【感想・ネタバレ】教育の職業的意義 ――若者、学校、社会をつなぐのレビュー

あらすじ

1990年代に、若者の仕事は大きく変貌した。非正規社員の増加、不安定な雇用、劣悪な賃金…。なぜ若年労働者ばかりが、過酷な就労環境に甘んじなければならないのか。それは、戦後日本において「教育の職業的意義」が軽視され、学校で職業能力を形成する機会が失われてきたことと密接な関係がある。本書では、教育学、社会学、運動論のさまざまな議論を整理しながら、“適応”と“抵抗”の両面を備えた「教育の職業的意義」をさぐっていく。「柔軟な専門性」という原理によって、遮断された教育と社会とにもういちど架橋し、教育という一隅から日本社会の再編に取り組む。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

教育現場では、人格の完成や学ぶこと自体の楽しさを重要視する傾向にあるが、本書での教育の視点=経済的利益、社会的効率(特に職業的意義)に着目して教育の有効性をどう担保していくのかについて指摘されている点が非常に面白い。

確かに教育の目的を抽象化しすぎてしまうと、日本国という社会が教育にとって何を成し得るのかという視点が抜け落ちてしまう。

社会学的視点で教育を見ることの重要性、面白さに気づかせてくれた本であるため、高い評価をつけた。

昔から今まで、私の社会教育学を研究する上での指南書です。

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2024年01月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 若者の就職やキャリア教育のことについて、ここ数年夥しい数の書籍や雑誌の特集号が組まれている気がするけれど、とりあえず、皆が同じ土台で議論をしていくために知っておくべき情報が整理されている本。日本における就職事情の変化、職業教育・キャリア教育の変遷、世界の中での日本の職業教育・キャリア教育、就職事情の位置など、とにかく、「現在の」「日本における」就職事情、職業教育・キャリア教育事情の位置をきちんとマッピングしてくれている。

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2012年01月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

あとがきに書いてありますが、キャリア教育が具体的な教育課程・方法の議論から遠ざかっていることを批判している一方で、柔軟な専門性に関しての教育課程・方法の議論に踏み込めていないところは難しいなあと思いました。しかしそれを差し引いても、<適応>と<抵抗>のバランスは色んなところで考えたいものだと思いました。

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2014年12月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

淡々と。
読み物というより、論文的な構成ですので、楽しんで読む本でもないです。

まず現状として、
・増加する非正社員側の苦境:低賃金と脱出の困難さ
・正社員側の苦境:過重労働化と、年功序列による賃金カーブの傾斜の鈍化

という事態が呈示される。
「若者」の中での非正社員の増加は最早一般常識として、
正社員側の労働環境の悪化についてはまだ浸透した認識とは言えないし、
個人的な実感としても議論の余地がありそうに思う・・・

自分の勤め先について言えば、過去においては「実質」の労働時間と、データとして提出される額面上の労働時間とにかなりひらきがある。
まぁそういう(法律に引っかかるような状況は)10~20年以上前の昔話としてあって、この本で引用されているのは2002年/2007年の比較データだったりするから、そのスパンでは確かに正社員の実質労働時間は増えているのかもしれない。

ただ並べて呈示されている、労働災害請求数の推移(H13~19年度の増加状況を示す)を見て、「特に精神障害の増加の度合いが著しい」根拠にするのはどうかと思う・・・・
「うつ病」という概念が浸透して、しかもそれを労働災害として広く認知されるようになってきたのも、この10年程の間のことで、それ以前にもデータに出てこないだけで「うつ病」的な労働災害が同程度が、それ以上に発生していた可能性は低くないように思う。
*

第2章は明治から現在まで、教育の職業的意義がどのように考えられてきたかを解説していて、ここは読み物としても面白い。
その中で、その後に使用する「教育の職業的意義」の二本柱になる概念として呈示しているのが、(職業への)「抵抗」と「適応」の為の教育、という考え方。
戦時中の職業への教育において反省的に語られているのが、「適応」、特に国策への人材の適応の為の教育に偏向して、労働者に自身の権利を守る為の抵抗のすべを教育してこなかったということ。

第3章は国際比較において日本の教育の職業的意義の低さを指摘するもの。

第4章・第5章が、いよいよこれからあるべき「教育の職業的意義」を語る章。
第4章は昨今流行の「キャリア教育」批判から入るわけですが・・・

このあたりの主張は、『軋む社会』あたりの主張と共通(同一著者なのだから当然)。
具体策として専門高校の復権を主張。
一方で、各専門職に特化した教育課程に一旦入った後、もしその学生がその教育・職に合わなかった場合の方向転換を可能にする余地と、大学受験等の制度整備とを求めている。

正直、これは『軋む社会』を読んでも思ったことだけど、ここの主張をどう実現していくか、具体策に乏しいという印象を否めない。

全体的に、職業教育が必要だという主張には賛成。
個人的な実感として、今の日本の(特に、自分がそうだったことも反省しつつ文系)大学生の9割9分は遊んでないでとりあえず働けというところでしょう・・・

高い学費親に払わせて遊んでるとかマジ屑だよね、という非難を、しかし大学生個々人に向けたところで、
「せめて大学くらいは出してあげないと・・・(ろくに就職できないじゃない?)」っていう情勢の中では無駄。
だから制度から変えていきましょう、という主張としては賛成。

でも、じゃあ具体的にどう変えられますか?ていったら相当に難しい。
いまある専門高校がどういうものか、あまりイメージがないからかもしれないけど・・・

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2012年01月15日

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