あらすじ
島に生まれ、海辺で育った章太。小学四年生だが、泳ぎともぐりでは誰にも負けない少年だ。ある日、章太のクラスに佳与という少女が転校してきた。都会から来た佳与にとって、海辺の暮らしは珍しいことばかり。すぐに島になじんで明るく過ごす佳与だったが、その一方で、時に寂しげな表情を見せることに章太は気付いていく……。それぞれの悩みと悲しみを乗り越えて、大きく成長するふたりの姿を描いた表題作「海になみだはいらない」をはじめ、生きる勇気を与えてくれる名作児童文学七編を収録。
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Posted by ブクログ
「どうしてですか。説明してください」
キヨコがたずねた。
「はいはい」
とダックス先生は言った。
「ろうかはいつも右側をしずかに歩く、というのはこまるのです。火事が起こったら焼け死んでしまいますからねぇ」
「まじめにしゃべってください」
「はいはい。
あなたひとりとか、二、三人で歩いているときは、ろうかの右側を歩こうが左側を歩こうが、そんなことはどっちでもいいのです。たくさんの人間が歩くときは右側通行をまもったほうがいい。つまり、ろうか一つ歩くにしても、そのときそのようすを判断して歩くのが人間なのです。もし、まだほかのクラスが勉強中なら、今は静かに歩かないとひとのめいわくになる、そう考えて静かに歩ける人がちゃんとした人間というものでしょう。そう考えると1の目標はいらないということになります」
「いらない目標を学校がなぜ決めたのですか?」
キヨコはくってかかった。
「なかなかするどい質問ですね」
とダックス先生はあわてなかった。
「あのね。ここだけの話ですがね……」
ダックス先生は声をひそめた。
「決めたことをまもらせるのが教育だとおもってるアンポンタンの先生が、まだ、いっぱいいるのですよ」
「わあ、いうたろ、そんなこというて」とコウヘイが大声をあげた。
「あらまあコウヘイくん、そりゃないでしょう」
とダックス先生はあわれな声を出した。みんながくすくすわらった。
「2の説明もしますか」
とダックス先生はいった。
「2も3も、ちゃんと説明してください」
キヨコはいった。
「はいはい。2はですね……」
ダックス先生はたのしそうにいった。
「自由時間をどうすごすかということはとてもだいじなことなんです。あそび時間はあなたたちの学校生活の中でたった一つの自由時間ですから、あなたたちが自由に使う権利があります。本の好きな人は本を読んでもいいでしょう。音楽の好きな人は笛を吹いたり、オルガンをひいてもいいでしょう。もちろん、運動の好きな子は運動場に出てからだをうごかすのもいいのです。それぞれが自分の考えで決めればいいので、一つのことをおしつけるというのはよくありません」
「じゃ学校はよくないことを決めてわたしたちにおしつけているのですか」
「そういうふうにとらないほうがいいのではありませんか、キヨコさん」
「………」
「太陽のもとでのびのびあそんでほしいという先生たちのねがいだとおもえば、べつにどうってことないじゃありませんか。なにせ、そうとうおいぼれた先生方がたくさんいらっしゃいますからねえ」
「またいった」とコウヘイがさけんだ。
「あれまあ、また、いっちゃった」