あらすじ
兄姉は自殺・失踪し、暗い血の流れにおののきながらも、強いてたくましく生き抜こうとする大学生の“私”が、小料理屋につとめる哀しい宿命の娘・志乃にめぐり遭い、いたましい過去をいたわりあって結ばれる純愛の譜『忍ぶ川』。読むたびに心の中を清冽な水が流れるような甘美な流露感をたたえた芥川賞受賞作である。他に続編ともいうべき『初夜』『帰郷』『團欒』など6編を収める。
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⚫︎受け取ったメッセージ
川の流れのように、粛々と流れる時間。
一緒にいてくれる人を思う気持ちが、
水面を輝かせる。
⚫︎あらすじ(本概要より転載)
大学生の私は、料亭「忍ぶ川」で志乃としりあった。それぞれの家族とのかかわりやいたましい生い立ちを乗り越え労わりながら逞しく生き抜こうとする。くり返し読み継がれていく名作 第44回芥川賞受賞作品
⚫︎感想
素直で、わかりやすい日本語で書かれている。その表現が、話の美しさ、慎ましさを引き立てていると思った。主人公二人は家族とのかかわりで、それぞれ苦しみをもっていても、それが二人の性格を捻じ曲げることなく、素直で美しい。悪人も、ズレた人も出てこない、ものすごく劇的なことが起こるわけでもない。穏やかな川のように、時間が粛々と流れる中で、丁寧に人物像や会話がつむがれる。何が起こるわけでもない日常を切り取って表現し、読ませることができるのが、本物の筆力だと思う。
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大好きかつ素晴らしい短編作品。
男女が出会い家族となり生きていくまでが、清純で慎ましく描かれる。
時代背景か若干の男尊女卑は感じるが、素朴な愛情が流れる数作が続く。
ラストの『驢馬』は毛色の違う戦争モノだが、ずっと哀しみがこびりつく名作。
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これはとても文学的な香りを愉しめる小説である。人がなぜ恋に陥るのか、家族に対する愛情とはどんなことを云うのか。そんなことがわずかな時間で感じることができる。
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奥さんとの馴れ初めは初めて読んだかも。でもこれは事実に近いフィクションなのかな。どこまで本当なんだろう。結婚前、女性が生家へ男性を連れて行って、「これが私のすべて」と見せる場面はよかった。その生家というのが赤線地帯の一角にある場所だから尚更ね。そこで引いて去って行く男ならもちろん今後はないわけだし。男性が自分に留まる可能性は半々だろうに、その勇気ほんとうに感服する。私もこのように強くありたいと思った。最終話は満州からやってきた留学生が主人公。他短編とは趣きがまったく違い新鮮だった。けれど悲しい物語だった。
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作者三浦哲郎の人生を下敷きにした私小説。
6人兄弟で4人が自殺か失踪をとげてるんだから、どうしたって話は重くなりそうなものだけれど、この作者の文章は、雪の日の朝のように爽やかだ。
妻との出会いと結婚を主に描いているんだけど、この奥さんがまた良い女なんだな
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表題作「忍ぶ川」を含む7つの短編集である。「驢馬」の1編だけ満州人の留学生の差別を描いた作品で、他の6編は「忍ぶ川」に連なる作品と捉えてもいいのではないだろうか。
「忍ぶ川」は昭和初期の恋愛小説。不幸な過去を互いに持ちながらも出会い、果てに結ばれるという目新しいストーリーではないが、情景や心情が読み手に見事に投影されきて、胸が熱くなる。改めて微妙な加減を表す日本語の凄さと平明な言葉でここまで読み手に迫ってくる、三浦氏の文筆の素晴らしさを感じることができた作品だった。
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「忍ぶ川」のみの感想
大好きすぎて何度読んだかわかりません。
特にラストが好き。スケールが大きいわけでも長編ってわけでもないのに、読んだ後は壮大な気持ちになる。ピュアで胸が打たれる小説。
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この本には「忍ぶ川」を含む7つの短編がおさめられている。
「忍ぶ川」は昭和初期の男女の愛情の在り方、また、家族愛
などが悲しく、切なく、雄々しく、書き連ねられており、胸をうつ
素晴しい作品だった。まだ若い主人公の人生に胸が熱くなるほどの
感動を覚えた。
他の6作品もそれぞれに勉強させられたが、内容が重複するもの
が多く、私小説としての難点も感じられたのは私だけだろうか..。
ただ「驢馬」は私小説とは異なる。満州人の留学生の差別を描いた
作品で読者の気持ちまでもが重く苦しくなるほどの作品だった。
評価は「忍ぶ川」に対してのみ考えた。
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著者が青森県八戸出身の芥川賞作家ということで買ってみました。調べてみると、歴代の同賞受賞作の中でも上位にランクインしてました。ほぼ実話だそうで、それだけに胸に詰まる切なさがあった。
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「忍ぶ川」は三浦哲郎の出世作であり、1960年に芥川賞を受けた。私小説は形を変容させつつ21世紀の現代も日本の文学界にしぶとく生き残っているが、昭和中期頃まではそれが文学の「主流」とみなされていた。青森県八戸に生まれた三浦も、妻との出会いや兄弟姉妹の不幸な死と失踪を題材に、保守本流の「私小説」で作家デビューを果たしたと言ってよい。
新潮文庫で昭和40年以来現在も版を重ねているこの本は、芥川賞受賞前後の初期作品7作を集めている。後年「短篇の名手」と呼ばれるようになってからは、文庫本にして20ページ前後のコンパクトな作品が増えるが、このころはまだ中編ともいえる長さのものが多い(ただし作家として安定した地位を得てからは長編作品も多く書いている)。
私小説の魅力は、ある種のワンパターンと、自己の恥をこっそりと読者に晒すことから生まれる一体感のようなものだと思うが、三浦作品もまたその基本を外さない。「忍ぶ川」続編ともいうべき1961年の「初夜」では、妻である志乃の懐妊までが抒情的に語られるが、その前に二人の合意のもと成された中絶についても赤裸々に告白される。現代の読者はこの夫婦のわがままに違和感を抱かざるを得ない。自分もまたこのことが私小説に名を借りたフィクションであることを願う者だが、どちらにせよこの堕胎とそのあと二人におとずれる「幸福」とのギャップが、この作品の核となる。そのように読むのが妥当だろう。
「恥の譜」では父の死がテーマとなる。ここで描かれる死の風景、リアリズムに徹した看取りの図は、読む者に強い印象と感動を与える。これまで「恥」として感知されていた家族の死が、「私」にとって初めて人間的で尊厳のある「死」として意識される。父の死は作者にとって姉や兄の死と同等の文学的な意味を持っている。
「驢馬」は「忍ぶ川」より先、1957年に初稿が書かれた。この本の収録作中で唯一、家族以外の人間―張永春という戦時中の満州出身の中国人―が主人公となっている。三浦が自身の文学を模索している若い時期に、この作品を書いたことはもっと評価されるべきだ。この文庫の解説を担当した文芸評論家の奥野健男は当時そのことに気づいていない。日本という国家の中で生きる外国人というテーマは、今こそ再読される時だろう。
最後に蛇足だが、「忍ぶ川」は「しのぶかわ」ではなく「しのぶがわ」と読むことを、今回この文庫の奥付を見て初めて知った。志乃が勤める料亭の名前だから、濁って読む方がしっくりくるが、固有名詞としてではなく象徴としての「川」と考えるなら、「かわ」と濁点なしで読むのも間違いではない。おそらく作者はダブルミーニングとしてタイトルを付けたのだろう。
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「忍ぶ川」に続いて「初夜」「帰郷」「団欒」「恥の譜」「幻燈畫集」と短編が続き、最後それらとは別の話「驢馬」が収録されている。
この小説は作者の体験に基づいた私小説らしい。料亭で働いていた志乃という女に惚れて結婚した主人公。その馴れ初めから物語は始まる。「初夜」では主人公の兄弟姉妹が自殺や失踪を遂げていことが明かされ、その家族の血を引き継いでしまっていることを悩む主人公は志乃に子供は作りたくないと言う。そこに主人公の父が危篤となり父の死を目の当たりにしてそれをきっかけに子供を作ろうという話。「帰郷」は大学卒業後主人公は作家として活動するもの全く売れず妻が内職でアイスクリーム容器を作りそれで生活している話。妻の収入で生活しなければならないことにプライドが傷つけられるがそれしか生きる道がないことに気づいている主人公の葛藤が描かれている。「団欒」ではサラリーマン夫婦が郊外にアパートを見つけるところから始まる。そのアパートは壁がベニヤ板で音がダダ漏れ状態だがそんな環境でも受け入れないといけない状況。子供の誕生日に銭湯に出かけた時、子供と走っている時主人公が転けてしまい子供に怪我をさせてしまう。その際の主人公を見る妻の目がとても冷淡なのが印象的。「恥の譜」は主人公の父が脳軟化症で危篤となりその父を看病するために故郷へと帰る話。主人公にとって死と死体に間はないもので(姉妹が自殺しているから)父が病気により徐々に死に向かっている様を見て死に対する考えが変わる。「幻燈畫集」は主人公の幼少期の話。姉の死が自殺であったことを家族に秘密にされており、同級生から聞かされるのは辛い。そういうのがあって大人に対して不信を抱いていく主人公が描かれている。「驢馬」は戦時中に満州から日本に留学してきた満人の話。彼は心が綺麗すぎて同級生にいいように扱われており、逆に同じ留学生の戦は校長やその犬、同級生たちの考えを機敏に感じ取り立ち振る舞うことで処世していく対比が面白い。
志乃のような女性ってかっこいいよね。素直だし男性を立てるし誠実だし。
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芥川賞受賞作品を読みたかったので購入した。表題作は話の筋こそありふれているが、丁寧な文体と情景描写によって何倍にも魅力ある作品になっている。特に、故郷に戻った「私」が車窓に映る雪景色を眺めるシーンは印象的である。
すべての収録作品が「死」を扱っている点も見逃せない。これは作者の育った家庭環境、特に姉たちの自死という体験を色濃く反映しているものだろう。このような作者自身のリアルな経験に拠った思想が表れていることも、これらの作品の価値を高めていると思われる。
もう一度読むとしたら、「團欒」を読みたい。
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「忍川」は出会い、交際し、結婚する過程を、未来へ向いた晴れやかな青春の一時が、対比して暗く引きずる過去を押し流しつつ描かれている。両親からも祝福されて幸せな気分を共感できる。深川の風景や夜行電車での情景描写もよいですね。その後の続編で暗い過去を浮き彫りにして、全編読後感は少し陰鬱なものになってしまうが。
「驢馬」のみ作者の私小説とは違いフィクションのようだけど、当時の事情を題材に何やらリアルで救いようがなく変に印象に残る。
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テーマは暗いのに、人間の強さを感じさせる短編小説群であった。日々の生活の厳しさに家族で向かい合いながら、一方で、自殺してしまった家族の存在が負い目となる。豊かさの中で、共同体や家族の崩壊が進んでいる二十一世紀の日本との違いが際立っていた。
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表題作は、芥川賞受賞作。
明治から昭和戦前までの古臭い空気をまとった様な作風だが、本作はそれがしっくりとして良い。メロドラマっぽくもある。
「初夜」なんかも、続作に当たるのだと思うが、とても良かった。ただ、それまでで、他の短編は、「忍ぶ川」に散りばめられた要素を主題に書き下ろしたためか、味気無いというか、既視感に近い引き伸ばしを感じた。
そのためか、本作で独立した短編「驢馬」は、とても良かったと感じた。
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7つの短編集。6つは連作、でいいのかな。
『忍ぶ川』数奇な運命の6人の兄弟姉妹の末っ子が
ある女性と付き合って結婚するまで。
結婚式での両親がとても嬉しそうで微笑ましい。
連作はその後の生活と過去を綴ったもの。
昭和のつつましく暮らしている夫婦が清々しい。
『白夜を旅する人々』(1985年)を以前読んでいたので
その印象が強くスピンオフのように感じつつ読みました。
『白夜を旅する人々』は6人の兄弟姉妹の上の5人
(メインは次女、長男、長女)
『忍ぶ川』は末っ子が登場人物。
末っ子が上5人と比べると普通の人なので
『白夜を旅する人々』のほうがインパクトはあった。
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【本の内容】
貧窮の中に結ばれた夫婦の愛を高らかにうたって芥川賞受賞の表題作ほか「初夜」「帰郷」「団欒」「恥の譜」「幻燈画集」「驢馬」を収める。
[ 目次 ]
[ POP ]
8月末、79歳で死去した作家の三浦哲郎さんには伝説がある。
30年ほど前、小説の原稿を編集者がなくしてしまい、再度書いた。
間もなくして元の原稿が出てきて、編集者が照らし合わせたところ一字一句同じだった――。
真相は、書き直す直前、元の原稿は見つかっていた。
クビを切られることを覚悟して謝りにいった編集者に、「見つかったのは残念。句読点すら同じに復元する自信もあったのになあ」と語った三浦さんの言葉が誤伝されたらしい。
とはいえ、伝説には説得力があった。
「小説は文章」と思い定め、とことん推敲する短編の達人だったからだ。
妻との出会いから結婚までを描いた初期代表作「忍ぶ川」も文章が端正で、〈読むたびに心の中を清冽な水が流れるような甘美な流露感をたたえた名作〉である。
1988年の「文芸春秋3月号」に発表された読者アンケート「思い出に残る芥川賞作品」では、「太陽の季節」に次ぐ第2位。
新潮文庫は86刷162万3000部のロングセラーになっている。
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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戦後間もない東京を舞台にお互い暗い過去を背負った二人が貧乏生活の中で生きていく、最後は普通の夫婦になって行くハッピー・エンド的に終わる。
主人公は青森の昔資産家の6人兄弟の末っ子。兄二人は失踪、姉二人は自殺、残る姉も目が不自由。暗い血を背負う。相手の女性志乃は父親の事業の失敗から家族は栃木の田舎で神社の廃屋で暮らしているという極貧の生活者であった。
志乃はしっかり者で明るく、主人公も相手の気持ちを思いやる優しさを持っていた。しかしその暗い血故、最初の子供は堕ろさざるを得なかった。
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芥川賞
たまには過去の名作というものを読んでみようと手に取る。
東北の裕福な呉服屋の六人兄弟の末子である作者だが、姉二人は自殺、兄二人は失踪、残された姉は弱視という凄まじい家庭環境。その血に怯える心情を描く私小説を中心とした中短編集。
売れない小説を書いているだけで、働こうともしない夫に文句も言わず、義父の最期も献身的に看取る、遊郭街で育った妻のまっすぐな人柄が驚きだった。
ふだん読み慣れているような現代の小説とはかなり異なった時代設定であり文章。大作家の初期の作品ということだが、文学を読んだという充実感はあるが、正直良さのわからないところもあった。
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表題作の『忍ぶ川』と『初夜』以降の続編も良かったんだけど、最後に読んだ『驢馬』の衝撃が強かった
張のこと思うとしんどくなっちゃうな
『恥の譜』も印象的だった
兄弟たちの自殺を恥ずかしく思ってた主人公が、父親が病気で亡くなっていくことを普通の死と認識して安堵するというような話。自然とそう思ってしまうのが分かるけれど悲しい。
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第44回(1960年下半期)芥川賞受賞作。この回はなかなかに豊作で、候補作の中には倉橋由美子「夏の終り」や、柴田翔「ロクタル管の話」などもあった。ただし、選考委員のほとんどは本作を推している。作品の文体は私小説風であるが、そのようなタッチを意識して書かれた小説なのだろう。したがって、年代以上に古いタイプの小説という感じを受ける。第44回といえば、安部公房や大江健三郎よりも後なのだから。また、小説全体は、モノトーンに覆われ、ハッピーエンドであるにもかかわらず、ヒロインの志乃には薄倖そうなイメージが付き纏う。
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芥川賞受賞の「忍ぶ川」、その続編の4作を含む7作の短編集。忍ぶ川は昭和初期の作者の体験を基にしたお話らしい。好きな女性と出会い、問題を乗り越えながらも幸せに結ばれる。昭和初期という事もあり描写が細かく書かれているが少しイメージしにくい。何でもない日常のお話、という感想で個人的には何かを感じ取れる作品ではなかった。
Posted by ブクログ
教科書に出てくるような本が
読みたいと、見つけた本。
短編なんだけど、続編でつながる一冊。
最初の話が一番よかった。
エラソーだけど、読み進めるほど、
しりすぼみ?になってしまった気がする。
Posted by ブクログ
恋愛という言葉は世の中にあふれているが、いざ自分がその主人公になったら、その途端に苦しく切なく、そしてひたすらに相手を思い続けるしか出来なくなってしまうのだ。人生の中の奇跡的な時間であり、人生からのプレゼントではないかと思う。初夜を迎える場面は、忘れられないくらいに鮮烈なイメージを与えてくれる。