あらすじ
雨交じりの風が吹く10月のレイキャヴィク。湿地にある建物の地階で、老人の死体が発見された。侵入の形跡はなく、被害者に招き入れられた何者かが突発的に殺害し、逃走したものと思われた。金品が盗まれた形跡はない。ずさんで不器用、典型的アイスランドの殺人か? だが、現場に残された3つの単語からなるメッセージが事件の様相を変えた。しだいに明らかになる被害者の隠された過去。そして臓腑をえぐる真相。ガラスの鍵賞2年連続受賞の前人未踏の快挙を成し遂げ、CWAゴールドダガーを受賞した、北欧ミステリの巨人の話題作。
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Posted by ブクログ
原作は2000年、日本語版は2012年、そしてこの文庫が2015年。そこから約10年経って読んでいる。なんか勝手に歴史を感じる。
でもまあ、舞台が2001年のアイスランドなのはなにか理由があるのかと思ったら単に書かれた時期だったというのが分かったので、調べて良かった。
アイスランド文学を読んだのは初めてかもしれない。翻訳自体はアイスランド語 > スウェーデン語 > 日本語らしい。アイスランドとスウェーデンがどのくらい違うのか似てるのか知らないが、通貨であるクローネはアイスランドとスウェーデンどちらでも通用するので、英語とかよりはニュアンスがキープされやすいのかもしれない。
あとがきにもあったが、著者自身もスウェーデン語翻訳のクオリティは高いのでそこから翻訳されるのは良いことだと喜んだらしい。
ミステリー小説ではあるが、大どんでん返しとかあっと驚く展開とか、刑事と犯罪者のライバルとかそういうのが出てくるわけではなく、中年のタバコを吸いまくる刑事が、同僚に皮肉や文句を言われ、麻薬中毒の娘と喧嘩をしながら淡々と着実に調査をしていき、しっかりと結果をあげていくという作品。
この著者の作品は安心して読めそうだな。
というわけで本編ネタバレ感想。
アイスランドが舞台なので、登場人物の名前がかっこいい。シグルデュル、エーレンデュル、エリンボルク…
ただ、地名も名前と似たような響きに聞こえて、地名なのか名前なのかいまいちわからないときが多い。
死体のそばに置かれていたメモに書いてあった3つの単語、という、作品の根幹を為す重要キーワードに思えたが、最後が「あいつ」というだけで他がわからない。なぜ隠す?単語自体がネタバレになってしまうとかかな?
それとも自分の読み方が単に斜め読みすぎて読み飛ばしたのか?と何度か最初あたりを読み直したが、やっぱりなくて、真ん中あたりでようやく出てきた。「おれはあいつ」。3つじゃねーじゃねーか!まあ、そこは翻訳なのでしゃーない。
というか、確かにこの単語は色々と彷彿させてしまう。
犯罪者が山ほど出てくるが、保険金詐欺と殺人に関与して刑期4年とか、なんか短い気がする。他の犯罪者もなんか処罰が軽いし、女性被害が泣き寝入りというのが多い模様。これが00年代のアイスランドだったということか?そしてあとがきにもある通り、女性への暴行描写がやたらと詳しい。いや、やり方とかではなく、心理的に。でもこれは著者があえてやっていることらしい。こういうやり方をすること絵、問題定義も含んでいると。女性たちが救われるわけではないが、主人公はとにかく大事に丁寧に対応していて、逆にクソ男どもにはそれなりの対応をしてくれるので読んでて安心する。
ちょうど半分くらいでタイトルの「湿地」が出てきた。が、最後まで読んで思い返すと、あんまり事件には関係なかったのではという感じ。でも、この事件自体がなんか湿度高めというかじゅくじゅくしているニオイがするので、良いタイトルなのかもしれない。
合間合間で主人公とその娘さんの、全く穏やかではない日常が挟まれるので、この娘さんも実は事件に関与があるのか…?と途中までは思っていたが、単に主人公についての深堀りをさせるためだけの存在なんだろうなというのが途中でわかった。でも麻薬中毒で、悪い奴らと付き合いがあり、借金もしているこの娘さん、なぜか憎めない…
そして主人公自体もタバコ吸いまくりでずっと真顔なイメージがあり、部下が言う通り確かに事件と全然関係なさそうな調査ばかりさせてる感じはしたけど、どの調査も外れがなく、着実に真実に突き進んでいるため、少なくとも読者側としては信頼度がバンバン上がっていく。ただ、もうちょっと部下に説明はした方がいいんじゃないかな… 市民にはだいぶ優しいけど、部下との会話では突然話を終わらせてどっか行ったり、上から命令を押し付けたりしがち。危うい。
まあ、そんなのが吹き飛ぶくらいの悪徳警察官も出てくるから気にならんけど。
事件自体は最初の方の流れでは想像できなかった、遺伝子欠陥の話で、最後で一気に回収される。すんなり理解できて読書体験的には気持ちいいが、真相はとても切ない。小さい子が病気で亡くなるのはきついよー。
主人公と娘さんの関係性は良くなったっぽいが、続編でまた悪化してたりしそうだな。
Posted by ブクログ
ネットで見かけて。
北欧ミステリーの現在、らしい。
アイスランドは寒いのに火山の島だということぐらいしか知らない。
アイスランドのミステリーを読んだこともない。
典型的なアイスランドの殺人、と言われても何のことやら。
それなのに、なぜか懐かしさを感じるのはなぜだろう。
北欧ミステリーに分類されるがゆえだろうか。
ドラッグの蔓延、若者の失業、伝統的な家族の消失が、
他の北欧の国々と共通しているからだろうか。
それは日本の行く末でもあるのだろうか。
湿地の半地下室で老人が殺された。
2時間ドラマをほうふつとさせる重いガラスの灰皿で。
汚くて無意味で証拠を消すこともない、
不器用な典型的なアイスランドの殺人らしい。
死体に置かれたメッセージには三つの単語、
「おれ は あいつ」。
最初、それが書かれていなくて読み飛ばしてしまったかとあわてた。
殺された男は若い時にレイプ事件を起こしていたことが分かったが、
被害者はすでに亡くなっていた。
殺人の動機は復讐ではないのか。
主人公エーレンデュル捜査官は離婚で息子と娘を失い、
娘は戻ったが麻薬中毒で荒れた生活をし、妊娠中。
だが、一緒に暮らして、少しづつ歩み寄れたし、
胸の痛みが病気ではなくてよかった。
あと、かつての指導者で引退した警察官の存在が謎。
Posted by ブクログ
※ネタバレ注意
不可能だったことが可能になることがメリットばかりではないよね、という話。
アイスランドの歴史や人種特性、キリスト教圏の宗教観が絡み合って、物語が成立している、お国柄を感じる作品。物語の最後に漂う孤絶感が印象的。
ゲノム解析とミステリーというキーワードで思いだすのが、ソウヤーの「フレームシフト」で、あちらの日本での刊行年が2000年で本作が2015年。15年でぐっと自分の周りに近づいたな、と感じた。
Posted by ブクログ
2013年版このミス海外編4位。
暗いアイスランドの空(想像です)のような静かな警察小説。但し展開は早く読みやすい。
妻に去られ娘は麻薬中毒というベテランの刑事が部下とともに殺人事件の真相を追っていく。
殺された老人は、レイプで訴えられた過去があった・・・というところから展開していく話で、女性にはつらい部分もあるかもしれない。
過去が明らかになっていくことにより、悲劇が起きたという真相は、痛ましく悲しい。
Posted by ブクログ
久しぶりに寝る時間を削って読みたい本を読んだ。
主役エーレンデュルはシリーズぽくなってるようなので、この次も読みたい。
馴染みのないアイスランドが舞台なのも自分にとっては新鮮で良い。、
追記
確かホルベルクの悪友グレータル?の内臓が無かったと思うのだけど、その理由を読み飛ばしてしまった気がする。誰か教えてください。
Posted by ブクログ
さらっとおもしろい。
数ページごとに新事実や場面転換があって
映画のようなスピード感があるのがいい。
これは家族の物語のような気がした。
ひとつの家族が破滅していくさまを解き明かし行くうちに
ある家族が再生されていくところがいいなあと思った。
Posted by ブクログ
アパートで見つかった老齢の男の死体。突発的な犯行の様子は、殺人事件の少ない典型的なアイルランドの殺人。だがそこには「おれはあいつ」という、犯人が残したと思われるメッセージがあった。
調べを進めると、殺されたホルベルクは過去に女性をレイプしていたことがわかった。さらに、ホルベルクにレイプされた女性コルブルンはその事件の結果妊娠し、娘を産んでいたことも発覚する。だが、その娘は4歳で脳腫瘍のため死んでしまった。
エーレンデュルたち警察は、死んだ娘の病気はホルベルクからの遺伝性の疾患なのではないかということと、ホルベルクにレイプされ、子どもを産んだ女性が他にもいたのではないかと睨む。
時を同じくして、ホルベルクが住んでいた湿地のアパートの床下から、かつてホルベルクとともに悪さをしていて、後に行方不明になっていた男の死体が見つかる。
エーレンデュルはかつてホルベルクにレイプされた女性を見つけだし、彼女がエイナルという男の子を産んだことを知る。そしてそのエイナルは、アイスランドが全国民の健康状態を記録したデータベースにアクセスして、自分の出自とホルベルクから受け継いだ遺伝性の疾患のことを知ったのだった。
北欧ミステリ特有の陰鬱さ。主人公の刑事・エーレンデュルも、家庭に大きな問題を抱えている。そういった要素もまた惹きつけられるポイント。
Posted by ブクログ
このミス海外編2013年度3位。
アイスランドの作家が書いた刑事ものの推理小説。不良娘を持つシングルファーザー刑事が主役。不規則な生活で身辺が荒れ放題、海外の刑事もので良く見るような設定。ボクはサッカーが好きでW杯2018ロシア大会でのアイスランドの活躍とバイキング・クロップスが記憶に新しく、そこを舞台にした小説は過去に記憶がなく興味深く読めた。
ただ、全体の流れがあまりスムーズでなく読み進めるのが少ししんどかった。そんなに長くない小説なんだけど全体的に冗長な感じがあり、事件が進展するところはご都合主義的な部分があってうまく興味がつながっていかない感じでした。