あらすじ
本書は、みずからユダヤ人としてアウシュヴィッツに囚われ、奇蹟的に生還した著者の「強制収容所における一心理学者の体験」(原題)である。
「この本は冷静な心理学者の眼でみられた、限界状況における人間の姿の記録である。そしてそこには、人間の精神の高さと人間の善意への限りない信仰があふれている。だがまたそれは、まだ生々しい現代史の断面であり、政治や戦争の病誌である。そしてこの病誌はまた別な形で繰り返されないと誰がいえよう。」
(「訳者あとがき」より)
初版刊行と同時にベストセラーになり、約40年を経たいまもなお、つねに多くの新しい読者をえている、ホロコーストの記録として必読の書である。「この手記は独自の性格を持っています。読むだけでも寒気のするような悲惨な事実を綴りながら、不思議な明るさを持ち、読後感はむしろさわやかなのです」(中村光夫氏評)。なお、写真資料は、電子書籍版では割愛いたしております。
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Posted by ブクログ
ある精神科医の強制収容所体験記。
もう20年以上の課題図書だった「夜と霧」、やっと読みました。これは、人間の尊厳を考察し、問うたまさに名著でした。もっと早く読んでおけばよかった。
なかなか手を伸ばせなかった理由は、アウシュヴィッツ強制収容所に収監されたことを書いた本だ、ということを知っていたからです。ホロコーストに関してはあまりに多くの著作があるので、あえて追体験したいとは思えなかったわけですが、これはそうした悲惨さと不条理を表現したものとは一線を画した本ですね。
原題が「ある精神科医の強制収容所体験記」みたいなとぼけた感じなので、本当はそっちの方がよかったんじゃないかと思います(でも「夜と霧」という邦題だからこそ読まれた背景があるでしょうね)。ですから、収容された時から解放された時まで、自分と被収容者の心の有り様を淡々と観察して綴るわけです。そしてこの大虐殺から生き残れた理由、心を保てた理由を考察します。このあたりは、まさに客観的で科学的な視点から収容生活を描きたかったのだ、ということがわかりますね。
この本の中で心に残ったことが二つありました。ひとつは、被収容者たちの恐怖とストレスが一番高かったのは収容される時だったのだろうな、ということ。読んでいて一番怖かったのが、詰め込まれた貨車の小さな窓から「アウシュヴィッツだ!」と声を上げるシーン。絶望が貨車の中に伝播していく様子が、とても空恐ろしく感じました。そして収容生活が始まると、収容当初よりも相当過酷で残酷な日々にもかかわらず、精神的な苦痛や苦悩の描写はあまり出てこなくなります。それは後で出てくることなのですが、自分が生きるということのほかはすべて捨ててしまう、という極度の精神状態に陥るからで、そうするとたぶん他の人への苦痛や死への共感はとても薄れてしまうのだろう、人が人でなくなるそういう環境を、また人が作り出しているということが本当に怖いことだと思わされます。
もうひとつは、自分がどのように生きるかを決める自由は、どんな状況下においても自分が持っているのだ、ということ。過酷な収容生活の中で、周りの被収容者たちが絶望に沈んでしまっても、冷静に人間としての心を保つことはとても難しいのじゃないかと思います。ただし、そう生きる自由は、ただ自分だけが持っているのだという指摘には感動しますし、これこそが人間の尊厳であろう、とも思うのです。
あまりにも過酷で残酷な収容生活が解放されて、著者は生き残りますが、自分と同時に収容された妻も子どもも帰らぬ人となっていました。そのことを客体に置き、ほどなくこの文章をまとめたその精神力には感服します。
さて、今この時ウクライナでは街を戦車が踏み潰し、爆弾が人を焼き尽くしています。そんなことがこの本が書かれて、人々が戦争の悲惨さを嫌というほど味わった後も延々と続いているのです。偉い人たちは戦争が好きで好きで仕方ないのでしょう。戦地で死に、あるいは泣き、辛い思いをしている人たちに共感こそすれ戦争を引き起こす為政者たちへの怒りも禁じ難く、本当に、心から人間が嫌いになりそうでな今日この頃ですが、こんな時に、本当にこんな時に、この本に出会えてよかったと思いました。どんな状況下でも、自分の心を自由に、そして人間らしく保ちたいものです。怒りと憎しみと暴力ではなく、人間の心を。
Posted by ブクログ
グロ・残酷描写には耐性がある方だと思っていたけど、「解説」で書かれる虐殺には、さすがにすごく心が重くなった。もはや銃殺のが楽なんじゃないかと思ってしまうほどの、ひどい虐待に人体実験、あまたの屈辱。
そんな生活の中で、作者はそれでも「自己維持のための闘いにおける心の武器」である「すてばちなユーモア」で「自分に対し、また他人に対し陽気になろうと無理に努めた」人たちを見る。
「愛する人間の精神的な像を想像して、自らを充たす」。
「われわれの戦いの見込みのないことは戦いの意味や尊厳を少しも傷つけるものでない」と語る。
苦しみの中でも生き抜く方法を伝える書として、この本より説得力があるものはないんじゃないだろうか。
ユーモア、愛、自尊心が、人間を人間として保たせるものなのかもしれないと思った。
ただ、作者は医者であるということで優遇されたときもあった。
手に職をつけることと体力も、どこでも強く生きついくためには必要というのが現実だ。
Posted by ブクログ
4年ぶりに再読。アウシュビッツに実際に行くことに決め、その列車の中で読んだ。この本に、私は生きる意味を教えていただいた。私の人生を変えてくれた大切な1冊。
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個人的に色々と重なり、心身ともに追い込まれた時期があった。様々な本を読んだけど、この本に最も救われた。西洋も東洋も哲学も心理学も結局は瞬間瞬間をいかに生きるか。未来も大事だがその期待は瞬間の積み重ねでしかない。ここに腹落ちするかどうか。この本は壮絶な体験の中でいかに生きるか、を我々に教えてくれる。歴史の風雪に耐えうる名著。
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ある精神科医が極限状態における人間の心理状態を、その始まりから終わりまで自身も当事者となりながら見つめる…
収容生活におけるユーモアもさることながら、突然自由になった人間がどうなっていくかというのも、とても興味深かった。フランクル氏の開放後に闇堕ちする人を救い出すのだと使命感が素晴らしい。
人生の意味を知るというか、人生を克服した人間の姿を見せてもらいました。
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精神の自由
何人も過酷な状況下に置かれても、精神は自由であること。その自由が失われる時、人は死に向かい、そして死ぬのだと学びました。
移送された直後の選別や解放された後に失った感情との向き合い方など体験した者にしか知り得ない地獄なのだと思いました。
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人間的自由が全て剥奪され、(歴史上多分)命の価値が1番軽く扱われるという、特異な環境にいる人たちが、何を想い、どう行動したのか、そこから我々は何を学べるのか、というのが主題。この極限まで人間の尊厳をStrip downされた人が行き着く「生」の意味は洗練されていて、脳天に食らう感覚があった
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フランクルから直接話を聞いているような感覚の読書体験であり、それだけフランクルの感傷的な文章に引き込まれた。
目を背けたいような残酷な状況に陥った時に、人間は2種類に分けられると述べられている。
乗り越えられるものと破綻するもの。
精神の自由な王国を築いたり、未来への希望を想像することで乗り越えることができるという。
そのためには自分の人生をどう生きたいかという主体性を持って生活していかなければならないと考えさせられた。さもなければ予想外の苦難に遭遇したときに飲み込まれてしまうだろう。
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人間の美しさを信じようと思える作品。
壮絶な体験をした筆者が綴る文章は、一つ一つが大変重く、耳を傾けなければと自然に思わせる尊厳があるように感じた。
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人間の想像だけでつくる小説では描写不可能だろうなというほどの、想像を絶する状況と環境と事実。
あの状況下においても、生きることを諦めなかった著者の精神力とこの思い出すだけでも絶望の淵にたたされそうになる体験を活字にしてくれた著書の勇気と行動力に感謝しなきゃいけないな、と思いながら読んだ。
こういうことを繰り返さないためにも、全員が読まなきゃいけないのかもしれない。
Posted by ブクログ
夕焼けに心を打たれ、ひどい空腹の中劇を観る。
ブルジョア的暮らしを手放し、収容所に入ったことを感謝した女性
地上には2種類の人間が存在し、どのグループに所属するかは関係ない
人間の生命は常に如何なる事情の元でも意味を持つこと、
収容所の外に思い描いていた夢の暮らしはなかった
アウシュビッツからの生還者の本で、ほとんどの人間は2週間かそこらで死に、生き残るのはほんのわずかの人間だけだと言っていた。
厳しい環境で自分を見失わなかった人は思考によって自己を守り、感性さえ磨いた。
だが、そんな人はほとんどいないことは明白。
Posted by ブクログ
この本については知っていたけど読むのに勇気が要りそうで数年かけてやっと読むことに決定。それこそ、何度も著者フランクルについて話を聞くことがあり、たまたま見たオンデマンドで、またフランクルだったから私は呼ばれていると感じたのだ。
アウシュビッツ、強制収容所について読むのは怖かったというのが読む前の私。読後、高揚感に包まれた。ナチスの中でもサディスト傾向の強い者が監視員に選ばれ虐待を楽しむ。絶望の中で人はどうなっていくのか。自身も収容所に入れられ、精神科医として人が極限状態に置かれるとどう壊れていくのかを観察していたフランクル。
まず初めになくすのが感情なのだ。私は子ども時代を思い出した。いちいち泣いていられるか、同情していたら生きていけない。痛みを与えてくるものから逃れられないなら体も感情もストップをかける。動いたらよけいに痛いだけ…とクールになっていた小学生時代を…
そして絶望の中だからこそ光に敏感になる。思い出した。近所の優しいおばちゃんたちにお礼をいう時もなかったが優しい眼差しと誉め言葉にどれだけ癒されていたか。
生まれるに値しない、つまり望まれずに生まれてきたことは開き直っていたもののコンプレックスにはなっていた。そしてこの「夜と霧」を読んで、はっとしたのだ。私は母に望まれなくてもこの世に望まれて生まれてきたのだということを。必然があって生まれてきて生きてきた。私がこの世に何を望むのかではなく、人生の方から望まれている。
亡くなった人に二度と会えなくても触れられなくても、彼らと過ごした日々は強烈に私の体内に記憶されている。父が夢に出てきて「いつもいるよ」と言ったのはこのことだったのだ。人間だけではない。虹の橋を渡った犬も猫も、私の中にこうしている。感情をなくしたはずだった私に無二の愛をくれたものたち。感動させてくれた父、兄、妹、犬、猫たち。鬼籍に入っても決して私の中から消えたりしないのだ。絶望の中にいたことがあるからこそフランクルの深い思いやりに満ちた言葉は私を動かした。読んだ後から今にも泣きそうな、でもそれを抑える自分の二面性を自覚しながら、抑えただけで感情は死んでいないと歓喜に溢れた思いである。
Posted by ブクログ
目をそむけたくなる、でも決して忘れてはならない人類として最悪の歴史。
アウシュビッツで何が行われていたか、読めば読むほどとにかく悲しくて痛々しい。
地獄とはここのことだ。
この地獄の中で、沢山の人間が別々の思いを抱きながら過ごした。
一筋の希望を信じたもの、全てを投げ出した者。
何をするにも気の持ちよう、なんて軽々しい言葉で言うのは失礼だが、結局はそういう事なんだと思う。
心の持ち方について考えさせられる。
自分がこの状況になったら、何を心に持ちながら耐えていくのだろう。
印象に残ったこと
・刑務所内ではヒゲを剃り、健康なふりをしろと教えられる。不健康だと判断されたらガス室に送られるから。
・クリスマスが過ぎた時、収監されていた人々が次々に力尽きた。クリスマスが過ぎたら解放されると信じていたからだ。一筋の希望を信じており、その希望が打ち砕かれた時に命が尽きた。それが実際にあった。
Posted by ブクログ
【概要】
第二次世界大戦中のナチス・ドイツによるホロコースト体験記録。ユダヤ人の心理学者であり、絶滅収容所に収容されながらも生還した著者が、その体験を心理学的観点からまとめた一冊。
【感想】
2023年に読んだ本の中で最も心に残った本です。
手にとって良かったと心から思える一冊でした。
理由は2つあります。
1つは、ホロコーストの具体的な内容を知ることができたからです。内容を読んでいると現実味が無いほど残虐ですが、80年前には確かに人が人に対して行っていたことなのです。人間は時にそういう行為をしてしまう生き物なのだと知ることができました。
もう1つは、困難に立ち向かう心の持ち方を学ぶことができたからです。根拠のない儚い希望を支えに生きていると、それが叶わない現実を突きつけられた時に心が折れてしまいます。そうではなく、自分を確かに待ってくれているもの ―例えば家族あるいは仕事やその仕事の達成を心待ちにする人たち― を心の支えにすること。
この考え方は今後の人生で度々思い返すことになるだろうと思いました。
確かに文体は読みにくく内容も暗いので読み進めるのはしんどいですが、その言葉には確かな力を感じます。
記されている言葉と向き合う価値のある本だと思います。
Posted by ブクログ
アウシュビッツに収容されたユダヤ人医師の記録。
前半は戦争裁判からわかったアウシュビッツで何が行われたのかの記録。後半は収容された医師とその周囲の人々の心理の変化が克明に綴られている。
ナチスや看守による、胸が悪くなるような残酷さと醜い行動に言葉がない。
もともと粗暴でサディスティックで無教養な底辺の人々を看守に雇っているのも理由のひとつだ。けれど、全員が全員そうではない。高い教育を受け、信心深く、心の優しい(と周囲から評される)人物が、目を疑うような残酷なことを平然と行っている。
戦争がなく、アウシュビッツがなければ、人間とは思えない振る舞いをするとは思えない。そんな人たちがなぜそこまで残酷になりうるのかと思う。
Posted by ブクログ
絶滅収容所での出来事が主なので、かなり残酷な描写や目を背けたくなる資料も多く出てきます。
ですが読後は何故か生きる事への希望が湧いてきます。
人はどんな状況に置かれても、自分の態度だけは選ぶ事が出来る。
恐ろしい程の説得力のある内容で、一生忘れられない生き方の指針となりました。
今何らかの理由で生きる事が苦しい方、もしかするとどんな啓発本よりも何かを掴めるかも知れません。
Posted by ブクログ
読み手が試される 戦争やホラー、猟奇殺人の話を上回る気分の悪さ。当時のアウシュビッツ収容所とその周囲の人たちも含めた話。人体実験もやってるのだけど、それらをできるメンタルどうなってるんだろ。
Posted by ブクログ
強制収容所で起こった事実を、実際に収容されていた心理学者の視点で語られた本。
愛に存在は関係ない、運命に身を任せるということなどから、人間とは何かを考察するきっかけになる。
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「嫌われる勇気」のアドラーの弟子とも言われるヴィクトールEフランクル氏のアウシュヴィッツ収監から解放までの当事者としての視点と精神科医としての視点で記された記録。どんな悲劇の只中においても人間としての尊厳を失わず、生ききった偉人の魂の軌跡に触れたくて手に取った。
Posted by ブクログ
いつか読もう…いつか読まねばと思っていた。
ユダヤ人精神科医でアウシュヴィッツなどの強制収容所を体験したフランクル。その体験を、学者としての冷静な視線で記録している。
強制労働、チフスの蔓延、収容所の移動、そして解放から愛する家族の喪失を知るまでを、感情に走ることなく綴る。
収容者だけでなく、ナチス側の心理やナチスに重用された囚人たちについても、精神医学的解釈を述べる。
決して過去の事例として見過ごしてはならない。
70年近く版を重ねている。訳文に多少古めかしい表現があるけれど、絶版にしない みすず書房に感謝したい。
Posted by ブクログ
いつか読まねばならないと思っていたが、なかなか手に取ることを躊躇していた一冊。ついに読み切った。1ページめくるたびに、気が滅入る本であった。
我々と同じ人間が、これほどまで酷い狂気といえる悲劇と地獄を引き起こしたことを、忘れてはならない。
Posted by ブクログ
クラシック音楽を堪能した翌日、何百人ものユダヤ人を無表情のままガス室に送る強制収容所所長という「ダスマン」(ハイデガー)が居る一方、文字通り全てを失って尚、人間性を失わない人々が居る。
人間とはどこまで邪悪で、どこまで素晴らしいのか。
衝撃無しには読めない。
Posted by ブクログ
かくも人間は残酷になりうるのか、その中でどのように内的に保っていられるのか?
ハイデガーの実存主義にふれて、この本を読んでみたくなり手に取った。
哲学と心理学、全てはつながっている。
Posted by ブクログ
淡々とアウシュビッツでの出来事を医者が書き記している。感情的でなく書き進めてくれるのでかろうじて読めるが、その悲惨な風景は筆舌に尽くしがたい。
「アンネの日記」と共に、あの時代のキツさを知るためには読んでおいたほうがいい。
Posted by ブクログ
細君の愛読書というフレーズから読みたくなり、久しぶりに再読しました。学生の時に読んだ印象と歳を重ねてから読んでみると違いますね。
唯の残虐さで心が痛いと思うばかりでなく、こんな状況下でも生きる希望や愛する人への思い様々な目的を持つ事で自分自身を崩壊させない事が大事なんだと思い知らされました。
Posted by ブクログ
この世には2つの種族の人間しかいない。「まともな人間」か「まともではない人間」か
この本を読んで寝たとき、自分が酷い目にあう夢を見た。
夢でさえ叫びたくなるほど辛く苦しかったのに、実際にアウシュビッツに幽閉された人々はどのくらいの苦痛を強制されたのだろうか。
人間が人間であることを放棄する瞬間、窮地で縋るもの、未来を見据えることの大切さ、
それらが実際に収容されていた心理学者の視点から語られる、大切な本。
Posted by ブクログ
大学生の頃、初めて読んだときは確かに感銘を受けました。
ですが、その後、アドルノの言説やドキュメンタリー映画「ショア」を観てからは、すでに役割を終えた本ではないのかと思うようになりました。
エリ・ヴィーゼルやプリモ・レーヴィと比べると、V.E.フランクルはあまりにも楽観的で、軽く思えてしまいます。
Posted by ブクログ
読むのが辛い、2度と読みたくない。人間が人間扱いを同じ人間からされなくなるのは辛い。ユダヤ人である作者はどんな気持ちでこれだけの量の文章を書いたのだろうか。お亡くなりになった人々が天国で安らかにありますように心からお祈りします。フランクル氏は地獄のなかで平静を保てたのがすごい。