あらすじ
ロシア語通訳、エッセイスト、作家として多忙な日々を送った故・米原万里さんは、常に複数の猫と犬の母でもありました。そのニギヤカなる毎日を描いたエッセイが本書。執筆時、米原家は猫4匹、犬2匹、人間ふたりのメンバー構成でした。その状況を恩師に年賀状で報告したところ、「ネコイヌもいいけれどねえ、君、そんなことより、早くヒトのオスを飼いなさい、ヒトのオスを!!」と言われた……というのがタイトルの謂れです。ヒトのオスにはちと厳しいが、猫と犬には惜しみない愛情を注いだ米原さんの傑作ペット・エッセイ。猫好きも犬好きも楽しめます!
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Posted by ブクログ
ロシア語通訳者で才色兼備の万里さんと、犬猫たちのドラマチックすぎる日々。
最後の方は、内田百閒の『ノラや』を思い出しました。
犬猫たちのキャラクター描写が素晴しい。
そして、行くたびに病院名が変わる獣医の荒川先生もいいキャラクター。
Posted by ブクログ
表紙を開くと犬、ネコ、ヒト・・・の写真。米原さんが行く先々で運命的な出会いをしたペットたち、ペット大好きなヒトたちの様子がいとおしくてたまらなくなる。
ネコ語(しかも万国共通らしい!)がしゃべれる愛猫家にはびっくり!
今年は米原さんの著作を制覇する年。
Posted by ブクログ
ペット(猫、犬)エッセイの傑作です。
タイトルから、独身を貫いた米原万里の私生活エッセイかと思いきや、急にペットを飼い始めた筆者に悪友から「人のオスは飼わないの」と冷やかされたのがタイトルの由来。
本来、可哀想な捨て犬や捨て猫を放っておけない性分から、拾ってきた彼らを育てる暮らしが始まる。通訳という仕事がら家を留守にしがちな筆者は、認知症気味の母親がいるので、ペット好きのお手伝いさんを雇い対処する。ご近所さんにもペット飼育の先輩たちがいて、行方不明など困ったときには力になってくれる。ペット病院の院長先生も専門知識が豊富で親身になってくれる心強い存在。
つまり、環境的にはとても恵まれた状況で、筆者のペット飼育の奮闘記が開始される。
愛情たっぷりに接する筆者とその愛情に応えるペットたちの健気な姿は、ペットを飼った経験のある人にはたまらない。また、ペットの生態も参考になる。
捨て犬だったゲンは、前の飼い主の躾がよかったのか、社交的で庭でも滅多に吠えない。それが、ある時から急に番犬的役割に目覚め吠え始めた。ご近所の手前もあるので、獣医師先生に相談すると、「それはおめでとう。ゲンちゃんは今まで遠慮してたんですよ。また、前のように捨てられるかもしれないって。だから、どんな人にも愛想よくして犬なりに気遣ってたんですよ。それがやっと米原さんのところを終の棲家と見定めて、この家は、自分が守って行かねばという自覚が芽生えたんですよ」、なんか泣ける話です。
通訳の仕事でロシアにいる時、町でブルーペルシャ2匹の赤ちゃん猫に一目惚れして衝動買い。しかし、共産圏から無事連れて帰れるのか不安。その時の気持ちがよくわかる文章。
「パスポート審査を終え、搭乗者用待合室のベンチに腰掛けてから初めてじっくりと手荷物ケージの中を覗いた。この瞬間をどれだけ心待ちにしていたことか。2匹を一緒に連れ帰ることが確実になるまで、一目惚れを本格的な愛に熟成させるわけにはいかなかった。一目惚れのあいだは、まだ愛の感情を制御することが可能だからだ」
しかし、家には既に猫が2匹いる。そして、この後悪い予感が的中する出来事が待っていた。
ペット本には、《猫は人に懐かず、家に懐く》と書かれているが、本当だろうか?
米原家に起こったことは、2匹の新参者が現れた途端、古参猫2匹は不貞腐れ、本当に家出してしまう。自分たちへの飼い主の愛情に疑問を持ったのだ。その後、紆余曲折があり、家に戻って来るのだが、今度は逆に新参猫に対して母性愛、父性愛に目覚めてしまう。2匹とも避妊手術と去勢手術をしているにもかかわらず。さらに、家の中で去勢されたオス猫は本来しないマーキングまでやり始める。先生曰く、「父性が目覚めたのです。自分が守ってあげなくてはならない家族が出来て、ここには強いオスがいるぞと周囲に誇示しなくてはならなくなったためです」
群れの動物には、上下関係やリーダーが必要。狭い活動空間でさえ、失われたオス性を振り絞って頑張っているのです。
その後も、嵐の夜、雷を怖がるゲンが居なくなり…
解説は、翻訳者仲間の田丸公美子。普段から仲のいい関係性から下ネタと毒舌と愛情深い内容は味わい深い。
ペット好きには、是非読んでほしい一冊です。巻頭の登場人物一覧(ペット含む)写真も嬉しい。