あらすじ
司馬遼太郎賞受賞作。争いを好まず、あえて負けを選ぶことで真の勝ちを得る――。乱世にあって自らの信念を曲げることなく、詐術とは無縁のままに生き抜いた小国・宋の名宰相、華元(かげん)。出目で太鼓腹の巨漢、人をつつみこむ、あかるく磊落(らいらく)な性格。西郷隆盛をおもわせる男、とは作者の言。名君・文公を助け、ついには大国晋と楚の和睦を実現させた男の奇蹟の生涯を、さわやかに描く中国古代王朝譚の名作。人間の器量について考えさせられる一冊!
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Posted by ブクログ
史実に基づいた小説…なの?
きちんと文献に当たり、資料を読み込むことで書かれたこの作品は、もちろんノンフィクションとは言えないのだろうけれど、まるで見てきたように描写される古代王国はもはやフィクションですらない。
難しい言葉、知らない風俗が次々と現れるのに、不思議と読みにくくない。
決してドラマチックな文章ではないのに、全く退屈しない。
曽祖父の専横がたたって、祖父、父と不遇をかこってきた華家。
知る人ぞ知る知恵と礼儀(信義)の人・華元を訪ねてきたのは宋の王の弟。
不義の王を弑して、自分が王になろうと思うのだが…。
自ら手を汚す者は決して善ではない。徳を積みながらチャンスを待て。
そしてチャンスをものにしたのが文公で、その時以来ずっと文公は華元を信頼し、華元は文公を盛り立ててきたのである。
大国晋と楚に挟まれた宋の立場は難しいものであるけれど、目先の利益などでは決して動かず、筋を通した華元の生涯。
筋は通すが手腕は柔軟。
ここが面白い。
解説によると、晋と楚を同盟させるということは、日本の首相が冷戦時代のアメリカとソ連の手を握らせたような大事業なんですって。
味方を怒らせ、敵の陣地に1人置き去りにされたり、王の立場を守るために人質になったり。
あれ?結構ドラマチックな生涯じゃない?
しかしひたすら粛々と物語は進むのです。
ドラマチックだからこそ、粛々と。
文公、王姫、華家の家宰、部下の士仲。
魅力的な人物もみな実在の人。
歴史ってやっぱり楽しいなあ。