あらすじ
降幕の刻。「光の緒」「常(とこしえ)の樹」「香る闇」、そして前後編からなる降幕話「鈴の雫」――眩き4編、ヒト知れぬ生命達の脈動と共に。広大無辺の妖世譚――その幕がついに降りる。
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見慣れた動植物とはまるで違う、生命の原生体に近いもの。
「蟲」と呼ばれる異形のものは、形や存在があいまいで、誰にでも見えるものではない。
そして、時に「蟲」は、ヒトと…ヒトの営みに作用する。
これは「蟲」とヒト、そしてその間に立つ者「蟲師」のお話です。
雪夜に耳を病む者が出る村(1巻)、生き神のいる島(3巻)、
天の糸を掴んで姿を消した妻(6巻)、死が伝染する里(8巻)など
数々の奇妙な現象、様々な特質を持った「蟲」と人々の様子が描かれます。
また、作品内の時代設定ははっきりとはしません。
登場人物のほとんどが和装に身を包むものの、主人公である「蟲師」のギンコは洋装です。
産業革命による機械文明とは無縁に、農業や漁業に従事する村里が広がっています。
定かではない時代設定において、摩訶不思議な「蟲」や人々の生き死にを描く『蟲師』という作品は、
どこでもない、あるいは彼岸でもあり此岸でもあるような、あいまいな世界の感覚をもたらします。
それと同時に、作品全体を取り巻く静けさ、妖しさに心惹かれてしまうのです。
幽霊や妖怪といった異形異類の存在を語る怪談や伝承に惹かれる方は、ぜひ読んでみてください。
民俗的で、幻想的な魅力漂う作品です。
感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
蟲師のシリーズ最新刊で、最終巻。
空想的で美しく、おどろおどろしく懐かしい独特の世界の
続きがもうないと思うと淋しい。
最終話は、
人の身で山のヌシになってしまった少女、カヤの話。
言葉をなくし、記憶をなくし、ヌシとして生きるカヤだが、
ひょんなことから元の家族のもとでしばらく暮らすことになる。
その間に山は荒れ、カヤはヌシとして山に戻ることを選ぶが、
家族を思う気持ちを取り戻したカヤは、山とひとつになれず、
ヌシとして不適合だと判断されてしまう。
ヒトは山からはなれて生きて行くだろうと語る山の意思(神々?)に対して、
カヤをかばうギンコは、ヒトは山と離れて生きることはないと語る。
でも最後には、カヤはヌシとしての役割と、命を同時に奪われてしまう。
なんともいえない余韻……
最後の最後で説教くさくなってしまったことと、
一度もなかった、現実の世界とのリンクをつくってしまったことが惜しい。
家族を思う気持ちはヒトだけのものじゃないだろうけど、
それをいうのは野暮なんだろうな。
「個」として生きるか、「全体の中のひとつ」として生きるか。
後者を受け入れられないからこそ、ヒトがヒトである理由なのかな。