あらすじ
30世紀、人類のほとんどは肉体を捨て、人格や記憶をソフトウェア化して、ポリスと呼ばれるコンピュータ内の仮想現実都市で暮らしていた。ごく少数の人間だけが、ソフトウェア化を拒み、肉体人として地球上で暮らしている。“コニシ”ポリスでソフトウェアから生まれた孤児ヤチマの驚くべき冒険譚をはじめ、人類を襲う未曾有の危機や、人類がくわだてる壮大な宇宙進出計画“ディアスポラ”などを描いた、究極のハードSF。
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Posted by ブクログ
大変な大作。作者はもちろんのこと、読む方にも根気と体力が強いられる。
好きな場面はヤチマが自身の精神を統合し、「ヤチマ=自分」と理解する場面。というか、それまでの分裂した自我と子宮プログラムの中での精神の産出の描写。嵐の中の船のような気分になるけれど、いつ、どうやって私たちが、自己という世界とのリンク媒体を手に入れたのかが想起される。
グレッグ・イーガンの小説では、緻密なSF描写・設定に加えて、人間の心理を暴くような哲学的命題が魅力の一つになっている。今回は哲学的・心理的描写は二の次に置かれ、高次元宇宙への限りない飛躍を主題にしている。(ただし、それが出来るのはポリス生まれのヤチマのみで、肉体を持っていた人類は自身の変化に限界を見いだして果たせない。その点が人間の心理と科学との摩擦を扱うイーガンらしい)
人間の好奇心の可能性を最大限に描き出す内容は訳者解説者等の言にあるように王道SFでもある。ただその主題を全うさせるための設定が難解すぎて、万人受けどころか、SF好きにも読むにはかなりの苦痛を強いられる。正直ワームホール理論あたりは全く理解できなかった。
でも! グレッグ・イーガンのそんな作品への真摯な姿勢は、私は個人的に大好き。気の遠くなる宇宙への冒険は、読むだけで辛いしキツいし大変だけど、壮大で好奇心を満たしてくれる。自分を複製して宇宙の果てへ送り出すところと、5次元だったかな、ヤドカリが高次元生命体として出てくるあたりは「アッチェレランド」に似てた。また「ポリス」の住人であるガブリエルとブランカのカップルが、その知能のために生きていくことに意味を見いだせなくなって自殺してしまうのも好き。
個人的にはポリス生まれの生命体の心理描写をもっとして欲しかったかなぁ。人類の模倣でなくて、もっと独特な思考形態の生き物として。そういった意味で、「絨毯」の閉じた精神世界は興味深かった。
Posted by ブクログ
順列都市が私達の精神がデータ化されるまで、また自律するAIが誕生するまでの話だとしたら、これはデータ化された私達が幾重にも別れて(データ化されているので、クローンを生み出すのは簡単です)さまざまな宇宙に拡散し、探索をするさらに未来のお話でした(根源的には、未来の滅びを避けるための手がかりを探索の目的にしています)。
私達が気づいていないだけで、私達の生きる空間はトランスミューターのような存在とは既に繋がっているのかも。トランスミューターが進化の果てに獲得したのが、あらゆるものに干渉しすぎない「自制」の力であったことがとても印象的でした。
3次元以上の世界って想像するのが難しいですが、かなりイメージが掻き立てられます。
あと、主人公のヤチマのようにマイペースに生きることは辛くなく生きるコツなのかなと思いました。イノシロウ、オーランド、パオロ…様々な人物の末路が描かれますが、自分の中に生きることの答えを見出したヤチマの行き方は最も自分自身という存在にとって幸福なことのように思います。