あらすじ
人が生きて行くには痛みが伴う。そして、人の数だけ痛みがあり、傷むところも、傷み方もそれぞれちがう……様々に生きづらさを背負う人間たちの業を、林蔵があざやかな仕掛けで解き放つ。
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Posted by ブクログ
大坂を舞台に展開する「恨み晴らします」稼業をいとなむ ”一文字屋” の西の一派を描いた作品。
お武家でもなく百姓でもなく、増してや里の者でもないと自らを半端者と呼ぶ者たち。彼・彼女たちの活躍が多少荒っぽい古めかしい大坂弁で語られる。まるで浄瑠璃芝居のように。
今回は靄船の林蔵(もやぶねのりんぞう)が影に日向に活躍する。この林蔵という男、一見して優男。つるりとした顔にきれいな目鼻立ち。しかも言葉が巧みで人を操るのが上手い。
もはや詐欺師と言っても良いくらい。
とうてい鼻持ちならず厭な奴かと思って読んでいると(悪党一味だと思って読んでいると)意外な林蔵の正体が見えてくる。
登場人物全員が悪党には違いないのだが、その悪党ぶりが、彼らの過去にしでかした過ちの捉え方しだいで現在のあり方が違っているのが興味深い。
全七話、最終話にて巷説百物語にかかせない”小股潜りの又市”も登場し、又市・林蔵・一文字屋らとの過去の関わりも窺い知れて面白い。
クセになる文体は相変わらずで長さを感じさせない小説。
”靄船の林蔵”の靄船とは亡者が乗る幽世(かくりよ)の船であるという。気付かぬうちに乗せられて漕ぎ出され、しまいには山にまで登ってしまうという意味。
それほど巧みに読者も騙されてしまう。