【感想・ネタバレ】賢者の贈りもの―O・ヘンリー傑作選I―のレビュー

あらすじ

デラはおんぼろカウチに身を投げて泣いていた。明日はクリスマスというのに手元にはわずか1ドル87セント。これでは愛する夫ジムに何の贈りものもできない。デラは苦肉の策を思いつき実行するが、ジムもまた、妻のために一大決心をしていた――。若い夫婦のすれ違いが招いた奇跡を描く表題作ほか、ユーモラスな「赤い酋長の身代金」「千ドル」など、選り抜きの傑作を集めた新訳版。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

訳文が直訳に近く、落語や講談のように作者の「語り」が強調されているせいか、当初抱いていたイメージと違って読み手を選ぶ上に、全体的に文章のクセがだいぶ強いものの、ストーリーは流石は短編の名手といった塩梅でどの短編も一捻りされてて面白かった。

O・ヘンリーはこの短編集の表題作でもある「賢者の贈りもの」や「最後のひと葉」が有名すぎてそちらのイメージに引っ張られがちであり、本作も「水車のある教会」など、所謂「いい話」はあるのだが、そのユーモアやペーソスの中に皮肉的な視座が隠れていたりブラックなオチがあったりと、そのバリエーションは意外と多岐に渡る。全体的にどこかトボけた味わいの話も多く、それだけにしっかりと「オチ」が確約されていることの安心感とありがたみがある。

個人的に気に入ったのは「千ドル」であり、叔父の遺産を受け継いだ放蕩癖のあるジリアンという男が、千ドルの使い道を探す話であり、上手く使い道が見つからず、最終的に叔父が後見人になっていた一人のミス・ヘイデンという女に譲り渡す。しかしながら金を渡してもヘイデンの気持ちが靡くことがなかったのを確認した後に、実はその千ドルを我欲以外で使うと本当の遺産がジリアンに相続されるが、そうでなかった場合はヘイデンに相続されるという話が明かされる。それを聞いたジリアンはあえて「競馬でスッた」とうそぶいて、そのまま口笛を吹きながら去っていくオチなのだが、これがひたすらにシビれるほどカッコよかった。

これは徹底的に「無欲」と「利他的」な行動の証明の物語である。利害関係のないヘイデンという女性の善性を信じたからの行動であると同時に、そこで自分が遺産を受け取ってしまうとその善性がくすんでしまう。一見すると愚かで馬鹿馬鹿しい行動なのだが、これこそが本当の意味での「粋」な男であり、超有名作の2作と合わせてこれも教科書に載せるべきだと思った。

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2025年11月15日

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