あらすじ
就職活動生の群像『何者』で戦後最年少の直木賞受賞者となった著者。初のエッセイ集では天与の観察眼を縦横無尽に駆使し、上京の日々、バイト、夏休み、就活そして社会人生活について綴る。「ゆとり世代」が「ゆとり世代」を見た、切なさとおかしみが炸裂する23編。『学生時代にやらなくてもいい20のこと』に社会人篇を追加・加筆し改題。
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Posted by ブクログ
時をかけるゆとりは、一見すれば軽妙なユーモアに満ちたエッセイでありながら、その奥底には“時代”と“個人”の関係性を鋭くすくい上げる、確かな観察眼が息づいている作品である。
本作に連なる数々のエピソードは、どれも取るに足らない日常の断片に過ぎない。だが、その「取るに足らなさ」こそが、読み手の記憶を強く揺さぶる。大学生活、家族とのやりとり、ささやかな失敗や過剰な自意識――それらは決して特別な出来事ではないにもかかわらず、朝井の筆致によって鮮やかな輪郭を与えられ、「かつて確かにそこにあった時間」として立ち上がってくる。
とりわけ印象的なのは、徹底された自己戯画化である。著者は自身を笑いの対象へと引きずり下ろしながら、その滑稽さを隠すどころか、むしろ誇張し、さらけ出す。その姿勢は単なる自虐に留まらず、若さ特有の不器用さや過剰さを肯定する行為にも映る。だからこそ、笑いながらもどこかで胸を刺されるのだと思う。
また、「ゆとり世代」というレッテルを逆手に取る語り口も秀逸である。社会的に規定された世代像を軽やかに引き受けつつ、それを内側から解体していく過程には、現代的な自己認識の複雑さが滲む。そこには、時代に規定されることへの違和感と、それでもなお時代の中で生きざるを得ない個人の諦念とが、絶妙なバランスで共存している。
笑いは終始この作品を貫く基調である。しかしその笑いは決して軽薄ではない。むしろ、笑いという形式を通してしか触れ得ない“過ぎ去る時間の痛み”が、静かに沈殿している。何気ない日常が二度と戻らないこと、そしてその最中にいるときには決してそれに気づけないこと――本作は、その普遍的な事実を、軽やかな語りの裏側で確かに描き出している。
読み終えたときに残るのは、単なる可笑しさではない。むしろ、どうしようもなく愛おしい時間を振り返るような、微かな寂しさと温もりである。『時をかけるゆとり』は、笑いながら過去と向き合い、その愚かしさごと肯定するための、ひとつの成熟した記録なのだと思う。
Posted by ブクログ
audible
噂には聞いていたが、本当に面白かった。
朝井リョウさんの話すことが好きなので、エッセイが面白いのはわかっていた。朝井ワールド全開だ。
《母がいろいろと間違う》には声が出てしまった。
お母さんてなんで面白いのだろう。お母さんになると面白くなるのか、自分も含めて(?)おもしろエピソードはよく聞く。それでも朝井母はかなりの有段者だった。
小学校のときに、朝井少年に手紙をくれた先生が素晴らしかった。がんばっていることに対して真摯に向き合ってくれる人がいるってとても素敵なことだ。
Posted by ブクログ
<備忘録・ネタバレあり>
直木賞作家でメディアでもよく目にしていたので「なんかシュッとしたイケメンインテリ若手作家」という印象だったが、このエッセイを読んで結構変わった。
飾らないというかちょいダサ痛エピソードが満載で、その可笑しい描写に著者のサービス精神をムンムンに感じる。(ちょっと狙いすぎと感じるところもあったけど^^)
まず巻頭の年表から面白い。「小6で小説を新人賞へ初投稿。受賞するつもりで日々を暮らす」「クラス名簿を基に執筆したバトルロワイアルを夏休みの課題作品として提出。職員会議の議題デビュー」など、短文から著者のキャラクターがうかがえて身近に感じる。
視力が悪いことなど、今となっては全然良くないことをカッコいいと思っていた節などは、わりと多くの人が共感できるのでは…?(私は同類だった)
第一章が「便意に司られる」というのも可笑しいし、私もまさに幼いころから腹痛に支配されてきたので、わかる~と笑えた。
スマホデビューの話は白い箱がブルブル震えだしたところで声を出して笑った。
御嶽島スルーからの大島フェリー旅行や、北海道のフェスに行けないことを直前で悟るくだりなど、大学生らしいエピソードたちは自分の大学時代とも重なり、懐かしさとまぶしさに胸がキュンと締め付けられた。
また、小学生の時に書いた小説に読者として感想をくれた担任や、高校生のときに「あんたは、早く東京に行って書きなさい」といった担任のことが書かれていた。こうやって応援してくれた先生たちとの出会いも、彼が作家への道を信じる灯りになっていたのかなと思うととても尊い。
ただその中で「自分の文章に酔ってない?」と言った小学校国語の先生の真意を知りたい。(しかし「酔ってる」と正直に自覚した著者がまた良い)
そしてそして、大学時代に作家デビューしていたのに、普通に就活して3年以上社会人をしていたことにも驚いた。すごい人だ。
読んでいて元気をもらえるので、10代20代はもちろん、かけがえのない青春を過ごした中年にもおすすめしたい。