広げてやわいところも相手に触れさせ、心の根っこで繋がろうとする「愛」をたとえや美雪から学んでいく。
思いを込めてばかりだと、皺になって、固くなって、心から出た本音が、筋肉を通って、皮膚を通って、表情として出ていくまでに嘘になってしまうから、自分でも自分の感情が分からなくなったら、もしくは自分でも自分の感情の出し方が分からなくなったら、一度、強がる気持ちや怖い気持ちをすっと手放して、勇気をもって「ひらいて」みてもいいのかもしれない。
愛ちゃんが、空回りして、最も好きな人たちからさえ遠ざかってしまう過程で見せた姿の淋しさは、人間の人間らしい滑稽さであり、真骨頂でもある普遍的なものだと思う。
私はいつでもそれを読み返し、強ばって固くなった自分に「ひらいて」と何度だって言い聞かせるだろう。
Posted by ブクログ
女子高生の気持ちを書くのが上手すぎるー、たとえが『過剰の意識』を朗読した後、愛の たとえ五千年の歴史が、どんな誤ちを犯していても に繋がるところがすごい綺麗でいいなって思った。愛が裸でたとえを待っていてたとえにいっぱい言われる所も良かった。読んでいる最中に色んな感想が湧いて出たんだけどアトモキセチンが効き切らないせいで最後焦って読んじゃって結局何を感想で伝えたいか分からなくなった。次医者に行った時アトモキセチンを増やしてもらうようにします。
Posted by ブクログ
最初こそあまりページが進まず、一旦本を置いてかなり間が空いてしまった。ところが中盤からは一気にストーリーに引き込まれて、最終的にはいい作品でしたとなる。アンビバレンスな心情をここまで描けるのは、やはり綿矢りさならではだと思う。歳をとって学生をテーマにした作品に共感しずらく、感受性が損なわれてきたのだと寂しくなるが、この作品は昔を思い出させてくれた。他作の蹴りたい背中もそうだったが、キスの描写が強烈に脳に突き刺さる。よくもまあここまで心情を文章化できるなと…ほんと刺さる人にはトコトン刺さる
Posted by ブクログ
すごく面白かった、ぶっ通しで読んじゃった。全然感想を言語化できないのが悲しい。執着を書くのが上手すぎるし、常識的におかしいんだけど人間故に持つ根っこの汚い心理がちゃんと言葉になってるし、これ高校生なのが絶妙だなって思う。大人ではないけど子どもでもなく、一番未熟な期間だから成り立つ。
最後光浦さんが愛に共感できないって書いていたけど、私は同じだけ人に執着みたいなのを持ってるから理解はできたし、正直共感してたかも。自分はやらないだけで。
Posted by ブクログ
かなり好きな恋愛小説だった。
自分自身でも感情と行動が結びつかなかったり、自分の内面に気づいていても見て見ぬふりをしていたり、思春期だからなのか主人公の性格的なものか、他者とも自己とも相容れないことに対する葛藤。
恋愛的なものと承認欲求。
色々な感情を上手く言語化して描いていてよかった。
Posted by ブクログ
中盤、おい!こんな展開かよ!と
主人公の破天荒な行動にかき乱されたけれど、
最後まで読んでよかった。
最後まで読んで、まるごと一冊で完結する立派な小説でした。
「高校生の青春と恋愛を瑞々しく描いた傑作」と
裏表紙に書かれていて中盤までではウソだろと思いましたがね。
どろどろしてきます。
主人公の「愛」みたいな女子はいるなあと思った。
破天荒さをちょっと差し引いた「愛」はいる。
「なんでも自分の思う通りにやってきて、
自分の欲望のためなら、他人の気持ちなんか、一切無視する奴」
それが「愛」でありLOVEのどうしようもないところでもありますね。
「なぜすべて奪うまで気づけない。欲しがる気持ちにばかり、支配されて」
と自分と重ねるようにサロメを評する後半の愛ちゃんです。
そういうひといるもんねえ。
それが本当のLOVEだと言わんばかりに。
まあ、愛の強さにはそういう面もあるけれど、
愛を野放しにしている感じがします、僕なんかには。
書き方としては、
正面突破の姿勢ではあるのだけれど、
直球ばかりではなく、
変化球も交えた組み立てのピッチング的でした。
著者の地力を感じる一冊です。