【感想・ネタバレ】草の花のレビュー

あらすじ

研ぎ澄まされた理知ゆえに、青春の途上でめぐりあった藤木忍との純粋な愛に破れ、藤木の妹千枝子との恋にも挫折した汐見茂思。彼は、そのはかなく崩れ易い青春の墓標を、二冊のノートに記したまま、純白の雪が地上をおおった冬の日に、自殺行為にも似た手術を受けて、帰らぬ人となった。まだ熟れきらぬ孤独な魂の愛と死を、透明な時間の中に昇華させた、青春の鎮魂歌である。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

 サナトリウムに入所中の汐見茂思は病魔に慄かず、自らを明かさない孤高さがあった。だが、半ば志願するように危険な手術に臨んだ彼は本当に孤高だったのか、それとも死を切望していたのを隠していただけか?
 青春時代の汐見茂思はプラトニックな愛を求めたが、相手--1人目は同性の後輩 藤木忍、2人目はその妹 千枝子--には断られてしまう。彼の愛は純粋で本物だったのか、彼の理知が生み出した理想に都合の良い相手が2人だっただけなのか、利己的な肉欲の言い訳だったのか?

 一人の男が死に、生きた。清らにも濁っても映る彼の生き様を紡ぐ文章に心震えた。私小説の要素を多分に含んでいるらしいが、他作品には無い美しさが本作にはあった。
 それなりにだが人生経験を重ね、アラサーとなった今に読めてよかった。もしも自分が10代〜20代前半に読んだら本作の美しさに感動するどころか見出せず、作中に感じられる人生の儚さや苦さを嫌なものとして捉えていたかもしれない。

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2024年11月01日

匿名

ネタバレ 購入済み

静かに生涯を終えた汐見。
なんて寂しく切ない話なんだろう。

藤木への強い想いから始まり孤独の中で悩み考えつづけた汐見の人生と美しい描写に引き込まれた。

#切ない #エモい

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2023年07月22日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ひたすらに孤独な青年の恋と愛の物語。

サナトリウムに入っている私は手術で帰らぬ人となった汐見からノートを託される。そこには汐見が愛した二人の人、藤木忍とその妹千枝子との想い出が綴られていた。忍には渇望に似た感情を持ちつつも忍から拒絶され、千枝子には青年的な恋を心に抱えつつ、結局は汐見は孤独を選ぶ。

悪人や意地悪な人が出てこない、優しい人しかいないのに、それでも汐見は孤独だったということが、ひたすら寂しい。

想いを寄せられた兄は戸惑うばかりで妹は汐見の持つ兄というフィルターに困惑。解説の「夢を見る人」として、藤木兄弟から恐れられた、というのは寂しいけれど真実なのだろう。

恋も愛も難しい。青年にとってはなおさら、なんだろう。

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2021年08月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

サナトリウムでの汐見の振る舞い。彼が遺した2冊のノオトには、純粋な愛と頑然な孤独が記されていた。
藤木が汐見を遠ざけていたように見えたが、違うのだろうか。藤木との別れが千枝子への愛にも影響を及ぼす。更に基督教の考え方の違いと戦争によって汐見の孤独は増す。
愛するが故に結ばれない愛。自分に厳しすぎる人達だったなあ。

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2024年03月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

かつて、藤本ひとみ氏が、コバルト文庫で活躍していた時代に、私はその作品を千切れるほど愛読していた。
10代の子供だったけれど、藤本さんの作品は少女小説という枠をはるかに超えて、若い読者に対し、愛をするとは、生きることとは、命を尽くすとは、繰り返し考えさせる物語を編んでいた。
本書『草の花』は、若い時代に受けた、あの強いメッセージと葛藤を、少し生き過ぎた私へ、再び、そして立ちどころに蘇らせた。
冒頭に、汐見のダンディズムを強く匂わせながら、彼を退場させ、遺された2冊の「ノオト」で、その過去を、生きる汐見の一人称で、現在として語らせる。この構成の巧みさが素晴らしい。
戦中から戦後に青春を送った彼が、愛の為に、孤独の為に、心を揺らすたび、鋭利な刃のように相手も自身も傷つき、傷つける生き方に、私自身の過去が重なって見えた。すべてが苦しかった、それでも目眩する程甘やかだった日々が、確かにあった。
死を忌避しながら、最期は自ら死を選び取った汐見の孤独と、その魂の透徹した美しさを描いた作品。
愛と孤独の不可分を知りながら、その身を厳しく屹立させようと生きた汐見に、もっと若い時に出会えていたら、と悔いながら、再読を誓う。

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2021年04月10日

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