あらすじ
妻お直と弟二郎の仲を疑う一郎は妻を試すために二郎にお直と二人で一つ所へ行って一つ宿に泊ってくれと頼む……。知性の孤独地獄に生き人を信じえぬ一郎は、やがて「死ぬか、気が違うか、それでなければ宗教に入るか」と言い出すのである。だが、宗教に入れぬことは当の一郎が誰よりもよく知っていた。 (解説・注 三好行雄)
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Posted by ブクログ
漱石の手に心臓を掴まれた気がした。
第四章『塵労』は読んでいて苦しい。
「ああおれはどうしても信じられない。どうしても信じられない。ただ考えて、考えて、考えるだけだ。二郎、どうかおれを信じられるようにしてくれ」
「僕は死んだ神より生きた人間の方が好きだ」
「死ぬか、気が違うか、それでなければ宗教に入るか。僕の前途にはこの三つのものしかない」
「僕は迂濶なのだ。僕は矛盾なのだ。しかし迂濶と知り矛盾と知りながら、依然としてもがいている。僕は馬鹿だ。人間としての君は遥に僕よりも偉大だ」
「どうかして香厳になりたい」
ああ、苦しい。
駄目だ。
泣く。
Posted by ブクログ
「こころ」と同様、最後は不自然なくらい厚い手紙を主人公が受け取り、
その中身を長々と綴って物語は終わる。
「行人」は「こころ」の前作であるから、同じ手法を連続で用いて
幕引きを行ったことになる。漱石にマンネリがあったとは考えにくい。
一体、そこにはどのような理由があったのだろうか。
また、登場人物が精神異常になる展開は漱石にとって珍しい。
ある意味、自殺よりも衝撃的な顛末である。
Posted by ブクログ
【概要・粗筋】
学者である一郎は、妻・直の本当の気持ちがわからず、信じることができず、夫婦の間は冷え切っていた。直はそのようなこと気にするそぶりもなく冷淡であった。しかし、一郎は妻の本心が知りたくてたまらない。そして、一郎は妻の貞操を試すために、弟である「自分」に嫂と二人きりになるよう依頼する。知識人の孤独と狂気を描いた小説。
【感想】
第一章「友達」から第三章「帰ってから」までと第四章「塵労」では作品の雰囲気ががらりと変わった。三章までは長男夫婦の不和に周りの家族が巻き込まれていくというある平凡な家族の姿を描いていたのに、四章からは一郎の内面が掘り下げられて家庭小説の枠をはみ出した。雰囲気ががらりとかわった。私としては三章までの雰囲気が好きだ。
周りからは冷淡と見られ、何ごとにも動じない強さを持った女性である直が、二郎に時折見せる淋しげな微笑みや砕けた態度が魅力的である。うっちゃっておけず、その本心を知りたいと思う一郎の気持ちがよくわかる。
憎からず思っている相手同士が突然の嵐で帰れなくなり、一晩を共に過ごすという場面は恋愛もののお約束としてあるけれど、この作品にもそれがある。二郎と直の間には一郎に報告するようなことは何も起きなかったけれど、それでも一郎が疑いを持つのも仕方がないような何かが二人の間にあるのは確か。この場面で、嵐で停電にもかかわらず、直が湯上がりに二郎に気づかれずに薄化粧をしていたところ(P167)が、特に印象的だった。
Posted by ブクログ
寝る前の文学シリーズ。夏目漱石は比較的読みやすいけど、高尚な一郎ワールドはなかなか理解に苦しむ。他人からみた家族を手紙の中で描くという構成が面白い。