あらすじ
望むことは、罪ですか? 誰もが顔見知りの小さな町で盗みを繰り返す友達のお母さん、結婚をせっつく田舎体質にうんざりしている女の周囲で続くボヤ、出会い系サイトで知り合ったDV男との逃避行──。普通の町に生きるありふれた人々に、ふと魔が差す瞬間、転がり落ちる奈落を見事にとらえる五篇。現代の地方の閉塞感を背景に、五人の女がささやかな夢を叶える鍵を求めてもがく様を、時に突き放し、時にそっと寄り添い描き出す。著者の巧みな筆が光る傑作。第147回直木賞受賞作!
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Posted by ブクログ
辻村深月ってほんとうに人間の気持ちの描写がうまい。嫉妬とか、ねたみ、傲慢さ、そういういやな面を描くのが上手すぎて、読んでいて主人公は全てわたしなんじゃないかと思ってしまう。
自己愛が強くて、人のことを思いやっている風で実は見下していたり。結局は自分がいちばん大切だから相手のことを考えられないところとか。
読みながらはやく、次、次、って進んでいくんだけど読むほど苦しくなった。
私が田舎の出身というのもあって、こういう田舎での出来事や感情の揺れ方には心底共感できてしまうし、田舎から東京に出てきて自分は違うんだ、大丈夫だ、と思ってしまったことも思い出して読むほど気分が鬱々としてきた。(これは傲慢と善良も同じ気持ちになった。)
個人的には【美弥谷団地の逃亡者】がうわあそういうことか、と驚いて面白かった。最初ふたりの関係値が明かされず、なんとなく駆け落ち的な雰囲気があって、最初に浅沼という苗字が明かされた時、不倫してるのかなと思ったのに、読み進めるとオチにびっくり。あんなに短い文中に感情変化、ふたりが少しちぐはぐな雰囲気を醸し出して最後のオチにもっていける辻村深月って天才だなと。
あとは【石蕗南地区の放火】の主人公は絶対にわたしな気がするし。自分にどこか自信があって他人に貶められたり慰めたりされたくない、バカにもされたくない、そんな自分であっていいはずがないと思っているから真実を受け止めきれない、そう思い込むしか自尊心を保てない、真実を見ようともしない。それが見ていて滑稽だったな。
この短編集全ておもしろかった。相手を見下したり自分の方が上だと思い込んだり、相手をかわいそうと思うよりもきっと自分自身を正しく見つめて愛してあげられる方がしあわせなんだろうなとひしひし。
でもさ、人間って、そういうところ、あるよね。
Posted by ブクログ
作家も進化するんだ。と思わせられた作品。
あとがきの対談で辻村さんと林さんが話していた。自分はまだまだと思いながら模索し続けたり、直木賞を取った後でさえも成長している。と。私はこの本の中で著者が進化していくのを感じた。1話、2話は少し物足りないけど片鱗は感じて、3話から5話で一気にその成長が加速する。
どの話にも犯罪が絡めてあり、大人びている印象。というのは、ツナグを読んだ時、ファンタジーよりの中高生にウケそうな文体とお話だなぁと思ったから。そういう感じの作家さんなのだと思い込んでいたから意外だった。
また、田舎の空気と閉塞感の中で生きる人たちが上手に描かれている気がする。私は田舎育ちではないのだけれど、そんな私が小説を介して、違う人の人生を垣間見れるというのは面白いことだと思う。
どの話も先が気になってページを捲ったし、短編だから読み終えた後はしばらく浸る時間を要した。
「石蕗南地区の放火」と「仁志野町の泥棒」は最後の肩透かし感がぬけになっててこれが前哨戦という感じで、徐々に著者の成長を感じた。1話目、2話目で読みやめずに、3話まで読んだら作者を信じられるようになった。
「美弥谷団地の逃亡者」
構成も展開も素晴らしい✨ちゃんと恐怖感も植え付けられた。
「芹葉大学の夢と殺人」
これもわかりやすく日常に潜むタイプの恐怖で、自分は大丈夫と思っていてもはまってしまうことがある類のもの。
「君本家の誘拐」は本当に引き込まれた。いつになったら本編に行くんだろうと思ってたら、それが本編だった笑
途中から、あぁこの話の本筋はそっちではないのね。となり、ではどこに?を探しながら夢中で読み進めた。
Posted by ブクログ
5編の短編が詰まった一冊。
短編は、話としては関連性がないと思ったが、何かに囚われてしまうことでの人間の愚かさが共通して描かれていると思った。
鍵のない夢とは?と他の人の感想も含め、考えたが、解決策にない救いようもないことだと思う。
そんなやるせなさを言語化されると、心が苦しくなるが、読み進めてしまう。
自分の心のどこかにある愚かさを言語化されるって、エクスタシーなのか?
1編目は、親が泥棒の子との繋がり。
そのことに囚われ続けている自分と、忘れてしまった相手。自分だけが気にしすぎていた、リソースを割いていたことの憤りはすごい分かる。
2編目は、放火をした男と、その放火を自分に興味を持ってもらいたいからでは?と勘違いした女の話。
そう思い込んだが実際は違った時の怒り、秀逸。
3編目は、周囲にマウントを取るために彼氏を作ったが、その男がDVを働き、最終的には母親を殺され、人質として逃避旅に付き合わせられる女性。
怖い、という感情ではなく、他の友達のはない体験をしている、と受け入れているのが怖い。
4編目は、実現不可能な夢を持ち続ける、才能のない男と、その男に囚われ続ける女の話。
夢を持ち続ける、そしてそれに挑戦し続けることの難しさと尊さは、自分が社会人になってから、痛く痛感しているが、才能のない夢は受け入れる世界はなく、男を殺すことで、夢をピュアのまま、終わらせる結末
5編目は、育児に追われる母親を描いた作品。
育児は経験がないが、ヒステリックな描写もそうなるよなと思う。
友人が主人公に対して攻撃的だが、それを意に解さないのがよく分からなかった。
女性の思い込みをテーマにした作品だと思うが、性別に関わらず、世の中の人は皆、それぞれが思い込みを抱え、苦しんでいるのかもしれないと思った。