あらすじ
あまりにも美しく、哀しくつよい傑作長篇小説
なにものも分かつことのできない愛がある。時も、死さえも――ミリオンセラー『夏の庭』、名作絵本『くまとやまねこ』の著者が描く珠玉の物語
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Posted by ブクログ
三年前に失踪した夫との再会。
死者の話は悲しい。今にも実体を失って消えてしまうのではないかと気を揉む妻の切実さがよく伝わってきた。
死んだ夫と二人で足跡を辿る、こんな切ない旅があるだろうか。その先に別れが待ち受けているのを意識しながら二人を見守るのは、胸が引き裂かれそうだった。そこには透明な愛だけがあって、二人がずっと一緒にいられればいいのにと願わずにはいられない。
死者が生者の中に紛れて仕事をしたり物を食べたりしているのは不思議な感覚だった。でもそうだったらいいなと思う。世界との別れにだって納得する時間が欲しいから。
印象的な、口ずさみたくなるような文章がいくつもある。その中でもラストの1、2ページがとても好き。ヤコブの梯子が見える海で、二人熱いコーヒーを飲んで……こんなに静かで美しい別れのシーンがあるなんてと、うっとりしてしまう。そして渡り鳥が飛び立つシーンをそこに持ってくるのがつらい。それだけで、優介が去り瑞季も前に進まねばならないと分かる。儚いけれど二人が在るべき場所へ向かったのならそれが一番良いのだと思う。
Posted by ブクログ
夫と旅に出る。
3年前突然失踪し命を落とした夫と、夫の死後の軌跡を遡る旅に。
静かで安らかな二人っきりの旅。
会話の少ない二人だけれど、行間から穏やかな想いがひしひしと伝わる。
「忘れてしまえばいいのだ、一度死んだことも、いつか死ぬことも。何もかも忘れて、今日を今日一日のためだけに使いきる。そういう毎日を続けてゆくのだ、ふたりで」
生と死、本来相対する二つの領域の垣根を取り払ったかのように思えた二人。
ずっと二人でこの世をさ迷っていたかった。
けれど二人の間に静かに漂う淡い霧のような境界もいつかは晴れる。
「きみには生き運がある」
夫の発した寂しい言葉だけを後に残こして。
ずっと曖昧に描かれていた生と死の境目。
旅の終わりが近づくにつれ、くっきりと明確になってしまったことが、何より悲しくて辛い。
深津絵里さんと浅野忠信さん主演の映画もいつか観てみたい。
Posted by ブクログ
ようやく再会できた最愛のひとは、果たして私の知ってるあのひとなのか。
水の中をゆらゆら揺れるふたりの関係。姿が掴めない夫の輪郭のなさ。
そこに戸惑いつつも、新たに関係をつむぐふたり。きっと、夫と妻の立場が逆だったらこうはいかないだろう。瑞稀の愛と芯の強さ。
大切な人を亡くした人なら、誰しも幾度となくもう一度会えたら、と思うだろう。夫と旅をする彼女は、羨ましくも映る。
そして、タイトルの秀逸さ。「岸辺の旅」
岸辺は、水と陸地の境にある場所。物語は、その分け隔てられた存在であるふたりが「岸辺」のようにその境が揺れながらでも隔てられていることが印象的。
ひとつに、生と死という隔たり。
瑞稀があちら側にいってしまうのではないか。それが彼女の望むことだと思う。それでも、いくら死の淵に行きかけても彼女は必ず生きる。
これからも生きていくんだということに、著者は読者へ試練であり、希望を与えているように感じた。この終わり方で良かったと思いたい。
さらに、夫婦という存在の隔たり。夫婦という決して血はつながらないのに、最も近しい存在のふたり。
隔たりと強調しつつも、この作品で生と死は親しい。死は忌み嫌うものではなく、もしかしたら本当に死者も生きている人みたいに過ごしているのかもしれないなと思わせる。
あと、出てくる食べ物が非常にリアル。美味しそう。生と死をテーマにした話なのに緩やかで、ファンタジー要素が強いのにリアリティを感じるのは登場する食べ物のおかげだろう。どんな状況にあっても、死者も生者も腹は減る、その愛おしさ。しらたま、鍋、餃子、ロールケーキ、、たべたい。
時間をかけて読んだ。
Posted by ブクログ
朝ドラの深津絵里が17歳の役を!すごい!となり深津絵里を検索したときに映画『岸辺の旅』のことを知った。原作が小説だったので読んでみることにした。
最初からなかなか掴みどころがないふわふわとした話だと感じた。死んだと思って3年間探し続けた夫が急に目の前に現れた時、そのときの二人の会話からああ、この夫は死んだんだろうなとは何となくわかる。そのあとすぐにふっと消えてしまうのだろうと思ったら、なかなかどうして、ずっとそばにいる。普通にご飯も食べているようだし、主人公以外の人にも見えているようだ。
いわゆる幽霊なの?なんなのこの存在は?と思いながら、いつ消えるのか、いつ消えるのかと思いながら読むけどなかなか消えないので、あれ、これはこのままいくのか?と淡い希望も持つ。
このままずっとそばにいてくれたらいいのにな、と思うけど、そうはいかなさそうだということはきっと主人公にも初めから分かっている。分かっているからこそ、夫のことをしっかり見つめていよう、この手からすり抜けないように掴んでいようとする姿が切ない。
ちょっと中だるみしそうかな…と思った時に、夫には実は浮気相手がおりその人と会って話をするシーンはまた物語に惹きつけられるきっかけになった。夫がいなくなった時に見つけてしまった浮気相手からの手紙が、怒りというよりは夫を探そうという気持ちを応援するお守りのような存在になっていて、そのある意味不謹慎な内容が夫を失踪や死から遠ざけていると感じられて救われていたんだろうなという辺りには、人間の複雑な心のありようを感じた。
Posted by ブクログ
深津絵里に興味を持って主演映画の原作ということで読んでみた
こんな本も書く人だったのか
そういえば生き死にについてよく書く人だな
夏の庭を読み返そう
こんなにも集中して情景を想像するって作業は初めてしたかも
岸辺の旅ってタイトルと装丁がぴったり
これも浅野忠信だからか、私の男の、日本の果ての海を思い出した
別れが分かっている時に、おっきな月だねえだなんて関係ないこと言わせるの理解できなかったけど、もし私が同じ場面に立たされたら、ほっとするのかもしれないって初めて思った
Posted by ブクログ
長い間失踪していた夫・優介がある夜不意に帰ってきた。ただ、もうこの世の人ではないという。妻・瑞希は優介と共に彼が死後歩んだ軌跡をたどる。
彼岸と此岸の行き来しながらの二人の道行きが、湯本さんならではの美しい文章で描かれると、こうして亡くなってからもあの世に行かずに生活している人がいそうな気がしてくるから不思議。
二人の旅の途中で出会う人々もそれぞれに後悔や過去の重たい何かを抱えて生きているのが哀しい。
再生の物語は好きじゃないし、心震える結果にもならなかったけど、湯本さんの文章はどこまでも美しくて、静かな水辺の景色が脳内で再生されて、正に映画化にピッタリの作品だと思った。
もちろん優介は浅野忠信、瑞希は深津絵里で脳内再生。優介が浮気していたのはなんだかな~だったけど、浅野忠信なら許すか・・・